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【完結】5年続いた男女の友情、辞めてもいいですか?  作者: たちばな立花


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2-④

 相手を傷つけず、断る方法。

 ありがたいことに、アウルの両親はアウルの結婚を勝手に決めようとはしなかった。

 家によっては家同士の繋がりのために、勝手に決めてしまうこともあるというのに。

 そして、ルート侯爵系も貴族の中ではそれなりの位置にいるため、今のところ相手は選びたい放題の状態だ。

 しかし、アウルにとって、選びたい一人はもう別の相手と婚約しているのだから、何の意味もない。

 マデリンがいないのならば、一人もいないのと同じだった。


「あの……」


 エミリアはおずおずとアウルに話しかけた。

 甘いピンクブロンドの彼女は潤んだ瞳でアウルを見上げる。


「このようなお時間をいただいたのですが、どうかこの話を断ってはいただけないでしょうか?」


 想像していなかった言葉に、アウルは目を見開いた。

 それを、「否」ととったのかエミリアはさらに言葉を続けた。


「その……お慕いしている方がいるのです。その方のことを思いながら婚約など私にはできません……。ですが、両親はこの見合いをどうにか成功させたいと思っているようで……」

「私に断ってほしいと?」


 アウルの問いにエミリアは小さく頷いた。


「いくらでも私のことを悪く言っていただいてかまいません。どうか、お願いします」


 エミリアは深々と頭を下げた。

 彼女のつむじを見つめながら、アウルは内心安堵した。


(今日はどうにかなりそうだ)


「わかりました。こちらからお断りするようにします」

「ありがとうございます!」


 彼女はパッと頭をあげると、嬉しそうに笑った。


「そんなに慕っているなら早く婚約したほうがいい」

「……え?」

「いや、ただのお節介です。気持ちに気づいているなら、素直になったほうがいい」


 アウルは苦笑をもらした。

 自分自身に何度も言ったことだ。

 素直になっていれば、今もマデリンは隣で笑顔を向けてくれていたかもしれない。

 エミリアは俯いた。そして、ポツリと呟く。


「できないんです……」

「できない?」

「はい……。その、身分が……」


 エミリアはだんだんと声を小さくした。


「それは失礼。よけいなことを言いました」

「いいえ。今は彼と一緒になる方法を探しているんです」


 エミリアは困ったように笑う。

 しかし、彼女の目には希望があった。

 だからだろうか。気づいたら、アウルは口を開いていたのだ。


「なら、婚約しませんか?」

「……え?」


 エミリアは目を丸くした。


「カモフラージュとしてです。あなたが愛している人と一緒になる方法を見つけるまで」

「で、ですがそれではアウル様になんのメリットもありません」

「ありますよ。私もとうぶん結婚を考えたくなかったんです。あなたが婚約者になれば、両親は何も言わない。それだけでじゅうぶんです」


 一年でも二年でもいい。

 アウルには一人になる時間がほしかった。

 この感情を整理するには時間がかかりそうだったからだ。


「では……。二十歳になるまで。それでいかがでしょうか?」

「それくらいがいいですね。結婚の話が進む前に婚約は破棄しましょう」

「はい。よろしくお願いします」


 アウルはエミリアの手を取った。

 これでいい。

 これで、気兼ねなくマデリンの友人でいられる。


 ***


 エミリアと仮初の婚約をして四年。時間をかけて少しずつエミリアのことを知るようになった。

 エミリアの相手は屋敷に勤めている騎士。

 両親には秘密の関係らしい。

 アウルは彼女のために、彼女と出かけては騎士との密会の手伝いをしている。

 そのあいだは誰にも文句を言われず、猟銃探しができた。

 だから、文句はない。

 エミリアと騎士もアウルに感謝し、猟銃探しを手伝ってくれている。三人は良好な関係を築いていた。


 アウルはエミリアとともに夜会に参加した。

 社交場に行かないと両親が心配するからだ。彼女にはこうしてときどき付き合ってもらっている。


「いつも付き合ってもらって悪いね」

「いえ……。私のほうこそいつも付き合っていただいている身ですので」


 エミリアは遠慮がちに笑う。

 彼女の本物の恋人である騎士のことを思うと、申し訳なく感じる。彼は一度も彼女をエスコートすることができないからだ。

 まだ今後のことは決めていない。

 彼女は十九歳になった。

 あと一年。

 彼女はどういう決断をくだすのか。そして、この契約が終わったあと、アウルがどうするかは決めていない。

 五年もあれば決心がつくと思っていた。――他の女性と結婚する決心だ。

 しかし、アウルの心を占めるのは、一人の女性だった。


「今日もマデリン様が来ていらっしゃいますよ」


 エミリアがこっそりと耳打ちした。

「気づいていた」とは言えず、「本当だ」と返事をする。

 エミリアにはマデリンのことは言っていない。しかし、彼女はある程度気づいているのだろう。

 アウルが結婚をしたくない理由がマデリンであることを。


「ご挨拶しますか?」

「もう少しあとにしよう」

「そうですね。今は人も多いですし」


 エミリアはにこりと笑う。

 マデリンの周りには人が集まっていた。

 結婚すれば公爵夫人だ。彼女と繋ぎを作りたい人であふれている。

 そのあいだに最低限の社交を済ませておくことにした。

 公爵家ほどではないにせよ、ルート侯爵家もそれなりの家柄だから、挨拶に来る人も多い。

 そのたびにエミリアには迷惑をかけていると思っていた。


「ごきげんよう、アウル様、エミリア様。本日もお似合いですね」


 声をかけられて、アウルとエミリアは笑みをはりつかせた。

 四年経ってもこのやり取りは苦手だ。似合いだと言われるのも、あまりいい気はしなかった。

 それはエミリアにとっても同じだろう。

 やはり、世辞だということはわかっている。しかし、それでも楽しい気持ちにはならなかった。


 夜会の中盤に差し掛かかったとき、マデリンが一人になった。

 そうすると、エミリアがアウルに目配せし、さっと離れていく。彼女は友人のところへと行ってしまった。

 アウルは何食わぬ顔でマデリンに近づく。


「やあ、マデリン。今日も人気者だな」

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