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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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3-⑧

「誰かと思ったわ。あのときの、あられもない姿をしていた方ね。顔を見ていなかったから気づかなかったの。ごめんなさい」


 ナターシャは目を釣り上げた。


「誰のせいであんなことになったと思っているのよ!?」


 ナターシャの苛立ちの声に会場が静まりかえる。

 視線がナターシャとマデリンに集中した。

 苛立つナターシャとは反対に、マデリンは冷静だった。


「あんなことになったのは、かわいそうではあったけれど、ドレスを脱いだのは自分でしょう?」


 銃声を聞いて大勢の人が集まったとき、ナターシャは豊満な胸をさらけ出した状態で倒れていた。

 銃声だったからか、そこには多くの男たちが集まっていた。


「あなたのせいで、私は男たちからいやらしい目で見られているのよ!」

「恨むなら私ではなく、すぐに守ろうとしなかった婚約者さんではなくて?」


 ルイードは彼女のすぐ隣にいた。

 彼女のことを守ろうと思えばすぐに動ける距離だった。

 しかし、彼は自分のことしか考えていなかったのだ。

 彼はそういう男だ。その苛立ちをマデリンにぶつけられても困る。

 なぜマデリンが浮気相手を助けなければならないのだ。

 マデリンからすればナターシャは、婚約者を奪おうとしている悪女だ。彼女の名誉を守る義務がどこにあるというのだろうか。


「ルイード様に愛されなかったからって、彼を恨まないで!」


 ナターシャの言葉にマデリンは小さく笑った。


(馬鹿ね。あの男に愛されていると本気で思っているの?)


「何よ!?」

「なんでもないわ。私は二人の幸せを願っているわ。本当よ」

「負け惜しみ? 自分はあんな男としか結婚できないから」


 ナターシャはマデリンを鼻で笑った。


「あんな男?」

「そうじゃない。アウル・ルート。冴えない男」

「そう? そう思うならそう思っていればいいわ」


 マデリンは小さく笑うと、ティーカップを持った。


「言い返せないでしょ? 本当はルイード様を奪われて悔しいのではなくて?」

「それであなたの自尊心が満たされるなら、そう思えばいいじゃない」


 ベルガモットの香りを感じながら、マデリンは紅茶を口にする。


(このお茶会は失敗だったわね)


 まさかナターシャが参加するとは思ってもみなかったのだ。

 主催者も主催者だ。因縁のある二人を同時に招待するなんて馬鹿げている。

 もしかしたら、マデリンはどうせ来ないと思っていたかもしれない。


「一つだけ言っておくわ。アウルはいい男よ。誰がなんて言おうとね」

「どこが? ルイード様の足元にも及ばないじゃない」


 ナターシャは優越感に浸った目でマデリンを見下ろした。

 マデリンはため息をつく。うるさいハエがずっと周りを飛んでいるような気分だ。


(視線もうるさいし、終わらせようかしら?)


 マデリンはしかたなく立ち上がった。

 正直彼女のことはどうでもいい。ルイードとの婚約破棄は願ってもみないことで、彼を奪ってくれたナターシャには感謝すらしている。

 だから、あまり虐める気にはならない。

 しかし、ブンブンとうるさいハエを追い払うのは許されるだろう。

 マデリンは一歩、彼女に近づいた。


「少なくとも、アウルはおもらしはしないわ」

「なっ……!」


 マデリンの言葉に周りがくすくすと笑う。

 ルイードの失禁は多くの人の耳に入っていたようだ。

 マデリンはもう一歩、彼女に近づく。


「それに、婚約者がいながら、他の女に手は出さない」

「それはあなたに魅力がなかったからでしょ!?」

「そうだといいわね」


 随分と自分に自信があるようだ。

 ルイードが一人の女に尽くすとは思えない。あの男は女を愛するような男ではない。愛しているのは自分だけ。

 それにナターシャが気づくのはもう少し先だろうか。


「それに、私は優しい男が好きなの」

「ルイード様が優しくないと言いたいの!?」


 ナターシャは叫ぶ。

 マデリンは肩を竦めた。もう未練はないと示したつもりだったが、ルイード悪く言われて怒っているようだ。

 褒めたら褒めたで「やっぱり未練があるのね!」となるのは明白だった。


(本当に面倒ね)


 ルイードはマデリンの人生の第二章で退場した登場人物だ。いまさらなんの興味もない。

 ナターシャとどうなろうとマデリンには関係がなかった。

 マデリンは一歩、前へと進む。


「私はもうあなた達とは関係ない。だから、これ以上私の周りをブンブン飛び回らないで」


 マデリンが言った瞬間、ハンナが後ろで吹き出した。


「ブンブンって……ハエじゃないんだから」


 彼女はアハハと笑い声を上げる。

 ナターシャの顔はみるみるうちに赤くなった。顔どころか、豊かな胸ーーデコルテまで真っ赤だ。

 キッとマデリンを睨みつける。


「そんなふうに偉そうにしていられるのも、今のうちよ!」


 ナターシャはそれだけいうと、バタバタと走って行った。

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