表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/49

女王の国【8】

初のレグルス視点。















 一方の大人組。レグルスはフィアラ大公邸にお邪魔していた。大公夫妻と、それに夫婦の長男オリヴェルがいる。レグルスとオリヴェルは夜会で挨拶をした程度であるが、一応顔見知りではある。


「エリシュカとユリエには、レグルス殿下とエレアノーラさんは今日は大公邸うちに泊まると伝言を送ったわ」


 フィアラ大公ウルシュラが部屋に入って扉を閉めるなり言った。

 レグルス、フィアラ大公、エルヴィーンの前で、エレアノーラとラトカが突然消えた。道行く人が気づかないくらい、それは自然で、しかし、魔法を心得る者にとっては突然だった。魔導師ではないエルヴィーンはわからなかったようだが、レグルスとフィアラ大公は、二人が突然消えたのは魔法によるものだとわかっていた。


 さすが、と言えばいいのだろうか。フィアラ大公の対応は素早かった。ラトカはもともとフィアラ大公邸に住んでいるからともかく、宮殿に宿泊しているエレアノーラが問題だった。彼女がいなくなれば国際問題である。

 幸いと言うか、エレアノーラはレグルスの付添だ。そして、いなくなった彼女の身の振り方は、レグルスに一任されたも同然である。彼は彼女がいなくなったことを隠すことにした。国際問題にすると、いろいろと面倒くさい。


 特に、彼女の特殊な魔法について聞かれると面倒だ。


 そんなわけで、レグルスはフィアラ大公と共にエレアノーラを探すことにしたのだ。それを聞いたフィアラ大公も、国際問題にはしたくなかったのだろう。レグルスの申し出を受け、宮殿には『レグルスとエレアノーラはふぃら大公邸に宿泊する』と伝えたそうだ。

「まあ、もしかしたらレグルス殿下は戻れ、と言われるかもしれないけど、エレアノーラさんの不在は隠せると思う。薄いけど、彼女は私たちと血縁があるし、もし聞かれたら私に無理やり留められたと言えばいいわ」

 この国で女王に次ぐ権力を持つのが現在のフィアラ大公だ。もともと、フィアラ大公家はレドヴィナの筆頭貴族であり、現在の大公は宰相でもある。とめられたら断れないだろう。レグルスはともかく、一介の公爵令嬢であるエレアノーラは。

 フィアラ大公がそこまでしてくれるのなら、レグルスとしても隠しておくことができない。


「ひとつ、お話ししておきたいことが」


 レグルスがそう言うと、フィアラ大公家の三人の目がレグルスに向いた。もっぱらしゃべっているのはフィアラ大公とレグルスで、他の二人は黙って話を聞いている。どうやら、エルヴィーンとオリヴェルは似たような性格であるらしい。オリヴェルの見た目は完全に男性版フィアラ大公だけど。

「エリー……エレアノーラは、転移魔法が使えるんです」

「……」

 沈黙。フィアラ大公家の男性陣は魔導師ではないらしいのでピンとこないらしいが、フィアラ大公はさすがに驚いたように目を見開いた。

「本当に? 空間を捻じ曲げるのって、本当に難しいのよ。それに、出発点と到着点の座標が正確にわからないと、永遠に空間のはざまに閉じ込められることになるわ」

 さすがによく知っている。レグルスはうなずいた。

「ええ。でも、事実です。エレアノーラは一度行った場所なら、正確に座標を覚えています。空間を捻じ曲げるだけの魔力もあります」

「すごいわねぇ……ええ。私はどうしても魔力が足りないのよね」

 そう言ってフィアラ大公が首をかしげた。つまり、魔力が足りていれば彼女もできたのだろうか。こうしてみる限り、確かにフィアラ大公はあまり魔力が強い魔導師ではない。ログレス人での換算で、だが。


「なら、エレアノーラ嬢がラトカを連れ去った、と言うことですか」


 オリヴェルが感情の起伏がない平坦な声で言った。まあ、当然そうなる。レグルスは後からエレアノーラの特殊な魔法がばれて責められるのを避けるためにあえて言ったのだが。

 レグルスが何か言う前にフィアラ大公が言った。


「理由がないわね。おそらく、ラトカができることはすべてエレアノーラさんもできるし。ラトカは頭はいいけど、それだけだもの」


 娘に対してひどい言いようである。フィアラ大公はそのまま続けた。

「エレアノーラさんが攫ったっていうよりも、国内の私やユリエの政敵がかどわかしたと考える方が自然だわ。私もユリエも、どこで反感買っているかわからないもの」

「……」

 どんなだ。確かに、優秀で気が強く、おまけに権力もあるフィアラ大公は人の反感を買いやすいだろう。エルヴィーンが呆れた様子で「だからほどほどにしておけと……」とつぶやいている。


「で、どうします、レグルス殿下」


 腕を組んだフィアラ大公が尋ねた。正直、あの時転移してしまったので、エレアノーラとラトカの行方は不明なのである。

 エレアノーラは国家魔導師の免許とブレスレッドを持っている。なので、身元はすぐにばれるだろう。レグルスは、ラトカが狙われてエレアノーラは巻き込まれたのだろうと思っていた。

「……まあ、心配したところで、あの子、自力で脱出してきそうですけど」

「あー、うちの子も」

 フィアラ大公も言った。エルヴィーンもうなずいた。

「何気にラトカは強いからな……」

「魔術師だしね。でも、消魔石が使われてたら厳しいかしら?」

 フィアラ大公が首を傾ける。レグルスは聞き覚えのあるその名に目をしばたたかせた。

「消魔石……って、魔法を無効化する鉱石のことですか?」

「レドヴィナは鉱山国でもあるからね」

 フィアラ大公がさらりと答えた。消魔石は魔導師の敵だ。魔法が無効化されるためである。この国では、監獄は消魔石で作られているらしい。

 いくらエレアノーラの魔力が強かろうと、消魔石の内側にいる限りは魔法が使えない。生身の身体能力で対応することになるが……。


「……やっぱり、自力で出てくる気がしますね」


 エレアノーラの緊急時の度胸は並大抵ではない。判断力にも優れているし、実行できるだけの実力もある。消魔石の外に出てしまえば、魔法は使い放題だし。

「なら、必要なのは迎えかしら。どちらにしろ、連れ去られた場所を特定しないと」

「クラーサから出てはいないと思いますが。もし、フィアラ大公やユリエ様を脅す気なら、あまり遠くに居ては連絡が取りづらいですし」

「確かに。と言うことは、待っていればあちらから接触があるかもしれないのね。殿下、追跡魔法はお得意?」

「いえ……どちらかと言うと、攻撃魔法の方が得意ですね……」

 こういう探査系の魔法が得意なのはエヴァンだ。レグルスとエレアノーラの組み合わせは、破壊力は抜群だが細かい対応が難しい。

「というか、脅迫がユリエの方に行くこともあるんじゃないか?」

 エルヴィーンに突っ込まれ、フィアラ大公は「あー」と間延びした声を上げる。

「まあ、その時はその時ね」

「あなたは本当に、策士なのか行き当たりばったりなのかわからないな」

 エルヴィーンに同意である。まあ、それはともかく。

「どうするんですか。ラトカも双子石を外されたようで、居場所がわからないんでしょう?」

 夫婦漫才を始める両親に、オリヴェルがツッコミを入れた。どうやら、この親子は両親よりも息子の方が硬いらしい。


「そうね……でも、双子石が外されたんなら、その痕跡が残ってるはずよね。オリヴェル、ちょっと」


 フィアラ大公が笑顔で息子を招きよせる。オリヴェルが顔をしかめながらも母親に近寄った。すると。


「!?」


 フィアラ大公は自分より背の高いオリヴェルの胸ぐらを右手でつかんだ。左手をオリヴェルの額に当てる。

「……何してるんですか」

 こそっとエルヴィーンに尋ねると、彼が答えた。

「オリヴェルがラトカと対になる双子石を持ってるんですよ。だから、オリヴェルを通してラトカを探しているんです」

「双子石って、同じ石から切り出した魔法石のことですよね」

 双子石は同じ魔法石から切り出されたものをそう呼ぶ。そのため、双子石は共鳴し合い、互いに互いの位置を探ることができるともいわれている。レグルスがエレアノーラに渡した視界を操作するネックレスも双子石でできている。もう一方はレグルスが持っていた。彼女には言っていないけど。


 つまり、ラトカだけでなくエレアノーラも双子石を持っている。だから、探そうと思えば彼女が最後にいた場所を探れる。だが、レグルスには透視系統の魔法は使えないのだ。向いていない、ともいう。レグルスは本当に攻撃に特化しているのだ。

「うーん。弱いけど、あったわ。そんなに離れてない」

 フィアラ大公が息子を解放して言った。エルヴィーンが身を乗り出して「どこだ?」と尋ねた。


「バシュタ公爵家」

「……」

「バシュタ公爵家って、ユリエとも母上ともそんなに仲悪くないですよね」


 オリヴェルが事実を確認するように言った。バシュタ公爵家……レドヴィナには公爵家は五つしか存在しない。そのうち一つと言うことだろう。女王を輩出できる家柄である。

「先代が亡くなってからは、ちょっと失速気味だったけど、脅される覚えはさすがにないわね」

「現在のバシュタ公爵は外務省長官だったな」

「大丈夫よ。宰相位を下りる前に解任してやるから」

「それは職権乱用だ」

 フィアラ大公はよほど怒っているようだ。いや、エルヴィーンに突っ込まれているのはさっきからずっとであるが。

「まあ、行ってみましょうか」

「何言ってるんですか。母上は残ってください」

 実際に行きかけたフィアラ大公をオリヴェルが留める。彼は言った。

「私と父上で行きます」

「あ、私も行きますからね」

 レグルスが手をあげて言った。オリヴェルがレグルスを睨みあげる。

「ですが、殿下は国賓です。危険なところには……」

「魔法使用許可をくだされば、自分の身くらい自分で護れますから」


 むしろ、周囲の方が危険な可能性がある。


 結局、レグルスとオリヴェル、エルヴィーンの三人で行くことになった。魔法使用許可だけでなく、剣まで貸してもらった。フィアラ大公は残ることにしたようだ。


 すでに、日は暮れかけていた。
















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


レドヴィナは北は山岳地帯、南が平野です。ちなみに、フィアラ大公領は南の方にあります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ