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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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3-⑥

 侍女の声が部屋中に響く。


「ええ、そうよ。ドレスは紺がいいんだけど……。紺はあまり持っていないのよね」

「そんな! 急すぎます」

「しかたないじゃない。今日知ったのだもの。準備はできるでしょう?」

「準備はできますよ! でも、その足でどうするんですか!?」


 侍女は青い顔で言う。

 自分のことのように心配する彼女にマデリンは眉尻を下げた。


「少しくらい大丈夫よ」

「大丈夫ではありませんよ。こんなに痛がっているのに」

「平気。包帯をすれば一晩くらい」

「この足でダンスなんて踊れないでしょう?」


 たしかにダンスは難しいかもしれない。

 歩くたびに痛むのだ。

 慣れた痛みだから平気な顔はいくらでもできる。

 けれど、ダンスは足をよく使うから耐えられないかもしれないと思った。


「でも、大丈夫。だって、アウルは私をダンスに誘わないと思う」

「どうしてですか?」

「一度も誘われたことがないわ」


 そして、彼がダンスを踊っているところを一度も見たことがない。

 婚約者ともただの一度も。

 なんとなしに聞いたことがある。


『婚約者さんと踊らないの?』

『彼女も私もダンスは苦手だから』


 そんな会話をした記憶があるのだ。

 マデリンもダンスはほとんどしない。ルイードに付き合って一回は必ず踊っていたが、他の誘いはほとんど断っていた。


「誘われないとは限らないじゃないですか」

「絶対にないわよ」


 一緒にダンスが踊りたいなんてわがままを言うつもりはない。

 マデリンは明日つける装飾品を選びながら鼻歌を歌った。


 ***


 好きな人の隣に立つ。

 それがこれほど緊張するものだと、誰も教えてはくれなかった。

 彼の腕に回した手が熱い。この熱に気づかれてしまうのではないかと思うと、ひやひやした。

 今日の夜会はアウルの友人が主催をしているらしい。

 アウルがマデリンを紹介すると、友人はにやにやとしながらアウルを小突いた。


「アウル、一人で来るとか言わなかったか?」

「いや、まあ。そうなんだが」


 アウルが口ごもる。

 なんと説明していいかわからない。そんな感じで。

 冗談の言い合える仲なのだろう。しかし、置いてけぼりは少々気に食わない。

 マデリンは笑みを浮かべた。


「時間が取れたので、一緒に来てしまいました。ご迷惑でしたか?」

「い、いえ……。全然。楽しんでいってください」

「ありがとうございます」


 アウルの友人はたじろいでいたが、気にしない。

 マデリンとアウルは何度かの挨拶を終えて、壁際に佇んだ。

 アウルは小さく息を吐く。


「相変わらずアウルは社交が苦手ね」

「マデリンは得意そうだ」

「得意なわけじゃないわ。堂々としていたら、相手が気を使ってくれるって気づいたの」


 最初はどう返事をしていいかもわからなかった。

 ルイードの婚約者として振り回される中で、多くの貴族との交流を余儀なくされた。

 もともとマデリンはお茶会すら参加していなかったのだ。うまく答えられるわけがない。

 はじめのうちはルイードにどれほど叱責されただろうか。

 父とルイードは似ている。

 苛立ちをマデリンにぶつけるところがとくに。


「いやなことを思い出しちゃった。お酒でも飲みましょう」


 マデリンはワイングラス二つ手に取ると、アウルに差し出す。

 アウルは一気にワインを煽った。


「うまいな」

「そうかしら?」


 ワインの美味しさはわからない。

 大人になって口にしてもただ、渋いだけのように感じる。

 だから、このワインを美味しいというアウルが大人のように思えた。

 マデリンは舌を濡らす程度の量を口に含む。

 ワインを楽しめるようになったらもっと人生はたのしいのだろうか。

 マデリンは渋みに顔を歪めた。


「ワインが苦手なら、ジュースを頼もう」


 アウルがマデリンのワイングラスを奪う。


「あっ! ちょっと」


 アウルは流し込むようにワインを飲んだ。そして、ふらっとどこかへ行くと、フルーツジュースを手に戻ってくる。


「ほら」

「子ども扱いしないで」

「子ども舌なのは本当だろ?」


 マデリンは文句を言いながらもフルーツジュースを飲んだ。

 子ども扱いされるのはいやだったが、もらったフルーツジュースはワインよりもおいしかった。

 アウルは三杯目のワインを手に並んで立った。

 肩がぶつかりそうな距離。

 酔ってもいないのに、心臓が早歩きになる。

 マデリンはフルーツジュースを揺らしながら言った。


「これからは……」

「ん?」


 アウルが首を傾げる。


「これから夜会に行く予定が入ったら、事前に相談してちょうだい」


 アウルは意味がわからないのか、目を瞬かせた。


「だから、アウルは社交が苦手みたいだから、私がそばにいてあげるって言ってるのよ」

「なんだ、そういうことか」


 アウルはにへらと笑った。


「ありがとう、マデリンは優しいな」


 彼は目を細めて笑う。

 マデリンは彼から目をそらした。


「なぁ、マデリン」

「なに?」


 アウルは


「一曲どうだ?」


 マデリンは彼の言葉が理解できなかった。

 一曲。そんなの、ダンスしかないのに。


「何を言ってるの突然」

「そういう気分なんだ。どうだ?」


 アウルがマデリンを見つめる。

 マデリンは俯いた。

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