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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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2-⑤

「あら、アウル。あなたは相変わらず暇そうね」

「まぁね」


 アウルは肩を竦めた。

 こういう彼女のいい方は昔から変わらない。


「婚約者さんはいいの?」

「彼女は友人たちとおしゃべり中だ。君のほうこそ」

「私も同じようなものよ」


 マデリンの婚約者であるルイードはまだ人だかりの中心にいた。

 彼女はルイードをつまらなさそうに見る。彼女にとって、ルイードはどんな婚約者なのだろうか。


「大人ってつまらないわね」

「え?」


 マデリンはぽつりとつぶやいた。

 あまりにも突然のことでアウルは目を丸くする。


「こんな箱の中でワインとおしゃべり。それとダンス。何十年もこれを続けると思うと、うんざりするときがあるわ」

「そうだな」


 アウルは頷くしかなかった。

 アウルにとっても社交の場は楽しいものではない。しかし、少し嬉しくもあった。

 マデリンが同じようにつまらないと感じていると知ったからだ。

 アウルは小さく笑った。

 すろと、彼女が眉根を寄せる。


「一人でにやにやしちゃって。何が面白いの?」

「別に。ただマデリンは変わらないなと思って」


 相変わらず社交場はあまり好きではないらしい。

 祖父たちと狩りに行っていた時もよく言っていた。

『お茶を飲んでおしゃべりをして何が楽しいのかしら?』と。

 そんな彼女がアウルは好きだ。


「そうかしら? 私は自分がどんどん変わっていっている気がするわ」

「身長は伸びたと思う」

「そういう話じゃないわよ。どんどん、諦めることがうまくなった気がするの」


 マデリンは小さく笑った。

 その笑顔がなんだかさみしそうで、アウルはなんと声をかけていいか悩んだ。

 アウルはただの友人だ。

 友人に許されるのはどの範囲だろうか。


「いやなことがあるなら話を聞こうか?」

「何よ。慰めてくれるの?」

「これでも話を聞くのは得意なんだ。祖父で慣れているから」

「ルート侯爵はおしゃべりがお好きですものね」


 マデリンは肩を揺らして笑った。


「大丈夫。大したことじゃないの。大人になるに連れて憂鬱になることってあるでしょう?」

「そうか。あまり無理はするなよ」

「あなたもね」


 彼女の言葉にアウルは小さく頷く。

 彼女はほとんど弱音を吐かない。

 そんな彼女にもどかしさを感じることがある。


「マデリン」

「なに?」

「……いや、暑いな。外の空気を浴びてくる」

「そう。またね」


 アウルはマデリンから離れると、バルコニーに出た。冷たい風がアウルを包み込む。

 大きなため息がもれた。

 四年経った今も、言えない言葉がある。


『一曲どうだ?』


 たったその一言が言えない。

 もう四年だ。彼女が社交界にデビューしてから何度も機会はあった。

 友人がダンスに誘ってはいけないというルールはない。

 しかし、なぜか彼女を誘うことができなかったのだ。

 アウルはバルコニーの手摺に腰かけ、空を見上げる。

 満天の星々だ。

 一人で見ても何も感情は動かされない。


 ***


 猟銃を一丁持って帰ったのを見た祖父が、小さなため息をついた。


「おまえ、まだ探していたのか?」

「お祖父様」

「それはトルバ家のだろう?」

「ええ、あと一丁なんです」


 祖父は苦笑をもらす。


「その一丁を見つけたらどうするつもりだ?」

「どう……。考えてもいませんでした」


 アウルは小さく笑った。

 どうするつもりで探しているのかは自分自身もよくわからなかった。

 ただ、マデリンにとってこれらは大切な物だ。だから、欲しいと思ったときにすぐに彼女の手に戻るようにしておきたかったのだ。

 友人として、アウルができるただ一つのことだと思ったから。


「そろそろ自分の未来を考えろ。婚約者だっているんだ」

「そうですね。でも、あと一丁だけ。そうしたら、満足するので」


 最後の一丁が見つかれば、この気持ちにも区切りがつけられるだろう。

 五年経っても時間は解決してくれなかった。

 残りの一丁は一番探している猟銃だった。彼女がいつも使っていたものだ。

 その一丁だけは何が何でも見つけたかった。彼女にとって思い出が一番詰まっているものであることは、想像にたやすい。


「おまえは頑固だなぁ。誰に似たんだか」

「お祖父様ですよ」

「そうか、そうか。どうだ? あの子は元気か?」

「どうでしょうか?」


 会えばいつもと変わらない。

 しかし、元気と言えるのだろうか。

 彼女の婚約者であるルイードの噂はアウルの耳にも届くほどだ。

「結婚までのお遊びだろう」と言う人はいるが、結婚で変わるという保証はない。

 しかし、噂程度で彼らの婚約がどうこうなるとは思えなかった。


「あの子は強い。きっと、あの子なりの幸せを手に入れるんだろう」

「そうですね。そう思います」


(でも、少しくらい弱音を吐いてくれれば……)


 そうすれば、アウルは友人として手助けができると思ったのだ。

 彼女が「平気」と言うたびにアウルの手番はなくなっていく。


「おまえはおまえのやれることをやりなさい」

「お祖父様、いつになく優しいですね」

「おまえは一言多い。心配してやっているというのに」


 祖父は小さくため息をついた。


 マデリンの最後の猟銃を見つけたのはそれから数か月後、王家主催の狩猟大会の前日のことだった。


 ***


 狩猟大会から帰ってきた日、アウルはずっとうわの空だった。


(マデリンと結婚……?)


 いまだ信じることができない。

 その日一日起こったことはまるで夢の中の出来事のようだったのだ。

 彼女は自分の力でルイードとの婚約破棄を勝ち取った。少々荒々しいところはあったが、彼女らしい。


「アウル、聞いているの!?」


 母の怒鳴り声でアウルは我に返る。

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