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隠された翼  作者: 月岡ユウキ
第二章 少女期編

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サンディの消えた屋敷で

 ここは魔女(グレンダ)の屋敷の外庭。

 エドアルドとレオンは、切り倒された大樹の大きな切り株の上に居た。


 エドアルドは簡単な旅装束姿で、小型でシンプルな革製の鞄を持っている。

 服装と持ち物だけ見ればただの旅人と変わりない。しかし、明るい金髪を陽に輝かせ、長い金色のまつ毛で縁取られた青灰(ブルーグレー)の瞳は人目を惹く。その上、背中には天界人特有の白く美しい翼を背負っており……。


 ()()()()が訪れる村々では、女性たちの黄色い声が途切れる事がない……そんな噂はまんざら嘘でも無いのだろうな、とマリンは思った。


 レオンは弓とナイフを装備したいつも通りの姿である。並んでみると二人とも意外なほど軽装で、まさか今から天界に行くとは思えない。


「レオン、しっかり学んでくるのですよ」

「うん、わかってるよ」


 レオンは不安半分、期待半分といった所だろうか。若干緊張した面持ちで、テレシアの呼びかけに(うなず)く。


「エドアルド様、どうか息子をよろしくお願い致します」

「ええ、どうか安心してお任せください」

 エドアルドは笑顔で答えた。


「レオン君、準備はいいかい?」

「はい、お願いします!」


 差し出した水晶玉にレオンの手がしっかり触れたのを確認し、エドアルドは皆を見る。


「……それでは行って参ります」

「行ってきます!」


「いってらっしゃ~い!」

「気をつけて行っておいで」

「……しっかりな」

「……」


 マリンは元気よく手を振り、グレンダはその後ろで優しく微笑んでいる。ロムスは腕組みしたまま一言だけ言葉を投げ、テレシアは両手を組んだまま二人を見つめていた。


 ――皆が見送る中、水晶玉の中で小さな青白い光が仄かに光りだすと、それはすぐに大きくなって切り株の上の二人を包み込む。そして元に戻る様に小さくなって光が消えると、二人の姿は既にそこに無かった。



 ***



 昨晩、天界王への報告を終えた後、エドアルドは大変に忙しかった。


 既に夜半近い中、恐縮しつつグレンダの部屋を訪れてお願いし、一緒にサンディの部屋へと向かう。幸い鍵はかかっておらずすんなり入れた。が、ベランダへのドアは開け放たれたままで、サンディの姿は既に無い。


 グレンダに事情を話し、とりあえず心配無いという事だけは伝える。


「なんと言うか……天界王殿は、(サンディ)が可愛くて可愛くて仕方ないんだろうねえ……」


 遠回しに()()()と言われているのはわかっているし、完全に同意している――が、うっかり頷く事が出来ない、悲しい臣下の身である。


「本当に、急な話で面目ない……」


 エドアルドは頭を下げることしきりだった。


 そして、明日にはレオンを伴って出立する旨も伝えた。


「エドアルド殿と一緒なら、私は全く心配しないよ。ただ、皆に説明だけはしっかりとしてやっておくれ。特にテレシアは心配するだろうからね」


 ……至極尤(しごくもっと)もな念押しをされ、再び頭を下げる。


 そして昨晩はそこまでとなった。二人はサンディの部屋の戸締りをした後、それぞれの自室に戻ったのだった。



 翌朝、皆にサンディ不在の件と、レオンを天界に連れて行きたいという話をした。予想通り、レオンは大変喜んだ。マリンはとても羨ましがり、ロムスは我関せずというマイペースな態度である。


 テレシアはやはり心配していたのだが、それは「レオンがはしゃいで天界の皆さんのご迷惑にならないか」という方向で……これには流石に本人(レオン)が抗議した。


「母さん、僕もう十五歳だよ? さすがにそんな子どもじゃないよ……」

「それはそうなんだけど……」

「母親からすると、子ども……特に男の子は、いつまでも心配の種なんだよ」


 グレンダが微笑んで言った……ナイスフォローである。


「おい、エドアルド。……天界には畑ってあるのか?」

「ああ、勿論。天界の自然はとても豊かだし、農業も盛んさ。地上と違うのは、野菜や果物だけでなく、()()の栽培が非常に盛んという所かな……とても美しい所だよ」


 それを聞くと、ロムスはニヤリと笑った。


「そうか……じゃあレオンが()()()に嵌まらないにように、くれぐれも気をつけてやってくれ」


 ――ブフッ

 思わずマリンが吹き出した。エドアルドはそっと横を向き、肩を僅かに震わせている……。


「ちょっ……ロムス!!」


 思わず声を上げるレオンに向かって、ロムスは揶揄(からか)うようにカカカと笑った。


「くっそー……僕、絶対にロムスより強くなって帰ってくるからな! 何処からどこまでが首だかわからないけど、せいぜいよーく洗って待ってろよ!」

「おうおう、一丁前に言うようになったじゃねえか。いつでも相手になってやるから、せいぜい頑張ってこいや!」


 ……テレシアは最初、レオンのロムスに対する遠慮の無い物言いに驚いた。しかし二人の表情を見てその()()が分かると、どうにも嬉しくなる。……恐らく今のレオンにとって、ロムスは父か兄のような存在なのだろう。


 艱難辛苦はあったものの、自分がいない間にレオンは良い人たちに巡り会い、そして今も成長し続けている。


 ――この出会いに心から感謝するテレシアだった。

こちらで第二章の完結です。

次章からは場所を天界に移してお話が進んでまいります。


感想や評価、いいねなど頂けると大変励みになります。

今後ともどうぞ宜しくお願い致します。m(_ _)m

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