第30話 仲間が上位職へ転職しました
「転職おめっとー!」
「ヒナさん転職おめー!」
「おめありーです!」
ポワワンとファンシーな煙に包まれたヒナは、とうとう念願の魔導士に転職した。
これで一足先に司祭へ転職したキンさんと相まって、我らがパーティーはかなりの戦力アップを果たしたことになる。
「はっはっは! 僕はこの衣装に憧れててねぇ。本懐を遂げた気分だよ」
夜空に輝く星々へ向かって高らかに笑うキンさん。
司祭の衣装は、一見すれば神父に近い。
だがよく見れば変態のほうが、より近いとわかるだろう。
いつものサングラス。
なんの効果があるのかよくわからん頭装備の丸っこい帽子。
そして黒いズボン。
ここまではまだわかる。
しかし、上着がなんでかやたらと襟の高い長ランなのだ。
それも真っ赤な縁取りのある長ラン。
長ランとは、膝丈よりも下まで長くなった学ランのことだ。
簡単に言えば、ふた昔前の番長スタイル。
しかも中に着ているシャツはもっとひどい。
目にも痛い……いや目にも鮮やかなビビッドレッドのYシャツなのだが、なんでか第4ボタンくらいまで胸板も露わにはだけているのだっ!
きめぇ!
こんな聖職者がどこの世界にいる!
中の人次第では胸毛ボーボー案件だぞこれ!
こんなもんに憧れるキンさんもキンさんだ!
そんな変態とは打って変わって、ヒナの可憐さときたら。
ピンクツインテの頭部には、これぞ魔法使い! と言っても過言ではないほど定番の、鍔広なとんがり帽子。
両肩を出し、無闇にヒラヒラフワフワしたミニスカドレスには、設定上、魔法の補助をするというラピスラズリのような魔石が鏤められていた。
背には腰までの長さしかない可愛らしいマント。
更にはブーツと黒いニーハイで絶対領域が目に眩しすぎる。
どうも紫色は魔法職にとって重要な色らしく、そこかしこにあしらわれてなかなかに派手だ。
ってか、露出度が急激に上がりすぎじゃない?
俺のヒナを卑猥な目で凝視する野郎どもとか、許せそうにないぞ。
それに。
「ちょっと動いたらパンツが見えちゃうんじゃないのかこれ」
しまった!
思ったことがそのまま口に出ちゃった!
キンさんは『激しく同意』みたいに大きく頷くな!
「アキきゅんのエッチ! ……むむ……ちょっと待ってください……」
俺たちに背を向け、なにやらゴソゴソするヒナ。
「あっ、よかったー。ちゃんとデフォで短パン穿いてました!」
なんの確認したの!?
パンツ!?
はしたなくてよ!
……そういや俺もやったな……白タイツだったけど。
おいコラ、キンさん!
小さく舌打ちすんな!
聞こえてんぞこの変態司祭!
ともあれ、これで変態どもにヒナの下着を見られる心配はなくなったようだ。
でもなぁ。
昔のMMORPGじゃ『見抜きしてもいいですか?』なんて風に女の子へ声をかけてくるマジキチもいたって言うし……
やっぱり心配だよ……
いや待て。
もしかしたらそんなヤツが俺にも言い寄ってくる可能性があるってことでは?
なんせほら、今の俺は美幼女ですし?
絶対に『しょうがないにゃあ……』なんて言わないんで、マジ勘弁してください!
いくらアバターとはいっても、野郎どもからそんないやらしい視線を受けるのは御免だぞ。
ハッ!?
俺にも女の子としての自覚と気持ちが芽生えたってこと……!?
……んなわけねー。
「アキくん、ヒナさん。無事に転職できたことだし、この辺でお開きにしないかね?」
「ああ、そうだな。もう1時だもん」
「思ったよりも転職試験に時間を取られましたねー」
「魔導士はそうでもなかっただろ……司祭のが鬼畜すぎただけで」
「……僕も驚いたよ。まさか『迷える魂を300匹昇天させよ!』なんて言われるとは思ってもみなかったからね……」
そう、司祭転職クエストはまたしても討伐系だったのだ。
専用マップへ一人飛ばされたキンさんは、生者に群がるゾンビ、スケルトン、ゴースト、グールなどに取り囲まれて、えらい目に遭ったとボヤいていた。
だが流石は(無駄に)高LUKのキンさん。
面白いようにターンアンデッドによる即死が決まってたらしいが、彼のINTは所詮1!
すぐさまSPが枯渇して、結局武器での攻撃に変更せざるを得なかったと言う。
悪いことは言わんから、今からでもINTを上げなされ。
ま、キンさんの長ーいクエスト終了までに散々ヒナとイチャコラを堪能したし、文句を言えた義理でもないんだけどね。
対して、ヒナが受注した魔導士転職クエストは、ぬるーい素材収集系だった。
首都の東大門から出たエリアで、魔法の触媒となる『マンドラゴラの根っこ』を10個集めてくるのがその内容である。
10個とか楽勝だろ、なんて思っていたのだが、クッソ広いエリアな割にそのマンドラゴラが少なすぎて辟易した。
しかも引っこ抜いてみるまでマンドラゴラかどうかもわからないと言う面倒臭さ。
幸い、誰が発見しようが数さえ揃っていればOKなので、手分けして手あたり次第引っこ抜きまくってやった。
もっと大人数でやれば数分で終わるあたり、この【OSO】はやはり女性プレイヤーには甘いようだ。
「アキきゅん、明日……あっ、もう今日ですか。ジョブレベル上げ、手伝ってくださいね」
「うん、最初からそのつもりだったし」
「わーい! さっすが私のアキきゅんです! やっさしぃ~! ラブ~!」
「……夜は僕のも手伝ってくれるんだよね……?」
「実はニャルのレベルもあげられるんですニャルー!」
「えぇぇ!? マジ!?」
「ホントですか!?」
「あ、あの……僕のジョブレベルも……」
「もしかしてスキルとかも覚えられるのか!?」
「ニャルちゃんすごいです!」
ニャルの爆弾発言にかき消され、キンさんの悲痛な声は俺たちへ届くことはなかった。




