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不死の勇者は理不尽を謳歌する ~ドM、勘違いで【守護者】や【狂戦士】と呼ばれ困惑する~  作者: 溝上 良
第三章 アマゾネスの女王編

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第九十六話 アマゾネスらしいアマゾネス

 










 地面を転がされ、皮がむけて血が出てしまう。

 その快感にニヤリとしながらも、エリクは立ちあがった。


 そして、ガブリエルの力にワクワクしていた。

 これでも、彼女は本気を出していない。


 今まで、さまざまな人や生物にボコボコにされてきたエリクは、ガブリエルが本気で彼を吹っ飛ばしていないことを悟っていた。


「これほどとは……」


 エリクは汗を流しながら、ニヤリと笑う。

 圧倒的。まだ激しく切り結んだわけでもないのではっきりとは分からないが、ガブリエルの力はカタリーナやアンネをも超えるものを感じた。


 流石はアマゾネスたちの女王。戦闘種族の彼女たちを束ねるガブリエルも、伊達ではないということだ。

 これは、非常に激しい……つまり、エリクにとって気持ちが良さそうな戦いになりそうだ。


 それは、まさしく断罪騎士エレオノーラ・ブラトゥヒナとの戦いを思い出させる。

 彼女とは、加虐性を抑えるための特訓と称して日々ボコボコにされていた。


 もちろん、命を取り合っていた時よりは優しくなったが、激痛と快楽は変わらなかった。

 その時と同じくらいの快感を、ガブリエルとの戦いで得られるかもしれない。


 エリクの心臓は高鳴っていた。


「どうする? 降参する? それでも、エリクくんとユーリくんは解放してあげるよ?」


 戟を肩に乗せながら、そんな提案をしてくるガブリエル。

 だが、エリクが首を縦に振ることはない。


「しかし、私は負けるわけにはいかないのです!」


 そう、負けるのであれば、ズタズタにしてもらってからでないと困る。

 エリクは剣を構えて、ガブリエル目がけて走り出した。











 ◆



 エリクとガブリエルの戦いが続く。

 彼らの戦いを見て、観客のアマゾネスたちは黄色い歓声を上げる。


 しかし、ほとんどのアマゾネスたちが心から楽しみながらこの試合を見ている一方で、エリクに同情的な目を向けていたアマゾネスもいた。

 それは、彼と戦い、かつガブリエルの実力もよく知るカタリーナとアンネであった。


 彼女たちは、分かっていた。

 ガブリエルが、まったく本気を出していないことを。


「やっぱり、キツイかなぁ」

「そりゃあそうだよ。アタイたち二人がかりでも、あんたのお姉ちゃんは余裕で戦えるんだから。アタイたち一人が精いっぱいだったエリクが、勝てるわけもない」


 アンネとカタリーナは、冷静に戦いを見ていた。

 エリクのことを心配し、応援していることは本当である。


 だが、それはガブリエルに勝つことというよりかは、無事に……いや、生きていてほしいということの方が強かった。


「お姉ちゃん、やりすぎないかなぁ?」

「それは大丈夫じゃないかい? あんたと違って、あの人は常識人だしね」

「うーん……どうだろ?」


 アンネは心配そうに、エリクを見る。

 やはり、彼の身体には傷が増えていき、出血も多くなる。


 痛々しい姿だが、それでも血にまみれた男が戦う姿は大好きなのはアンネも他のアマゾネスと同じなので、目を背けることはない。


「カタリーナとかは、やっぱりお姉ちゃんのことをそう思うの?」

「そう思うってのがわからないけど……ただ、お人よしだとは思うよ。いい意味でね。じゃないと、我が強いアマゾネスをまとめることなんてできていないだろうし。アマゾネスらしくないっちゃあらしくないけどね」


 アンネの質問の意味が分からず、首を傾げながら答えるカタリーナ。

 アマゾネスというのは、もちろん協調性だって持ち合わせているし個人差はあるのだが、大なり小なり自身の欲望を優先しがちな種族である。


 ゆえに、アマゾネスの女王になりたがるのも、なかなかいないのである。

 女王になれば、一つの街とはいえ影響力のある種族の王となるのだから、当然自身の欲望を満たすようなことは抑えて王としての職務に励まなければならない。


 そうすると、強い男を探して戦うこともできなくなってしまう。

 権力志向も大して強くないアマゾネスたちは、概して女王にはなりたがらないものなのだ。


 そのため、王というのは多くの国家では世襲で血を尊ぶのだが、アマゾネスたちの女王は子に継がせるようなことはなく、嫌々祭り上げられる者が多い。

 そもそも、女王になってしまえば、男を捕まえて子を作ることだって難しくなり、子を作らずに死んだ女王も数多くいるのだ。


 それなのに、現女王であるガブリエルは、不満を言うことなくうまくアマゾネスたちをまとめあげ、王としての職務を全うしている。

 そのことを考えると、ガブリエルのことを悪く思う方が無理な話だ。


 お人よしで、アマゾネスらしくないアマゾネス。それが、カタリーナや他のアマゾネスの多くが思っていることである。


「まあ、確かに頑張っていると思うよ? お姉ちゃん、自分を殺してまでアマゾネスのために頑張っているし」

「うん? あんたのお姉ちゃん、自分を殺しているのかい?」

「これは、あたしが妹だからこそ知っていることだけどね。実際、皆の前ではちゃんとしているし、今はほとんど自分を出さないから。あたしが知っているのは、お姉ちゃんが女王になるまでのお姉ちゃんだし」


 アンネはそう言いながら、試合を見る。

 明らかに、エリクが押されていた。


 彼の身体は傷だらけで血も噴き出しているのに、ガブリエルは完全な無傷だ。かすり傷一つ付いていない。

 誰がどう見ても、さっさと諦めた方がいい。


 エリクの身体は、多大な苦痛を味わっていることが容易に想像できるほど痛々しかった。

 勝てるわけがない。実力差がハッキリとしすぎている。


 どれだけ屈強な男でも、鍛え上げられた戦士でも、この実力差を見れば誰でも降参してしまうだろう。

 だが、エリクは決してあきらめない。


 その目に強い光を宿らせ、顔が血で濡れようともガブリエルを睨み続けるのである。


「はぁ……ああいうのが良いんだよねぇ」

「アマゾネス好みだよね、勇者は」


 熱い息を漏らすカタリーナを横目で見て、アンネは嘆息する。

 最初は自分が攫ってきたのだから、自分のものという考えが根底にある彼女は、今の人気になった状態が納得できないのだが……。


「そういうところが、危ないんだよね」

「何がだい?」

「皆はさぁ、カタリーナみたいにお姉ちゃんのことをアマゾネスらしくないとか言うけど……」


 アンネは戦っている姉を見る。

 彼女の顔を、ちゃんと見ているアマゾネスはいるのか?


 今見れば、はっきりと分かるだろう。


「お姉ちゃんほど、アマゾネスらしいアマゾネスはいないよ」


 血だらけのエリクを見て、凄惨な笑みを浮かべているガブリエルを見れば、はっきりと。



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