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♮112:顕現ですけど(あるいは、ジャスタ/ア/ジャメデージャー)

 また悲鳴だ。


 この「一次予選」と言われた、まあまあ予測は出来ていた阿鼻叫喚の鉄火場に放り込まれたのが10分ほど前。


 着替える時間もねえのかよ、という、珍しくもっともな事をのたまった普段着姿の翼と共に、うねり動く人の流れに翻弄されっぱなしだった僕ではあるが、迂闊に動くと痛い目に遭うのではないかという消極的な態度が、確実に裏目に入った感を肌で読み取り始めたのが5分ほど前。


 電光掲示場に示された「通過者」の人数は、今まさにこの瞬間も、無慈悲にカウントアップを続けている。このまま何も行動を起こさずに失格となってしまう、言うなれば「傍観死」がいちばんあってはならないことだ。何のためにここまで来たんだ。


 焦る気持ちとは裏腹に、流れ過ぎゆく人々の群れは何とも言えないプレッシャーを放ってくるようで、全員が全員、強者っぽく見えてきてしまう。あかん。


 そんな思考だけが空回りしていてヒートアップした僕の脳髄に突き刺さったのが、男衆が肚奥から絞り上げたような悲鳴。何だ何だと傍観者丸出しの視線を送った先には、周囲15mくらいのエリア内の人々が、なぎ倒されているかのように人工芝の上に伏している、えーとちょっと何起こったんだかわっかんないなぁ~くらいの真顔コメントしか吐けないくらいの惨状が見て取れたわけなんだけど。


「!!」


 その中心部にいたのは、先ほどアオナギが連れていた、どこかの外国の御方。白黒のメイド服はいかにもな手作りと見えたけど、丁寧でしっかりとした縫製だった。ジャストサイズなこともあって、非常にしっくりきている。エキゾチックな顔立ちも相まって、これは……これからを席巻する新ジャンルに育つのでわ……との滅裂思考に囚われそうになって、いかんいかんと頭を振ってみたのが3分前。


 とんでもない逸材を見つけてきたんだな……世界は広いんだな……とか思っていたら、またしても背後で恐怖に彩られた悲鳴が上がった。のが冒頭。


 嗚呼……今度も顔見知り。先ほどVIPルームで少しの間対峙した若草さんだった。何でか分からないけど、さっき見た、シマリス程度の小動物くらいまでなら眼力で殺せそうな顔貌はしておらず、逆に穏やかさすら垣間見せる凪いだ表情を呈している。しかしそれは「静」の根源恐怖を体現していると言っても過言ではなく、遠目で認めただけの僕すら背筋に冷たい衝撃が走るほどの、得も言われぬ破壊力を持っているのであった。


 あの人らは絶対に避けよう。そんな確固たる思いをいま一度、自分の中で強固に組み上げた僕であったが。


「ククク……室戸ムロトミサキ……ここで会ったが百年目よぉぉぉうッ!!」


 もう何か、デジャブもデジャブ過ぎて逆に新鮮にも思えてきたそんな物言いに、まあ頃合いか、と妙に神妙な心持ちで僕は振り返るのであるのだけれど。


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