表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/107

93.助力

 俺は、短く息を吸った。


 「……勝ちたいよ」


 口に出してみると、思ったよりも、声はまっすぐ出た。


 「でも、全部ぶっ壊して勝つのは違う。

  誰かを滅茶苦茶にして、それで“やったー勝ちました”って喜ぶのは、嫌だ」


 「だからさ」


 自分でも驚くくらい、言葉は止まらなかった。


 「お前がもし力を貸してくれるなら借りたいが…、それでも、俺は俺の力で勝ちたい」


 “王の刃”は、黙って聞いていた。


 やがて、ふっと口元をゆがめる。


 「……やっぱり、お前は変わってる」


 それは、呆れとも、面白がっているともつかない笑みだった。


 「普通の奴なら、『全部寄こせ』って言うところだぞ」


 「そんなの、怖すぎて冗談でも言えないよ」


 苦笑いを返すと、“王の刃”は一歩こちらへ近づいた。


 「なら、条件を決めよう」


 低い声が、真正面からぶつかってくる。


 「今まで通り“ただ振る”だけなら、結果は見えている。

  身体強化を全開にしたあの相手を崩す前に、お前の肩が先に壊れる」


 図星だったので、否定できない。


 「だから、この試合だけだ」


 “王の刃”は右手の短剣を持ち上げた。


 「この試合で、お前が『ここで決める』と覚悟した瞬間――

  少しの間だけ、俺が一緒に動く」


 「少しの間だけ、ね」


 「人の骨と筋肉が、それ以上には耐えない。

  今のお前の体なら、その一回でぎりぎりだ」


 ぎりぎり、と言い切る声に、曖昧さはなかった。


 「誤魔化しもしないし、勝手に前には出ない。

  お前が狙った場所に、刃がちゃんと届くように、“重さ”を合わせる。

  ――それだけだ」


 「合わせるだけで一撃が重くなるなんて、だいぶ反則くさいんだけど」


 思わずこぼすと、王の刃は小さく笑った。


 「俺は元からそういう代物だ。

  ただ、今までの持ち主は、その反則を使いこなせずに自滅した、そもそも力すら引き出せないやつも沢山いたが」


 笑みが消える。


 目だけが、鋭く俺を射抜いてくる。


 「だけど、一つ、約束しろ」


 「……なんだよ」


 「戦ってる途中で、妙に楽しくなったり、

  『もっと斬れる』『もっと速くいける』って欲だけが前に出てきたら――」


 王の刃の声が、少し低くなった。


 「そこでやめろ。必ずだ」


 「……」


 「それはお前の意思じゃない。

  魔力の暴れと、俺の“名残”と、あいつらが残した毒の混ざりだ。

  そこから先は、武器じゃなく“化け物”になる」


 十四層の広間が、頭の奥によみがえる。


 暴走しかけたセイル。

 自分の体を止めようとして、止めきれなかったあの顔。


 喉の奥がきゅっと締まる。


 「……分かった」


 短く答える。


 「もしそうなったら、その瞬間にやめる。

  勝ってても、負けてても、関係なく」


 「負けたらどうする」


 王の刃が、じっと問いかけてくる。


 「それでもいいのか?」


 ほんの少しだけ考え、それから、息を吐いた。


 「悔しいけど、まだ何とかなる範囲だろ。

  生きてりゃ、もう一回くらいチャンスはある」


 「……ふん」


 王の刃は、心底おかしそうに笑った。


 「やっぱり、お前のことは気に入ったわ」


 声に、ほんの少しだけ満足した色が混じる。


 「いいだろう、レン・ヴァルド。

  一度きりだ。

  お前が本気で『ここだ』と決めた瞬間――

  俺は、その少しの間だけを“本来の切れ味”にしてやる」


 短剣の刃が、かすかに光る。


 「勘違いするなよ。主役はお前だ。

  俺はただの武器。

  振るうかどうか、どこを斬るか、いつ止めるか――全部お前が決めろ」


 「……了解」


 頷くと、黒い空間に、細かな亀裂のような光が走った。


 音が戻ってくる。


 観客のざわめき。

 結界の低い唸り。

 遠くで、審判の呼ぶ声。


 「行けよ、レン」


 最後に、王の刃の声が聞こえる。


 「“ちゃんと使える奴”がどう戦うのか――見せてみろ、そして俺を楽しませろ」


 視界が白くはじけ、闇が一気にほどけていく。


 俺は、再び闘技場の光の中へと押し戻された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ