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♮115:対償ですけど(あるいは、ラジカル/轟波/リリカーラー)


「「あはねあやのほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんッ!!」」


 諸々は……あまり無かったが、僕の初戦は<先手:88,744pt―後手:着手なし>という結果にて決着した。


「は、はやく相殺DEPを撃つでゴザルよ、羽野氏ッ!!」


「で、でも何を撃っても焼け石に感が凄いんですけど……」


 何故か二人揃ってバングルを掲げ、グローブを背中側に回していたデジャヴタッグメンたちだったけど、うん、何もしないことがいちばんの愚策だと、そう思うよ?


「てめえらッ、この試合形式での『8万オーバー差』なんて聞いたこともねえぜッ!! とっとと棄権しろ、二度と排泄行為が出来なくなっても知らんぞッ!!」


 カットが切り替わるたびにその性格までもが切り替わるような翼の熱血な忠告にも耳を貸さず、


「初セリフ……ども」


「俺らみたいに1ミリの見せ場も無く終わる野郎、他に、いますかっていねーか、はは」


 ぶつぶつと何事かをつぶやいている内に、羽野も八田も相当きつめの折檻電流に貫かれ、冒頭のちょっと形容しにくい叫び声を上げて、果てた。


<No.06060:2勝0敗にて、一次予選通過>


 うん、つつがなく一次突破と。うん、普通に対局して普通に勝ったのだけれど、何だろうこの普通感が、例えば先ほどの褐色メイド少女との間に、如何ともしがたい差を醸し出しているかのようで。


 やはり、ブランクは大きかったと、そういうことなのだろうか……


 未だ蠢くような動きをやめない人の流れの中で、僕は何とも言えない敗北感を胸に佇むのだけれど。


「いやッ、流石はセンセッ!! お見事なる省エネ決着ですぞッ!! ささ、次なる会場へと参ろうじゃああーりませんか」


 そんな複雑な思いを頭に浮かべた僕に、会社人を二十年がとこ勤めても、そこまで完璧には出来ないであろう揉み手と卑屈な笑みで、翼がそう促してくる。と、


<そこまでっ!! ただいまを持ちまして、『一次予選』を終了いたします!! 勝ち上がった『1600組』の皆様は、会場西ゲートより、お隣の『スナズィアノミノコッド=スタジアム』へとご移動くださいねっ!!>


 アナウンスの女性の、如才なく透き通る声が響き渡った。今回は知らない女性ヒトの声だなあ……みたいに、非常に凪いだ心境でそれを聞く僕。その時だった。


「よお少年。さっきは思わぬ邪魔が入ったが、元気そうでなによりだぜ」


 気の抜けたガラの悪そうな声が背後からかかった。振り返るまでもなくそれはアオナギの懐かしいものであったのだが、僕はまだ複雑な気分のままでいた。いつかのあの大会のような、胸に風穴が空くような、外界と管みたいなものが繋がるような感覚を受け取っていないんだ。身体も、心も。


 何か口先だけの小手先だけの……そんなダメの本質とはかけ離れたことを上っ面だけでやっているような……もやもや感の中にいま、僕はいるわけで。


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