9.街での買い出し
レンは腰の小袋を確かめた。
中にあるのは、銀貨9枚だけ。
「……金貨1枚まで、あと91枚か」
ぽつりと呟く声が、朝の風に溶けた。
スキル鑑定の魔法陣――あの日見た光景が脳裏をよぎる。
それがどんな力か、まだ知らない。けれど、いずれ必ず辿り着くと心に決めていた。
「おし、じゃあ行くか!」
「今日の害獣退治、場所は森の南だな」
「うん。でもその前に……少し買い物したい」
「買い物? なんだ、武器でも?」
「いや、昼飯の材料」
ミナが驚いたように目を瞬かせる。
「え、レンって料理できるの?」
レンは少し得意げに笑った。
「こう見えても、戦闘より料理のほうが得意なんだぜ。」
「ははっ、そりゃ心強い」カイが肩を叩く。
「料理も出来るなんて、戦闘でも頼りにしてる」
「……ありがとう」
レンは少しだけ照れくさそうに笑った。
◆◇◆◇◆
4人は朝の市場へ向かった。
香ばしいパンの匂い、焼き串の煙、客を呼ぶ声が入り混じる。
レンは腰の袋を軽く叩いた。
「銀貨9枚。……少しなら使ってもいいかな」
まずは野菜屋。
キャベツ、じゃがも、トマトが山積みになっている。
「キャベツ半玉、じゃがも4つ、トマト2つください」
「まいど! 銅貨4枚だ!」
レンは銅貨を手渡し、手際よく袋に詰めた。
次は肉屋。
腸詰めが吊るされた屋台で、香ばしい匂いが漂っていた。
「腸詰めを1本ください」
「銅貨5枚だよ」
レンは釣り銅貨を出し、ちょうど支払う。
さらにその先の小さな雑貨屋で、
「ワインを一本、あとコンソメと塩胡椒を少し」
店主が笑いながら瓶を差し出した。
「銀貨1枚で足りるよ」
支払いを終え、袋を背負い直す。
ミナが感心したように言う。
「手際いいのね……まるで料理人みたい」
レンは少し照れたように笑った。
「まあ、慣れてるからな」
袋の中には、色とりどりの食材が揺れていた。
朝の光を受けて、銀貨の残りが静かに光る。
「……残りは銀貨7枚と銅貨1枚か」
レンは袋の紐を締めながら小さく呟いた。
「ま、しばらくは食っていけそうだな」




