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23.クレスト洞窟・第三層 水底の森と歪む時間

 第二層を抜けた瞬間、空気が変わった。

 冷たい湿気が肌をなで、微かに草の匂いが混じる。


 そこに広がっていたのは、まるで地上の森だった。

 天井にはびっしりと光苔が群生し、青白く柔らかな光を放っている。

 その光が水面に反射し、周囲を昼のように照らしていた。


「……ここ、本当に地下なのか?」

 ミナが目を細めて周囲を見渡す。

「昼みたいだな。でも、体感が変だ……」

 レンが呟く。


「聞いた話だと、この層は“眠れる森”って呼ばれてる」

 カイが杖を掲げ、光を強めた。

「太陽のない洞窟で、昼夜の区別が狂う層だ。

 外が夜でも、ここはずっと昼のまま――時間の流れが歪んでる」


「気味が悪ぃな」

 ゴルドが肩を回しながら低く言う。

「長居はしたくねぇ」


 その瞬間、ぼこりと湖面が膨れ上がった。

 泡が弾け、波紋が広がる。

 静寂を破って、湖の中央が盛り上がった。


「来るぞ――!」

 カイの叫びと同時に、湖面が爆ぜた。

 水飛沫が光を反射し、霧のように舞う。

 その中から姿を現したのは、半透明の巨体――

 青白く光るウォータースライムだった。


 水そのものが意思を持ったようにうねり、

 体内を流れる光が波のように揺れている。


「距離を取れ! あれ、でかすぎる!」

 カイの声に、全員が一斉に構えを取る。


 スライムが一瞬、静止した。

 次の瞬間――

 ドシュッ!

 高圧の水弾が飛び出し、地面を抉った。

 泥が弾け、冷たい飛沫が顔に当たる。


「速ぇ!」

 ミナが跳んでかわす。

 ゴルドが盾で正面の弾を受け止めた。

 バンッ!

 金属がしなり、衝撃が腕に響く。


「重てぇ……っ!」

 ゴルドが唸りながら押し返した。

 スライムが形を変え、再び前へと押し寄せる。


「カイ、雷だ!」

「了解、《ライトニング・ショット》!」

 杖の先端から青白い閃光が走る。

 雷がスライムの体を貫き、内部の核を照らした。

 しかし、次の瞬間には再生。

 水蒸気を吐きながら再び形を戻す。


「効きはするが、早いな回復が!」

 ミナが横に回り、短剣で裂いた。

 だが手ごたえが薄い。刃が沈むたび、水が再び閉じる。


「……これじゃ、切ってる感覚がない!」

「下がれミナ!」

 ゴルドが前へ出て、盾で弾を受け止めた。

 衝撃音が洞窟にこだまする。


「カイ! 核、見えたぞ!」

 レンが叫ぶ。

 スライムの中心で、淡く光る球体が脈動している。

「狙え! そこが本体だ!」


 カイが魔法を切り替える。

「《ウォーターバレット・ディスペル》!」

 圧縮された水弾が放たれ、スライムの表層を削ぐ。

 核が露出した瞬間、レンが飛び込む。


 「――今だ!」

 踏み込み、剣を突き立てる。

 ザシュッ!

 手に伝わる抵抗。核が割れ、青い光が弾けた。

 水の塊が一気に弾け、全身を冷たい雫が叩く。


 静寂が戻る。

 息を吐く音だけが、洞窟に響いた。


「終わったか?」ミナが周囲を確認する。

「……外は夜のはずだが、光が衰えねぇ」ゴルドが天井を見上げる。

 光苔の輝きは強く、まるで真昼のよう。

「時計の針もおかしい」カイが眉をひそめた。

「時間が、狂ってる」


「……本当に、昼のままなんだな」

 レンが呟いた。

 不気味なほど明るい光が、空気をさらに重くしていた。


「この奥に“アンチエリア”があるはずだ」

 カイが静かに言う。

「そこなら、時間も安定してる。休もう」


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