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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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6-①

 夜会の翌日、マデリンは侍女の言葉に目を丸くした。


「アウルが!? 本当に来ているの?」

「はい。ぜひ、お嬢様にお会いしたいと。楽なかっこうのままでいいからとおっしゃっているのですが」


 侍女が眉尻を下げながら言った。

 昨日、アウルはマデリンの傷を見ている。だから、そう言っているのだろう。


(毎日包帯を巻きに来るなんて言ってたけど……冗談、よね?)


 マデリンは昨夜のことを思い出し、苦笑を浮かべる。


「部屋に通してあげて。アウルは怪我のこと知っているから」

「かしこまりました」

「その前に着替えを手伝ってちょうだい」


 侍女は笑みを浮かべて頷くと、着替えを準備した。

 楽なかっこうでいい言われたとはいえ、さすがに寝間着で迎える勇気はない。

 なにより、アウルには少しでも恥ずかしくないかっこうで会いたかったのだ。


 準備を終えたマデリンは、アウルを迎えた。

 事前に予定を聞いていなかったから、何も用意はできなかったけれど。

 アウルは部屋に入って早々、眉根を寄せた。


「なんだ。寝てないとだめだろ?」

「そこまで重病人ではないわ。それにしても、なんで来たの?」

「婚約者にひどいいいようだな」

「婚約者だからって突然来たらびっくりするでしょう?」

「暇かと思ったんだ」


 アウルはマデリンの前に箱を出す。

 有名なパティスリーのものだ。


「これ知ってるわ。最近人気のパティスリーでしょ? どうしたの?」

「見舞い」

「ここ、すごく並ぶらしいじゃない? 使用人に並ばせたなんて話を聞いたわ」


 ここのパティシエは頑固で、貴賤関係なくスイーツを提供する。その代わり、王族だろうと並ばせるのだとか。

 しかも、中で食事を取らないと持ち帰ることは許されない。だから、使用人たちには人気の仕事なのだとか。


「先にひとりで食べるのは気が引けたから、うちの使用人二人に楽しんでもらってきた。一緒に食べよう」

「アウルったら気が利くのね。紅茶を用意してもらわなくちゃ」


 ティータイムにはいい時間だ。

 動いていないからさほどお腹は空いていないが、スイーツの一つくらいなら問題ない。


「それなら、君の侍女にすでに頼んでおいた。パティスリーでおすすめの茶葉まで用意してもらってある」


 アウルは得意げに笑った。


「そんなにいたれり尽くせりだと、裏があるのかもって心配になるわ」

「ないさ。ただ、怪我をして寝てるのは暇だろう? それに、マデリンは放っておくと無茶をすることがわかったから、監視をしておかないと」

「失礼ね。私だって休むときはきちんと休むわよ」


 マデリンは頬を膨らませる。

 子ども扱いされるのはいやだった。アウルとは対等でありたい。そう思うのは間違いだろうか?


「足の調子はどうだ?」

「悪くないわ」

「そうか。うちで使ってる塗り薬を貰ってきた。傷によく効く」


 アウルがたっぷりと薬の入った瓶をマデリンの前に置いた。


「うちにもあるのに」

「もしかしたら、こっちのほうが効くかもしれないだろ?」


 アウルは真面目な顔で言った。

 マデリンの傷を心配しているのがわかる。


「ありがとう。試してみるわ」


 マデリンが言うと、彼は満足そうに頷いた。

 少しのあいだ談笑していると、侍女が紅茶を準備して戻ってくる。

 いつもとは違う香り。アウルが持ってきた紅茶なのだろう。

 侍女が、紅茶とともにアウルが買ってきたスイーツを盛りつけていく。


「お嬢様、おいしそうですね」

「そうね。それにぜんぶ綺麗。宝石みたいね」


 令嬢たちから人気になるのも頷ける。

 令嬢たちはキラキラしたものが大好きだ。そして、彼女たちは新しいものを好む。

 宝石のように艶々と輝くスイーツは、令嬢たちを虜にする魔法が掛かっているに違いない。


「でも多すぎない?」


 二人で食べるには量が多い。


「マデリンが食べたい分を選んだら、残りは君たちに」


 アウルは侍女を見上げて言った。侍女は驚き、目を丸くする。


「わ、私たちにですか!? こんな高価なものをいただけません!」

「これは賄賂だから、気兼ねなく受け取ってくれ」

「賄賂……ですか?」

「そう。マデリンの一番側にいる君とは仲良くなっておきたいからさ」


 侍女は困ったようにマデリンとアウルを交互に見た。

 マデリンはそれを咎めるつもりはない。厳しい主人ならばそれを許さないだろう。

 しかし、マデリンはそうではなかった。


「私たちはここでティータイムを楽しむから、君は仕事仲間と休憩してくるといい」

「アウルもそう言っているし、行ってきてもいいわよ」

「ですが……」


 侍女は眉尻を下げる。

 真面目な彼女には仕事をサボるようで不安なのだろう。


(しかたないわね……)


 マデリンは小さくため息をつく。そして、腕を組んだ。


「このスイーツ、量が多すぎるわ。私がぜんぶ食べたら太っちゃうの。あなたが責任を持って処分して」

「お嬢様……」

「私の婚約者が買ってきてくれたものなんだから、捨ててはだめよ!」

「は、はい……!」


 侍女はペコリと頭を下げると、残ったスイーツを手に部屋を出ていった。

 アウルが肩を揺らして笑う。


「さすがだな、マデリン」

「それで、二人きりになりたかった目的はなに?」


 マデリンはまっすぐアウルを見た。



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