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第152話 突然のオフ会



「きみたちくらいしか頼れる人がいないんだ。関東に行くのは初めてだし色々と不安でね。もちろん一日中付き合えなんて言わないよ、地下鉄や僕の宿泊先を案内してくれればそれでいい。どこか美味しい店でもあるならお礼に御馳走するよ。だからこの通り」


 やたら早口でそう言った後、テーブルに額を押し当てて懇願するキンさん。額の範囲がさらに広くなりそうである。

 確かに地方の人からみれば、こっちはゴチャゴチャしててわかりにくいだろう。

 住んでいる俺ですら一瞬迷うことがあるほどだ。


 ま、キンさんには団長職を押し付けた負い目もあるし、始まりの街ファトスで転職場を教えてもらった恩もある。認めたくはないが、なんだかんだで結構世話になっているのも事実。

 ならば多少は恩返しするべきか。


 こう言ったネトゲプレイヤー同士がリアルで会うことをオフ会と言うのだが、俺やヒナは何度か出席したことがあるので、それ自体にあまり抵抗は無い。

 むしろゲーム内と雰囲気や印象が違う人もいて中々楽しいのだ。

 しかも今回はキンさんの奢りでメシ付き。思い切り遠慮なく高級店の焼肉でもたかってやろう。


「ふーん、別にいいけど?」

「本当かい!? いやぁ、助かったよ! さすが心の友! じゃあ、時間と待ち合わせ場所なんだけど……」

「うん。いっててて」


 突然グイと耳を引っ張られた。

 犯人は隣に座ったヒナである。


「ちょっと、アキきゅん! そんな簡単に引き受けていいんですか!?」


 耳元で囁きながら怒鳴ると言う器用な技を見せるヒナ。

 しかし言われた意味はさっぱりだ。


「ふぇ? なにが?」

「なにがじゃないですよ! やっぱり忘れてると思ってました!」

「だからなんの話?」

「今のアキきゅんはリアルでも女の子でしょうが! あの姿でキンさんと会ってもいいんですか!? 絶対キンさんはアキきゅんをまだ男の子だと思ってますよ!」

「!? そ、そうだった……! あわわわ」


「取り敢えず僕は新幹線でそちらへ向かうから。それで降りる駅なんだがね、きみたちの希望に合わせようと思うんだ」


「……はぁ……ウッキウキで説明しちゃってるキンさんに今更『やっぱダメ』とは言えないよ……」

「地元民のアキきゅんがいれば百人力って顔してますもんね……しかも『きみたち』って、私も強制参加ですか」

「迂闊だったなぁ。どうしよ」

「こうなったら私も付き合います。アキきゅんは私の陰にでも隠れてればいいですよ」

「ありがとヒナ、巻き込んでごめん」

「いえいえ。アキきゅんのためですから」

「ヒナ……」

「アキきゅん……」

「聞いているのかい、きみたち?」

「わっ!」

「ひえっ!」


 ヌッと栗毛サングラスが顔を出す。

 思わずそのツラをひっぱたきそうになったのは俺に芽生えた女の子としてのサガか。

 芽生えんなそんなもん!


「大丈夫、聞いてるってば」

「ですです」

「本当かい? ならいいんだがね。こそこそイチャついてるのかと思ったよ」


 大体合ってる!

 本当にそう言うのだけ鼻が利きやがるなこの男は。


「遅れて申し訳ありません。アキさん、ヒナさん」


 そんな折に現れたのは、禍々しい鎧姿なツナの缶詰さんであった。

 彼女にもメールは送っておいたが、リアルのほうで忙しかったのだろう。

 当然それを咎めるつもりはない。

 兜で顔は見えぬが、泣きそうになっているのがわかるので余計に咎められないのもある。

 どうもツナの缶詰さんは非がなくとも自らを責めるたちのようだ。

 その癖、己の信念が絡めば行動が意外と大胆になると言う面白い人である。


「全然気にしてないよツナ姉さん。こっちこそいきなりメールしてごめんね」

「お忙しいところすみませんでした」

「いっ、いえいえ!(ああっ、お二人はやはり天使ですっ!)アキさんとヒナさんのピンチに駆けつけられないのが騎士として不甲斐なく……」

「あの、ツナさま。少々お話が」


 ペコペコ頭を下げるツナの缶詰さんに声をかけたシーナさん。

 二人はなにやらごにょごにょと話し始めた。今日の出来事を報告でもしているのだろうか。

 それにしても『ツナさま』って……また奇抜な呼び方を……


「ちょっとアキ! これはあなたたち英雄を讃える宴なのよ! ちゃんと食べてるの!?」

「あ、あぁ、うん。美味しいよクレオ」

「そ? ならいいんだけど。ほらこれも食べて食べて!」

「むごっ!?」



 そんな風に夜は更け、そして翌日────



 俺とヒナは、キンさんが待ち合わせ場所に指定した駅へとやってきていた。


「あきのん先輩、そろそろ到着時間ですよ。あ、今日はリアルでも『アキきゅん』って呼びますね」

「うん。一応オフ会だしそれでいいよ」

「もしや緊張してます?」

「ちょっとね」

「大丈夫ですよ。コーディネートは私がしたんですから。ちゃんと可愛いです」

「そっち!?」


「おぉーい」


 その時、聞き慣れた声がした。

 手を振りながら近づいてくるのは……黒髪の男だった。


「いやぁ、ひと目でわかったよ。髪の色は違えどヒナさんはリアルでもやっぱり美少女だね」

「あ、キンさん。こんにちはー。こちらでは初めましてですねー」


 相変わらず俺以外の男の褒め言葉はサラリとスルーするヒナ。

 そんな彼女のためにも早く男へ戻りたい。


「むむ? 引き受けた当の本人のアキくんはどうしたんだい? ドタキャンかね?」


 く!

 ついにこの時が来たか……!


「いえ、その……」

「そっちの可愛い女の子はヒナさんの付き添いかい? アキくんがいないならヒナさん一人では不安だろうし、僕は構わないけど(むしろ薄情なアキくんより大歓迎!)」


 ええい!

 覚悟を決めろ俺!

 行くぞ!


「よ」


 小さく手を挙げつつヒナの陰から出る。

 キョトンとするキンさんは……スーツ姿なのにサングラスだった!

 リアルでも常にかけてるんかい!


「えーと、きみは?」

「わた……俺だよ」

「は?」

「『アキ』だよ」

「はぁぁ!? いやいやいやいや、僕の知ってるアキくんは細身で少し小さいけど間違いなく男の子だったよ!? ヒナさん、こんな美少女を連れて来てまでウブな僕をからかうつもりかね!?」

「違います違います!」

「小さいは余計だよ、この栗毛サングラスめ。たがねさんに聞いた恥ずかしいエピソードをブチまけてやろうか?」

「!!! 待った! 待ってくれ……ほ、本当にアキくんなのかい……?(嘘だといってよ、バーニィ!)」

「ああ」

「じょ、女装……? それにしてはリアルな胸だが……」

「!? んなわけないでしょ! って、変態! どこ見てんの!?」

「アキきゅん、通報しますか!?」

「やめておくれヒナさん! これはお茶目なギャグなんだ!」


 改札口で騒ぐのも何なので隅っこへ移動し、これまでの経緯をかいつまんで話した。

 ずっと驚愕しっ放しのキンさん。

 無理もない、俺ですら何かの冗談としか思えないのだから。


 それにしてもこのキンさん……

 ゲーム内と違って黒髪だが、スラリと背も高くスーツ姿も社会人らしくよく似合っていた。

 サングラスなのは目が直射日光に弱いせいだそうだ。

 しかもこれまたゲーム内と違って額が広くない!

 どうやらあの額は、たがねさん作成の武器スキルによるものと思われる。ダメージを受けるたびにハゲると言うあの恐ろしい武器の。


 あれ……?

 リアルのキンさんて思ってたよりもかっこいいな……

 普通にイケメンじゃん。

 これで彼女いないとか、やっぱり性格のせいかなぁ……すぐキレるし。


「……うーむ、しかし……」

「?」

「あのアキくんがこんなに可愛くなるとは……」

「ブッ! やめてよ!」

「いやいや、ヒナさんに勝るとも劣らない美少女ぶりだよ。それにスタイルもいいし(主に脚と胸が)」

「そ、そう? そこまで言われると少し照れるね……へへ」

「(ズキューーン! か、可愛い……!)くっ!(落ち着け僕……相手はアキくんなんだぞ! 変な性癖に目覚めちゃいかん!)」

「(ピーン! キンさんから『好きになっちゃいそうオーラ』を感じます! すかさず阻止です!)でしょー? でもアキきゅんは私のなのであげませんよ」


 キンさんを牽制するように俺をギュッと抱きしめるヒナ。

 そもそも牽制する必要性があるのだろうか。


 ……ん?

 今、視界の端に何かいたような……?

 あれ? いない……気のせいだったのかな……


「さて、きみたち。そろそろお昼時だが、お店は決めてきたかい? 約束通りご馳走しようじゃないか」

「あ、うん。一応」

「ご馳走になりまーす」

「いやはや! こりゃ両手に花だね! むひょひょひょ」


 浮かれた足取りのキンさんに続く俺とヒナ。


 ────そして、『何か』も追うように動き出したのである。



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[一言] キンさん羨ましい 『何か』が気になるな
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