誘拐!?
メシは言われた通り、かなり美味かった。
メニューの例を挙げるなら、伊勢エビみたいなでっかいエビやアサリなんかの魚介をトマトで煮込んだスープにカニの実をふんだんに使ったパスタ、それにイカとツナっぽい魚のサラダ等など。
あ。そうそう、サザエがあったんだぜ?
それも壺焼き。塩だけだったけど、美味かった。
シーフードをこれでもかと使った料理ばかりだったな。ここでも肉じゃねえみたいだ。
意外だったのは、こっちの世界は西洋風なのにタコを食べる習慣があるみたいだった。
あきらかにタコとわかる吸盤をくっつけた足がマリネにされて出て来た。
皆美味そうに食ってたから、普通なんだな。
俺、タコが結構好きだから何気に嬉しかったんだよ。
今度、おやっさんにリクエストしてみっか。
まあ、タコの刺身が好きな俺としては醤油とわさびも欲しかったが、それは言っても仕方ない。
海の幸が食えるだけありがたいってもんだ。
縋りつく女たちを振り切って店を出た船長たちは途中で別れるようだった。
たぶん女のとこだな。勘だけど。
僻んでねえよ?いや。ホント。
このまま一緒に行ってさっきみたいな凹む比較されるくらいなら、オルと一緒に船に帰るわ。
行くなら一人で行くっつうの。
金なんかねえけどな。
そんで、船長たちと別れてオルと船に向かってたんだけど、今は強面のお兄さんたちに囲まれている。
何でだ?
「だからよぉ。そっちの坊主と一緒に来てくれりゃあいいんだよ。」
「だから、行かないって言ってるだろ?俺を知らないなんて、お前ら新人だな?」
「ああっ?女みてえななりでナマ言ってんじゃねえぞっ。」
俺に用があるのか?何で?
オルならわかるけどなあ。
綺麗な顔してるからな。良い奴だし。
女でも男でもトチ狂う奴がいてもおかしくねえよ。
だが、俺は少し目つきが悪いだけのフツメンだぞ?
どこの誰が用があるってんだか。
船長たちがいなくなるのをわざわざ狙ってる辺り、ヤバそうな予感しかしねえわ。
疑問は尽きねえが、今はこの状況を何とかしなきゃな。
オルに後ろに庇われたまま後ずさる。
もう少し斜め後ろにいけば路地がある。
かなり細い路地だし、誰もいないようだから駆け込めば何とか逃げられるだろう。
無駄にデケえこいつらには追ってこれない。
じりじりと後ずさっていく。後少し。
そうすりゃ、船まで一直線だ。
―――俺が覚えてたのはそこまでだった。




