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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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4-⑦

 侍女と会話を楽しみながら、就寝の準備をしていたときのことだ。


「マデリンッ! おまえというやつは!」


 怒鳴りながら、真っ赤な顔で部屋に入ってきたのは父だ。

 その表情は一目で怒っているとわかる。

 侍女は櫛を持つ手を振るわせた。

 マデリンは侍女を見上げると、にこやかに笑う。少しでも安心させられたらと思ったからだ。


「お父様とはいえ、淑女の部屋にノックもなしに入るなんて失礼です」


 父は返事よりも先に、マデリンの頬を打つ。


 パンッ。


 小気味いい音が耳の奥に響く。

 マデリンは父を睨みつけた。理由もわからず叩かれる道理はない。

 それがたとえ、親と子という関係だったとしてもだ。


「出せ!」


 父がそう言うと、後ろから使用人が入ってきて、マデリンのベッドの下に手を伸ばす。

 マデリンは慌てて叫んだ。


「いや! 私の物に触らないで!」


 使用人が隠していた猟銃を取り出す。

 マデリンは慌てて駆け寄り、使用人から猟銃を奪った。


「誰がこんなものを持っていいと言った!?」


 父の地響きのような声が部屋に響く。


「これは猟銃である前に、お祖父様の形見です。なんでお父様はこれを持つことを否定するの!?」


 マデリンは必死に猟銃を抱きしめた。

 これだけは失いたくない。

 マデリンにとって、運命だから。

 父はマデリンの質問には答えなかった。

 猟銃を持つことを嫌う理由があるのか、それとも大した理由はないのか。マデリンにはわからない。


「今すぐ手を離せ。今、手を離したら許してやる」


 父は怒りに満ちた声で言った。

 脅しのような言葉にマデリンは、唇を噛み締めた。


「お嬢様……」


 心配そうに侍女が声をかける。彼女は手を離したほうがいいと言いたいのだろう。


「大丈夫だから、あなたは外に出ていなさい」


 マデリンの言葉に侍女は頷かなかった。

 青い顔をしながら頭を横に振る。


「なぜ、親の言うことが聞けない!?」

「私は悪いことをしていないわ。なぜ、すべて従わないといけないの? 私はお父様の人形ではないわ!」


 マデリンは人間だ。

 なぜ、父はマデリンを人間として見てくれないのだろうか。

 なぜ、マデリンのすべてを否定するのだろうか。


「鞭を持って来い!」


 父が叫ぶ。

 それでもマデリンは猟銃を離さなかった。


 ***


 マデリンはベッドの上で小さく笑った。

 しかし、それとは真逆に侍女の顔は真っ青だ。


「お嬢様……」

「そんな顔しないの。お祖父様の猟銃は守れたし、じゅうぶんよ」

「ですが……。せっかくよくなったばかりでしたのに」


 腫れあがった足に侍女が薬を塗り込む。

 マデリンは痛みに眉根を寄せた。


「誰が告げ口をしたのでしょうか……。お嬢様の猟銃の場所は誰も知らないはずです」

「わからないわ。でも、誰でも掃除に入って来れたから。もしかしたら、父に監視するように言われていたのかもしれない」

「そんな……」

「私が間違いだった。これだけでも自分の手元に置いておきたいと思ったけど、アウルに預けるべきだったのかも」


 一つくらい隠し通せると思っていた。

 けれど、この屋敷にプライバシーを守れるような場所はないと気づくべきだったのだ。


「猟銃をアウルの元に届けてくれない?」

「いいのですか?」

「ええ、そのほうが安全だから」


 父のことだ。

 マデリンがいないあいだに処分してしまうことは想像できる。

 ずっと猟銃を持って歩くことはできない。だったら、アウルに任せるのがいいのだろう。

 本当であれば、最初からそうすべきだったのだ。

 けれど、この猟銃はマデリンの運命であり、祖父の形見。そして、この一丁がマデリンの人生を変えたのは間違いない。

 だから、いつでも見ることができる場所に置いておきたかった。


「ではお嬢様はゆっくりなさってください」

「ええ」

「猟銃を預ける際、夜会の旨を伝えますか?」


(夜会……)


 マデリンはちらりと自身の膝裏を見る。

 腫れあがった足は今のところ歩けるような状態ではない。

 夜会は三日後に迫っていた。

 断るのは簡単だ。

 きっと、アウルは理由を言わずとも納得してくれるだろう。


「いいえ、行くわ」

「こんな足ではダンスだって踊れませんよ?」

「大丈夫。一曲くらい」


 侍女が眉尻を下げる。

 心底心配そうな顔にマデリンは笑った。


「嘘。ダンスは踊らないから。安心して。それよりも早く、アウルのところに持っていって。お父様が帰ってきたら面倒だから」

「はい。お嬢様、くれぐれも安静になさってくださいね」

「ええ。いい? アウルに昨日のことは言ってはだめよ? アウルには『お父様が口うるさいから、預かっていてほしい』と伝えて」

「かしこまりました」


 侍女は頭を下げると、猟銃を持って屋敷を出た。

 マデリンは部屋で一人、枕に顔を埋める。

 アウルに一番知られたくない秘密。それは、膝裏の傷だ。

 この傷のことだけは知られたくはない。

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― 新着の感想 ―
父親が膝裏を鞭打つなら逆に膝表を撃ち抜いてあげれば良いのに。せっかく今は手に銃を持ってるんだから有効利用しないと(^_^;)
あっ…?!嘘でしょ、追いついちゃった〜(T ^ T)
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