第158話 探索再開
「全員揃ったー?」
「はーい」
「うむ」
「抜かりなく」
「準備完了でございます」
日曜日と言うこともあり、午前中から我がパーティーメンバーは勢揃いした。
女王クレオの治める国エジプティアの王都近郊へ、千人規模の拠点を移設した我々邪神討伐遠征隊。
その移設も一段落つき、スケジュールやタイミングが合わず先延ばしとなっていた邪神捜索と第二大陸の探査をようやく再開するのだ。
これってネトゲの宿命だよね。
ソロプレイじゃ出来ることは限界があるのに、多人数でプレイしようとすれば現実が邪魔をする。
まぁ、だからこそ【ハンティングオブグローリー】のような廃人集団が幅を利かせちゃうんだろうけど。
あいつら基本的に現実捨ててるからさ。
「アキちゃんたちは最も危険だと思われる東の探索をお願いするわねェ」
「ん。了解、ハカセ」
「さすがアキちゃん、話が早くて助かるわァ。みんなビビっちゃって東に行きたがらないのよォ」
「高レベルになるほどデスペナが重いもんね……でもエリアキーパーがいない分、気楽だよ」
この第二大陸は第一大陸のようなエリア型ではなく、なんとオープンワールドである。
従って自由度は飛躍的に増加していた。
ただ、自由度が上がった代わりに、いつどこで思わぬ強敵と遭遇するかはわからない。
第一大陸ではエリアごとのボスであるエリアキーパーに注意すれば済んだのだが、ここでは四六時中気を抜くわけにいかないのだ。
ま、だからこそ面白いんだけどね。
この手探りで進む感とか最高にスリリングだ。
現実の探検家や、小説とかアニメとかの冒険者って、きっとこんな気分なんだろうなぁ。
未知への好奇心っていうの?
とにかくそんな感じ。
「探索は大まかでいいわよォ」
「うん、わかってる。マップ埋めのつもりで行くね」
「北方向と西側は大規模別動隊を送るわァ」
「オッケー、人海戦術だね」
現在地点は大陸のほぼ中央に位置している。
そしてこの第二大陸は、ざっくり言えば左右に長い長方形型だ。
ハカセたちによる最初の遠征では西から上陸し、俺たちは南側から上陸した。
つまり、未踏破地帯は北と東なのである。
ならばなぜ西へ人を送るのかと言えば、詳細な探査を目的としているからだ。
ハカセの言うように大まかには把握していても、まだまだ未発見のモンスターやダンジョン、アイテム等があるはず。
解析と研究を専門とする【翰林院】と【OSO University】の連中は、それらを見つけることがこの遠征における至上目的なのだ。
しかもハカセらは未だ謎の多い第一大陸にも大量の人員を配置して現在も調査を続けていると言う念の入れようだった。
どんだけ知識欲がすごいんだよ。
この分だと、いずれヴァルキリー神殿も暴かれちゃうだろうなぁ……そうなるとヴァルキリーさんはもうのんびり菓子を食っていられないね。ご愁傷様。
「クレオちゃんに聞いた話だと、東には山岳地帯があって、その先は全くの未知だそうよォ」
「ふーん」
「見たことのないモンスターもわんさかいるそうよォ」
「へー」
「……んもゥ、脅かし甲斐がないわねェ」
「えぇ……そんなこと言われても……」
「なに言ってんですかハカセさん。そこがアキきゅんのいいとこなんですよっ。ねー?」
「うぎゅー」
ヒナに正面から抱きしめられ押し潰れる俺。
幼女の小さな身体のせいか、扱いがぬいぐるみと変わらない。
「うむ。何ものにも臆さないのはアキくんの数少ない取柄だね」
「数少ないは余計だよキンさん」
「なんの取柄も無さそうな栗毛サングラスにアキお嬢さまの何がわかるのでございましょう」
「辛辣! 見事な精神攻撃だシーナさん……ゴフッ!」
「うわ、キンさんが血反吐を……! まだ先日の傷が治ってなかったの!?」
「顔の腫れはだいぶ引いたと思ったんですけどねー」
「キンさんの快癒を祈っています」
「うぅ……僕を労わってくれるのはツナの缶詰さんだけだよ……」
「あらァん? 一番にダーリンのことを思っているのはあたしよォ! ほら、熱いベーゼをォ!」
「ヒギィ! ぐむっ! ぬぐっ! ぐあぁぁああ!」
あまりにも凄惨な光景に、俺とヒナはそっと二人から視線を外す。
見ればツナの缶詰さんとシーナさんも同様であった。
「ッッギャアアアアア!」
あ、やりすぎたんだな。
ハカセが両耳を抑えて絶叫してる。
たぶんハラスメント警告だろう。
やはり男同士でも発動するようだ。
「おっと、時間がもったいないからそろそろ行こうか」
「そうですねー」
「御意」
「参りましょう」
「ぼ、僕をおいていかないでくれぇ~……」
ヨボヨボと気持ち悪い動きで駆け寄るキンさんを加えて俺たちは出発した。
勿論居残り組のハカセは放置である。
しかし、いざ砂漠へ踏み出すとやっぱり暑い。
昼間なので尚更だ。
クレオはラクダを貸し出すと申し出てくれたが、俺のほうからお断りしておいた。
砂漠においては軍馬よりも貴重なラクダだ。
クレオたちの生活にとって、無くてはならぬ存在のラクダを戦闘で失う可能性もある。
おいそれと借りるわけにもいかぬだろう。
なので俺は徒歩を選んだ。
他にもたがねさんが妙なマシンを開発していたが、そんな危ないものに乗る気はさらさらない。
どうせ発車直後に爆発とかするのがオチだ。
でもなぜか、たがねさん本人は異様にそのマシンとやらを推してきたんだよね。
『アキちゃんアキちゃん! 今度の発明はマジですごいんだって!』
『ふーん。でも最後は爆発するんでしょ?』
『しないしない! そんなお約束みたいなこと、もうないから! ……たぶん』
『今なんて?』
『なんでもない! いやホント、今回のはガチよガチ! 見たら驚くよ絶対!』
『へー。だけど、わたしは徒歩じゃないと冒険してるって気がしないんだよね。だから遠慮しておくね(どうせ爆発するだろうし)』
『えぇ~~!』
オチが読めてるものに自分から飛び込むバカはいまい。
と言うわけで、ダラダラと歩くしかない俺たちなのであった。
「設定は砂漠でもいいからさ……せめて体感温度くらい調整してほしいね……」
「全くですよー……」
「世間じゃもうクリスマスムード一色だってのに……」
ヒナと愚痴っていると、キンさんが思い出したようにこう言った。
「そうだ。きみたち、イベントの詳細は見たかね」
「イベント?」
「うむ。年末年始イベントの第一弾は第一大陸で始まるそうだよ」
「へぇー。どんなの?」
「街や村がクリスマス仕様になるそうだ」
「……そう言うの別ゲーにもあったよね、ヒナ」
「ありましたねー。BGMもクリスマスソングに変わったり」
「しまいには年中クリスマスの街とかあったし」
「あははは、ありましたありました」
「って、キンさん。イベントそれだけ?」
「いや、ボス戦もある」
「そりゃまた随分とありきたりな……」
「全ての街に『ジングルオールザウェイ』が現れるそうだよ」
「げー」
「しかも無限湧き」
「うげーー」
誰があんなサンタ野郎と無限に戦うと言うのか。
確かにドロップ品はかなりいいものも出る。
もしハンティングオブグローリーが健在だったならば、独占しつつ嬉々として延々狩り続けるだろう。
だが、俺たちにはあまり関係のないイベントとなりそうだった。
「第二弾は年始に始まるらしいが……」
何故か含みを持たせるキンさん。
彼のこういう顔は────
「賞品がユニーク関連のようだ」
────いつだって面白い情報を言い出す時なのだ。




