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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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4-④

 アウルの祖父はスープを一口、口に含むと小さく息を吐く。

 マデリンは思わず呟いた。


「そんな話、聞いたこともなかったわ」


 思い返せば、「アウルはどうだ?」と聞かれたことはあったかもしれない。

 けれど、核心に迫るようなことを言われたことはなかった。しかし、内心では期待していた部分はあったのだと思う。

 祖父はアウルとの結婚話を進めているのではないか、と。


「二人で駆ける姿を見ながら『あの二人はお似合いだと思わないか』とよく言っていた」

「そうだったのですね」

「それだというのに、あいつときたら……」


 アウルの祖父は再びため息をつく。

 祖父は結局マデリンとアウルの婚約を決めはしなかった。そう、言いたいのだろう。


(多分、私のせいよね)


 マデリンが素直にならなかったからだ。

 もしも、あのときマデリンが素直な気持ちを祖父に伝えていたら、この五年間はまったく違うものになっていただろう。

 今さら後悔しても遅い。

 そして、結局マデリンはアウルの隣に立つことができている。

 想像している形とは違うーーとても不安定な形ではあるけれど。


「もっとお祖父様のお話、聞かせてください。昔の話とか」

「昔か……。そんな昔話を聞いて楽しいか?」

「ええ、とても」


 家族は祖父の話をしたがらない。

 父が祖父を毛嫌いしているからだろう。

 母や兄は父の顔色をうかがって生きている。


 それから三人はアウルの祖父が満足するまで話をした。

 何より、祖父のことを口にできることが幸せだ。家族なのに、屋敷では誰も祖父の話をしない。

 誰もマデリンの話は聞いてくれない。

 しかし、ここには二人もマデリンの話を聞いてくれる人がいる。それだけでじゅうぶんだった。


「長く話してしまったね」

「いえ、私も夢中になって話してしまいました」


 アウルの祖父が嬉しそうに目を細める。

 彼と話をしていると、祖父が戻ってきたような気持ちになった。


「若い二人を拘束し過ぎたな。せっかくだから、アウルのコレクションを見ていくといい」

「お祖父様っ!?」


 今まで落ち着いていたアウルが、慌てたように立ち上がる。

 マデリンは首を傾げた。


「コレクション?」

「ああ、聞いていないかい?」

「はい。あなた、何か集めているの?」


 貴族には一つの物を夢中で集めるコレクターは多い。

 絵画、宝石、壺、帽子、靴。そんな物を一所懸命に集めるのだ。

 マデリンの祖父は猟銃を集めていたし、父は喫煙用のパイプを集めるのが趣味だ。

 しかし、アウルにそういう趣味があるようには見えない。

 いや、マデリンが知らないだけかもしれないが。


「せっかくだから見せてやればいい」


 アウルの祖父は楽しそうに笑う。


「まだ心の準備が……」


 アウルは小さな声でブツブツと呟くように言った。

 俄然、興味が湧いた。

 何をコレクションしているのだろうか。彼は何が好きなのか。

 マデリンはあまりアウルのことを知らない。だから、知りたいと思った。

 マデリンは満面の笑みを浮かべる。


「では、見せてもらってきます」


 アウルの祖父は満足そうに何度も頷く。


「それがいい。ほら、アウル。案内してやりなさい」


 アウルの祖父はまだ渋るアウルを、部屋の外へと追い出したのだ。

 アウルとマデリンは並んで廊下を歩く。


「おじい様、お喋りなのは変わらないわね」

「ああ、悪いな。付き合わせて。いつもの三倍は話していた」

「別に気にしてないわ。お茶会よりもずっと楽しかったもの。でも、次は事前に教えて。手土産を用意したいから」

「悪い。今朝、急に思いついてさ」


 アウルは恥ずかしそうに言った。

 本当ならもっと怒りたいところだが、あまりたくさん怒る気になれないのは、ルート家の訪問が楽しかったからだろう。


「なら、私のお願いも聞いてくれる?」


 マデリンは笑みを浮かべる。今なら誘える。そう、思った。

 今日はずっと言い出すタイミングを伺っていた。馬車の中、美術館。けれど、勇気がでなかったのだ。

 アウルは不思議そうに首を傾げながらも、頷く。


「私にできることなら」


 マデリンは一枚の招待状を取り出した。

 そして、アウルに差し出す。

 心臓が早歩きになった。


「これに付き合ってほしいの」

「夜会?」

「そう、五日後だから無理にとは言わないわ」


 心臓が駆け足になったせいが、マデリンの口調も早くなる。

 アウルはわずかに驚いたように目を見開いたあと、小さく笑った。


「夜会嫌いなのに珍しいな」

「社交は大切よ」

「マデリンの言葉とは思えないが」


 アウルは肩を揺らして笑った。

 からかわれているようだ。

 マデリンは頬を膨らませる。


「それで、来るの? 来ないの?」


 また、いやな言い方になってしまった。

 もっとうまい言い方があるはずなのに。


「行くよ。五日後は何も予定もないし、マデリン一人で行かせられないし」

「そう……。ありがとう」


 マデリンは素っ気なく答える。小さくお礼を言うのがやっとだった。内心は跳びはねたいくらい嬉しいというのに。

 安堵したと同時に、マデリンは急に恥ずかしくなった。


「それで、おじい様がおっしゃっていたコレクションのことだけど」


 アウルがびくりと肩を跳ねさせる。

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