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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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8-④

 それだけで、マデリンの胸が小さく跳ねた。


「お腹すいただろ?」

「ありがとう。さすがアウル。気がきくのね」


 マデリンはなんともないふりをして、アウルの向かい側に座る。

 結婚したら、こんなふうに朝から一緒だと思うと、それだけで心臓が早歩きになった。


「ルート家ったらうちから遠いから足が棒になるかと思ったわ」

「連絡をくれれば迎えに行ったのに」

「連絡が取れる状況じゃなかったの」


 マデリンは唇を尖らせた。

 あの父のことだ。

 マデリンとアウルが連絡を取る手段すら封じるつもりだっただろう。

 日が経てば経つほど、家出は難しくなる。だから、マデリンの判断は正しかったはずだ。


「屋敷で何があった?」


 アウルが真面目な顔で聞く。

 いつもの飄々とした表情とは違う。


「父が突然、狩猟大会に出るなって言ってきたの」

「狩猟大会に……?」


 アウルは眉根を寄せる。


「それに関しては私が許可を得たはずだ」

「事情が変わったのかもしれないわね。結婚式まで謹慎、しかもアウルとも会わせないって言うから……家出してきちゃった」


 マデリンは笑顔で言い切ると、朝食のサラダを口に入れる。

 アウルが肩を落とす。


「だからって、夜中に女性のひとり歩きは危険だ」

「それは反省してる。でも危険な場所は事前に調べていたから、避けてとおったのよ?」


 夜道が危険であることはじゅうぶん承知している。

 だから、女だとバレないように、帽子に長い髪を隠して歩いた。

 危険な場所は五年かけて調べ、地図にも記していったくらい準備をした。


「次は絶対に連絡をくれ。心配だ」

「わかったわ。でも、その必要はないでしょう? あともう少しであの屋敷から出るわけだし」


 マデリンはあっさりと言ったあと、暖かいスープを口にする。

 一晩中歩いた身体に沁みる優しい味だ。マデリンは思わず頬を緩めた。

 アウルはそんなマデリンを呆けた様子で見る。

 マデリンは首を傾げた。


「どうしたの?」

「い、いや。なんでもない。そうだよな。もうすぐうちに来るから、もう家出の心配もないか」

「ええ、そうでしょう?」


 アウルはけっしてマデリンを害さない。だから、家出を考える必要もない。

 五年かけて準備した道具のすべてはもう二度と使われることはないだろう。


「話を戻そう。トルバ侯爵はマデリンを狩猟大会から遠ざけたいということか」

「狩猟大会なのかしら?」


 マデリンはパンをちぎりながら言った。


「私はアウルから遠ざけたいように感じたわ」


 狩猟大会から遠ざけたいだけなら、前日でよかったはずだ。

 しかし、まだ大会には時間がある。

 マデリンの性格を考えれば、前日に強行するのが一番だと考えるのは明白だ。

 もしも、マデリンが父の立場ならそうするだろう。

 マデリンが対策できないタイミングでマデリンを閉じ込めるのが効率的だ。


「そうか」


 アウルは難しい顔で頷いた。

 マデリンはアウルの口にパンを突っ込む。


「ぐっ……! まへりん!」

「そんな顔しない。対策するために今日は来たんだから」

「そうだな。悪い」

「マデリン・トルバとアウル・ルートが手を組むのよ? 最強に決まっているわ。お父様が何を考えているのかわからないけど、よくないことだけは確かよ」


 長年父と生活してきたからこそわかる。

 父は家族には暴君のように振る舞うが、肝の小さな男だ。

 一度許可した狩猟大会参加を覆すにはそれなりの理由がある。


「どちらにせよ、私は屋敷に戻らないといけない」


 このまま家を出てしまえばいいのではないか? と考えることもある。しかし、そうすればマデリンはトルバ家の娘としてアウルに嫁ぐことができなくなってしまう。

 何もかも失ったマデリンに価値はない。アウルがそんなマデリンを受け入れる意味もなくなってしまう。

 アウルは神妙な面持ちで頷いた。

 マデリンの言いたいことがわかったのだろう。


「今後は謹慎も厳しくなるわ。屋敷から出ることはできなくなると思う」

「そうだな。見張りも厳しくなるだろうな。なら、連絡方法を決めておこう」

「連絡方法?」


 おそらく、父はアウルと手紙のやりとりすら許さないだろう。侍女の行動も制限される可能性がある。

 そうなれば、アウルとの連絡手段はなくなったに等しい。

 アウルは目を細めて笑う。


「一人、適任がいる」

「適任?」


 マデリンは首を傾げた。まったく思いつかない。


「マデリンのもとに行っても問題なく受け入れられて、私とも連絡が取れる人物だ」

「そんな都合のいい人いたかしら?」

「ああ、彼女にはこちらから連絡をとっておこう」

「もう……! 誰なの!?」

「まあまあ。会ってからのお楽しみということで。それよりも、次はどうやって屋敷に戻るか考えよう」


 そのあと、朝食を食べながら屋敷への戻り方の相談に話題が移り、結局『彼女』が誰なのか教えてはくれなかった。


 ***


 マデリンは結局、トルバ家の屋敷に戻ってきた。

 アウルが手を回し、トルバ家から歩いて三十分先の宿に一泊したことになっている。

 家出をしたマデリンは、歩いてアウルのところに行こうとしたが、途中で力尽き宿で休んでいるところを捕まった。

 そういう設定だ。

 アウルには会っていない。アウルに助けを求める手紙を送ろうとしたところを見つかってしまったことにした。

 結果、マデリンの監視は強くなったのだが、それも予想通りだ。

 しかし、一つだけ胸を痛めていることがある。

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