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第92話 自由すぎる我が娘(?)



 スケベアンデッドのデュラハンを、怒れる少女たち(?)による見事な連携(?)で屠った俺たちは、老朽化ゆえにギシギシと軋む階段を登って二階を目指していた。


 魔法の絨毯に乗っていた時、俺たちを狙った攻撃は城の上階部分から放たれた。

 ならば一階には目的の人物なりモンスターなりなどはいないであろうとの判断に基づいている。


 もうちょっと探索してみたくもあったが、マーリンさんの魔力探知によれば希少なアイテムなどの気配はないという。

 ならば無駄な戦闘を避けるためにも、さっさと二階へ上がるべきであろう。


 先頭を務めるのはマーリンさん。

 理由はレディの後ろから階段を登るのは色々失礼だからだという。


 なんというフェミニスト。

 率先して覗こうとするドスケベデュラハンとは大違いだ。

 女の子が惚れる男性ってのはこういう人なのだろう。


 男の俺ですら少しキュンとしたのは幼女姿ゆえか。

 いやいや、してないしてない。

 してないぞ。


 他の女性陣はどうかと思い、チラリと振り返ればヒナと目が合った。

 どうやら彼女は俺が階段から滑り落ちたりしないかジッと見つめていた様子。

 そこまでドジじゃないと抗議したいところだが、これもヒナなりの優しさなので黙っておく。


 そんなヒナになんとなくホッとして最後尾のヴィヴィアンさんを見ると、なんとも退屈そうに欠伸をしていた。

 どうやら本気で彼女はマーリンさんに興味がないらしい。


 う~ん。

 二人ともなかなか個性的!

 うちのクラスの女子どもがマーリンさんを見たら3秒以内に惚れそうなもんだけどなぁ。

 実際、【OSO】内の女性プレイヤーにはモテモテなんだしさ。

 こんなイケメンがリアルにいたらそりゃモテるでしょうよ。


 まぁ、もしもヒナが目をハートにしてマーリンさんにキャアキャア言い出したら俺は泣くしかないのだが。


「? どうしたんですかアキきゅん。あ、アキきゅんの小さなお尻なら私がガン見してますから安心ですよ」

「それのどこが安心なの!? あー、いや、うん。その……ありがと」

「はい? なにがです? お尻を見られるのが好きなんですか?」

「違うわ! ……ヒナはいつもわたしを見ててくれるから、それのありがと」

「(キューン! 可愛すぎます!)なにいってるんですか! これからもずっとアキきゅんだけを見てますよ! 一生! 死ぬまで!」

「……そ、そう」


 なんだかすごい剣幕でまくしたてるヒナに頷くしかなかった。


 二階へ上がった俺たちは、開けっ放しにされた巨大な観音開きの扉をくぐる。


「おぉ~!」

「は~!」


 感嘆の声を上げる俺とヒナ。

 かつてはさぞや雅であっただろうと思われる謁見の間であった。

 いや、その荘厳さは今なお少しも損なわれてはいない。


 むしろ廃れ、寂れてしまったことで退廃的な面が現れ、苔むした古寺のような得も言われぬ雰囲気を醸し出していた。


 床には破れたり綻びた赤絨毯が今も残り、数段高みにある奥の玉座へと続いている。


「おっ、あれが玉座か」

「すごく細かい装飾の椅子ですね」


 二脚並んだ玉座は王と王妃用だろうか。

 せっかくなので近付き、まじまじと眺める。

 『アーキー王』などとマーリンさんにそそのかされた俺はヤンチャ心が湧き出た。


 なんの気なしにドッカと玉座に腰を下ろしたのである。

 古びている割には思っていたよりもクッションが効いていて座り心地は良かった。

 幼女姿は尻の肉が薄いせいか、硬い椅子だとすぐに尻が痛くなるのだ。

 ヒナも隣に座って笑い合う。

 気分は本物の王様だ。


「おお、我が王、よくお似合いでございます」

「ほっほっほ、少しばかりナリは小っちゃい王様じゃがのう」

「余を愚弄すると極刑なるぞ! なんてな」

「あははは、それじゃ暴君ですよアキきゅん。家臣ウケ悪そう~」

「失敬な! あ、そうだ、マーリンさん。玉座の裏に隠し階段とかあったりしないよね?」

「いえ、そのようなものはございませんが……」

「アキきゅん! それは言っちゃダメなヤツです! ゲームが違いますよ!」

「やっぱりダメ? お約束かなーと思ったんだけどな」


 しばしアホみたいなやり取りを楽しんでから三階へ向かった。


 謁見の間を出、広い廊下を進む。

 マーリンさんの案内があるので道に迷うこともなく、上への階段へ到達した。

 下の大階段とは違って賓客の目に入らぬ場所にあるせいか、至ってシンプルな真っ直ぐの階段だった。


 さぁ登ろうと足をかけた時、素っ頓狂な声で叫んだのは────


「むっ!? 我が王! 強大な魔力がこの城から高速で離れて行きます!」

「わらわも感知したのじゃ! あれはまさか……ええい! 早く上へ行くのじゃ!」


 ────二人のNPC、マーリンさんとヴィヴィアンさんであった。


「な、なんだなんだ!?」

「アキきゅん、上ですって!」


 ドタドタと急かされるままに三階へ上がり、マーリンさんの指し示す部屋のドアを蹴破って転がり込んだ。



「おわっ!? なんだよあんたら!?」


 まず目に飛び込んだのは、広い空間に20人ほども席に付けそうなほど巨大な丸いテーブルだ。

 13脚の椅子からして、これこそが伝説に謳われた円卓なのだろう。

 などと感動している暇もなかった。


 同時に見知らぬ人物の声がしたからである。

 口調は少年のようだが、声音は少女。


 見れば窓際には突然の闖入者に慌てふためくひとつの影が。


 輝くような癖毛の金髪を赤いリボンでポニーテールに結い、驚きに見開いている大きな瞳は(ブルー)、そして『これで機能するのか?』と思うほど露出度の高い、いわゆる真っ赤なビキニアーマー姿の美少女であった。


 その少女はしばらく俺たち一行を眺めた後、なにかに気付き真っ直ぐに近付いてきた。


 俺をしっかと見据えたまま。


 そして俺の前に跪き、こう口を開いた。


「父上! 父上ではありませんか!」

「は?」

「へ?」


 あんぐりと口を開ける俺とヒナ。


「あー、その、なんじゃ。こやつがまぁ、お主の息子……いや娘という設定になるのかの。つまり、『モードレッド』なのじゃ」


「えぇぇぇ!? モードレッドォ!?」

「この子がですか!?」


 ヴィヴィアンさんのメタい発言も気にならないほど驚く俺たち。

 確かに聖剣エクスカリバーの奥義中に見た人影に間違いないようだが、いやはや実在していたとは。


 いや、それよりもいったいどんな設定なんだっての。

 俺にこんなデケェ娘がいるわけねぇだろうに。

 しかも今の俺は幼女だぜ?

 自分よりも年齢が高い娘ってなんだよ。

 運営は強引な上にいい加減すぎるだろ。


「モーさん。ここには貴女お一人ですか?」


 ズイと珍しく険しい顔のマーリンさんが前に出て問うた。

 モーさんて。


「え? あぁ、そうだけど?」


 顔見知りなのか、割とフランクに答えるモードレッド……ちゃん。


「先程、強い魔力を持ったものがこの城から離れるのを感知したのですが何か知りませんか?」

「魔力? えーと、あー、アレ(・・)のこと、かな?」


 ポリポリと頬を掻くモードレッドちゃんはなにやら後ろめたそうな顔だ。


「やーははは、それがさ。さっき変な棒を拾ったんだけど、これがまたなんつーの? やたら飛びそうな形状をしてたもんでさ……」


 そこまで言われて俺も流石に気付いた。

 湖でヴィヴィアンさんが仕出かした『鞘』に対するとんでもない行為を思い出したのだ。


 冗談だろ?

 このモーちゃんまでヴィヴィアンさんみたいなアホな真似を……?


「まさかお主……それは青と金の美しい装飾がなされておらなかったか?」

「……は、はい……そう、です……」


 マーリンさんを押しのけて、今度はヴィヴィアンさんが前に出る。

 跪いたままのモーちゃんを俺とヴィヴィアンさんが見下ろす形だ。


 その迫力に恐れをなしたのか、モーちゃんはおずおずと口を開く。



「えーと、その、父上も湖の乙女も怒らないで聞いて欲しいんだけど………………投げちゃった。てへ」



 ビキッ



 俺とヴィヴィアンさんの額に一瞬で青筋がいくつも現れた。


 こっちはここまでわざわざ『鞘』を追ってきたんだぞ!

 それをこともあろうにまた投げた(・・・・・)だと!?

 非常に不本意ではあるが、悪いことをした子にはきちんとお仕置きせねばな!



「あっ、あっ、本気で怒ってる? だって仕方ないよ! すっげー飛びそうだったんだもんアレ!」



 ボゴン!



「ぎゃふっっ!!」



 モーちゃんの金髪頭に、二人分の怒りを込めた小さな二つの拳骨(愛の鞭)が舞い降りたのであった。



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