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ガチャ059回目:火攻め

 イリスを砦に投擲して数分。彼が見張り台にいるゴブリンをこっそり始末したのを感知した俺は、他の見張り台からは見えない死角にいた外のゴブリンを斬り捨てていた。そうして俺の『暗殺術』もレベル3に上昇したところで、見張り台の外壁を伝って、虹色の液体がボトッと落ちていく姿が見えた。

 そして起き上がったイリスは、ゴロゴロと転がり砦を離れていく。その奇怪な存在を見つけたゴブリン達は、応援を呼びイリスを追いかけるが……。それは当然罠であり、砦から視界の通らない所まで来た連中を2人で一網打尽にする作戦だった。


「よし、追っかけてきた連中は、片付いたな」

『プル!』

「それでイリス、どうだった? 中の様子は」

『プル~』


 イリスが触手を伸ばし、そこから人間の手を再現するかのようにじゃんけんのパーを出した。


「……5?」

『プル~』


 そのまま次は輪っかを作る。これはまあわかりやすい。


「50体?」

『プル!』


 ピョンと跳ねて答えてくれる。なるほど、中は50体ほどか。

 ……まあ遠距離さえいなけりゃ、いけなくもないかな? 今倒した連中は砦の外周で警備にあたっていた連中だから、数には含めないとしてもだ。


「ホブはいたか?」

『プル』

「2体と……。ジェネラルは?」

『プル~』

「0と。弓持ちは?」

『プル~』

「こっちも0と。キングは?」

『プルー』

「ん? 中にはいないけど、砦の西側にいた? なるほどな」


 ホブ2体、キング1体、雑魚40体か。ふーむ、雑魚だけならまだしも、そいつらがいる中での正面突破は厳しめだなぁ。

 そんな事を考えていると、イリスが触手を伸ばして何かを懸命に伝えようとしていた。


『プル! プルプルプル!』

「ん? ……ダンジョン方面?」

『プル! プルルルル~~!』

「そっちに夢中になってる?」

『プル!』


 なるほど、さっきの先遣隊に集落は任せて、ダンジョン方面に意識が逸れてる訳だ。それで奴も外にいるのか。ここからでも集落の炎や煙は見えるはずだが……切り替えが早いんだな。

 けどまさか、背後にいるゴブリンがもう全て全滅しているとは夢にも思うまい。


「見張り台から、キングの向こう側は見てとれたか? 冒険者とゴブリンが衝突してるとか」

『プル~? プルプル~』


 ……なんとなくニュアンスは伝わってきたが、正確な事は何も分からなかった。まあでも、時間的に見てもそろそろ冒険者の選りすぐりパーティが現地に到着していてもおかしくない頃合いだ。ゴブリン側も、王が直接赴きダンジョンの調査をするために、連中を叩き潰してしまうための戦力を逐次投下してるんだろう。

 後方確認と集落警戒、それから砦の周囲にいたゴブリン。全て倒した結果、俺の冒険者証には今日だけで150体ほどのゴブリンのリザルトがある。奴の後ろにはそれだけのゴブリンがいたのだ。となれば前方にはいったいどれだけのゴブリンが集結している事やら。最初は全部で200くらいの集団かと甘く見積もっていたが、俺だけで300近くは倒したのだ。ならば、少なくとも俺がこの世界にくる直前には、400以上はいたかもしれないよな。


「よし、イリス。作戦を考えたぞ」

『プル~?』

「砦の中にも篝火があっただろ? それを使ってだな――」

『プルプル!』

「そんでそのあとは臨機応変にな」

『プル~!』


 よし、方針は決まった。

 そんじゃまたイリスには頑張ってもらうか。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 砦から少し距離を置いた森の中、俺はイリスからの合図を待ち続けた。


「……お」


 砦のあちこちから火の手が上がった。どうやらイリスがやってくれたらしい。

 それに、思ったよりも火の回りが早い。イリスが何かしたのか? それとも可燃性の何かがあちこちにあったのかな?


「まあ何でも良いか。現場はきっと大混乱だろうし、早速乗り込むか」


 砦に近付くと、門からは中から飛び出して来たゴブリンと対面した。


『ゲギャギャ!』

『ゲギャ!?』

「よぉ!」


 2体のゴブリンを斬り捨て、中に乗り込むと中は阿鼻叫喚だった。ゴブリンは火を消す方法が分からず慌てふためき、ホブは左右に分かれて燃える壁を破壊して、無理やり炎を消そうと躍起になっているし、キングは殺伐とした空気を垂れ流しながら相変わらず外にいるゴブリン達に指示を出していた。そして奴とホブとの間では燃え盛るテントや壁が有り、視線が通らない状況下にあった。

 チャンスとばかりに、まずは左のホブから倒すために駆け出す。


『グオッ!?』

「遅い!」


 接近してきた俺に気付くが、今まで出会って来た連中もこいつも、ホブは全てレベル8。ステータスに多少の差はあれど、出せるスペックは大体同じだった。そんな奴の咄嗟の攻撃を回避し、懐に潜り込んだ俺は奴の首元を断ち斬った。


『斬ッ!』


「よし、次!」


 今なお砦は大混乱。

 人間が侵入し、ホブが1体倒れても気付いた者はほとんどいない。それくらいゴブリン達はパニックになっていた。

 こちらに気付いたゴブリンを斬り捨てつつ、もう1体のホブへと突撃。そのまま右のホブも難なく撃破する事に成功した。まだキングは状況に気付けていない。


『プル~ン!』

「お」


 そうしているとイリスが空から降って来た。恐らく砦の上部のゴブリンを倒して来たんだろう。

 しっかりとキャッチして撫でてあげる。


「よし、イリス。あとはいくつか雑魚を蹴散らして、キング戦だ!」

『プル!!』

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