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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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8-⑧

 侍女は目を瞬かせて首を傾げた。

 マデリンの手には猟銃の弾丸が一つ。


「これは、猟銃の弾ですよね?」

「ええ、そうよ」

「もしかして、落ちていましたか? しっかりと掃除をしていたはずなのですが」


 侍女は困ったように眉尻を下げた。


「大丈夫よ。これは私のだから。少しゆっくりしたいから、一人にしてもらってもいい?」

「はい。では失礼します」


 侍女は深く頭を下げて部屋を出て行った。

 マデリンは再び手の中の弾丸を見つめる。

 これは、ハンナが手を握ったときに渡して来たものだ。

 ハンナに狩猟の趣味はない。

 これは、おそらくアウルからのメッセージだろう。ハンナを通して連絡をしようということだ。


(ハンナなら追い返されないし、うちにも時々来ていたから怪しまれないものね)


 しかし、ハンナとアウルがやり取りしているのは、あまり想像ができなかった。

 ハンナは気兼ねなく多くの人に声をかける外交的なタイプだけれど、アウルはどちらかという内向的だ。

 アウルからしてみたら、ハンナは苦手なタイプだろう。

 マデリンのためにハンナに連絡をしてくれたと思うだけで胸が熱くなった。


(ハンナにも今度お礼をしないと)


 ハンナには関係のないことで巻き込んでいる。

 彼女は様々な社交場に顔を出し、噂話を手に入れるのが趣味だ。

 彼女のことだから楽しんで協力しているのだろう。


「でも、これになんの意味があるのかしら?」


 マデリンは弾丸を空に掲げた。

 弾丸を見て、アウルからのメッセージだということはすぐにわかった。

「ハンナを通して連絡しよう」という意味以外に、何かあるのだろうか。

 この屋敷に猟銃はないから、使うことはできない。


(ハンナに現状を伝えたから、アウルにも伝わるはずよ)


 弾丸を手に握らされたとき、すぐにハンナが連絡役なのだと理解した。

 だから、マデリンは家のことや父のことなどアウルに伝えたいことを、雑談に混ぜながら話したのだ。

 次にハンナが来るまでに、もう少し情報がないか探そう。

 情報がありすぎて困ることはないだろうから。


 ***


 アウルは手に持っていた弾丸を空高く放り投げる。

 空に舞った弾丸が再び手に戻って来たとき、扉が開いた。


「本当に人使いの荒い若様ね」


 扉の先に現れたのは、マデリンの友人であるハンナ・ベネロテ。

 彼女は腕を組み、アウルを睨みつける。

 アウルが指定した場所は王都内にある店の奥だ。貴族の子息がふだんは足を踏み入れないような場所だった。

 ここは、人知れずアウルとハンナが直接会うために用意した場所だ。

 婚約もしていない男女が会うにはリスクが伴う。そして、マデリンの父でああるトルバ侯爵がどこまでアウルを警戒しているかわからない。

 ハンナと連絡を取っていることは知られないほうがいいだろう。

 アウルはハンナを見ると、向かいの席に促した。


「マデリンは元気だったか?」

「もう……。一言目からマデリンって……」


 ハンナははぁ、と大きなため息をつく。

 そして、アウルの向かいの席に座った。


「マデリンは元気だったわ」

「怪我をした様子は?」

「なかったわ」

「歩き方が変だったりはしなかったか?」

「いつもどおりだったと思うわ」


 ハンナは不思議そうに答える。

 アウルは安堵の息を吐いた。

 マデリンがトルバ家の屋敷に戻ってから、それだけが心配だったのだ。また、トルバ侯爵に傷つけられているのではないかと。

 しかし、マデリンはそのことを隠していた。おそらくハンナも知らないのだろう。


「銃弾は渡してくれたか?」

「ええ。最初に。いろいろ話も聞いてきたわ。緊張しちゃった。どこにトルバ侯爵のスパイがいるかわからないでしょう?」


 ハンナは弾んだ声で言う。

 緊張していると言う割に楽しそうだ。

 しかし、ハンナの言う通りだった。

 スパイと言えば聞こえは悪いが、使用人たちはトルバ侯爵に雇われている。

 マデリンについて報告しろと言われてば、断ることはできないだろう。


「何かマデリンは言っていたか?」

「おじ様……、トルバ侯爵がアレス公爵家の若様と会っているそうよ」

「……あの男と?」

「ええ。わざわざ愚痴として教えてくれたくらいだから、何かあると思うの」

「そうだな」


 ルイード・アレスはいまだマデリンに執着しているようだった。

 今回の謹慎はルイードが絡んでいる可能性がある。


「少し探ってみるか……」

「しかたないから、私も手伝ってあげる。噂話は私の得意分野ですもの」


 ハンナは楽しそうに言った。


「いいのか?」

「あなたのためではないわよ? マデリンの幸せのため」

「そうか。なら、よろしく頼む」

「もちろん。その代わり、マデリンを幸せにしてね」

「君は本当にマデリンが好きだな」


 アウルは肩を揺らして笑った。


「当たり前でしょう? あなたも、マデリンのことが好きなんでしょう?」

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