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024:出禁・京都・ピクシー

 月波学園高等部の修学旅行は2年生時に行われる。とは言え、その様相は一般的な高校の修学旅行とは少し毛色が違うかもしれない。

 何せ普通科から理数科、特進科、農学工学芸術科まで一学年に雑多に詰め込まれているためクラス数が多い。私たちの学年だけで600人を超える生徒が在籍している。そのため、その人数を一度に団体行動させるというのは現実的ではないとして、特殊な方法で行われる。

 まず第一に、学年一括りではなく各クラスごとで組まれる。一クラスはどれだけ多くても人数40人程度のため、この程度ならばクラス担任と副担任、追従する養護教諭で目が届くということだ。

 そしてここが少し面白い、というか私も楽しみなのだが、具体的にどこへ行き、どこに泊まるのか、移動手段はどうするかという旅程は徹底して各クラスの自主性に一任される。もちろん予算の都合もあるため担任の先生が細かいところは調整するわけだが、大枠は生徒自身で決める。4泊5日の日程と予算さえ守ればどこに行っても良く、工夫すれば海外すらも視野に入れられるのだ。

 ……と、言うことになっているのだが、その旅程を決める最初のホームルームで少々問題が生じた。


「えー、盛り上がってるところ悪いんだけど、我々2年F組の行先ですが、選択肢から京都と海外は除外されまーす」


 直前までクラス中で「どこ行く?」「やっぱ京都は外せないっしょ」「あたし台湾行きたい!」などと盛り上がっていたクラスメイト達がシン、と静まり返った。

 そう教壇で苦笑しながら水を差したのは、2年生でも担任になった藤村先生。

 一拍置いてクラス中からなんでどうしてとブーイングが上がるのを確認したところで、サングラスの奥の瞳を困り気味に細めて事情を説明した。

「京都はその土地柄、特殊な家柄が未だ多く残っていてね。まあ、その、端的に言うと、月波市のことをあまり快く思ってないんだ」

 その言葉に、クラス中から「ああ……」と溜息が漏れる。流石に無遠慮に直接視線を送る人はいないが、何となく、注意がクラスの中心の座席の二人に集まっている気がした。

「いやまあ、ね……」

「こればっかりはマジで申し訳ないわね……」

 頭を掻くユッくんと、マスク越しに深いため息を吐く梓ちゃん。

 そうかと私も内心納得する。

 普段あまりにも普通に接しているため忘れてしまうが、この二人は世界的に見ても特異な術者の一族だ。それが雁首揃えて京都くんだりまでやってきたら地元の旧い術者一門が黙ってはいないだろう。

「10年くらい前まではこんなに気を遣わなくても良かったらしいんだけどね」

「うちのクソ兄貴が、それこそ修学旅行でやらかしたらしくてさ。未だに出禁よ、出禁」

「何をしたのあの人……」

「担任の監視を掻い潜って徒党組んで夜の街に遊びに行って、地元の術者たちから追い出されてた半グレな連中と大喧嘩。しまいにゃ何故かそいつらと意気投合して地元術者が厳重に封印してたバケモン開封してぶっ飛ばすわ、そいつを半グレたちと契約させて地元術者の傘下に押し戻すわ、それでパワーバランスが崩れて一部騒然となるわ」

「本当に、何をしてるのあの人……!」

 聞くだけで頭が痛くなってきた。これ以上の詮索はやめようと、藤村先生に挙手して質問する。

「あの、それじゃあ海外はダメっていうのは……?」

「あー、うん。そっちはもっと簡単な話。パスポート取れない人がいるでしょ」


 ばっ。


 クラス全員の視線が窓際の席のキシさんへと集まった。

「おい貴様ら、なぜ俺には遠慮なく視線を向ける」

 不満げに吐き捨てるも、クラス中から不満が雨あられと降り注ぐ。

「あんたパスポート何でないのよ!?」

「パスポートどころか戸籍もないわボケ」

「どうやって生きてんだ!?」

「死人に何を言っている。普通に表向きにできない方法で渡り歩いてるに決まっているだろう」

「胸張って言うことじゃないでしょ!」

「そもそも俺が今こうして学園に通っているのがイレギュラーなんだ、そこは貴様らが呑み込め」

「パスポート用意しろ!」

「そもそも海外と決まったわけでもないのに下手なリスク負うメリットがない」

 喧々囂々、ぎゃぎゃあとクラスとキシさんが言い争う。しかし良くも悪くも空気を読まないキシさんはどこ吹く風で腕組みしたままあしらっていった。

 結局その日のホームルームは碌な話し合いにならずに終了した。


 一応、後日の話し合いで海外に行きたい勢力との折り合いで沖縄に旅先を定めることとなった。

 しかしその修学旅行中、地元の妖精族(ピクシー)キジムナーたちがキシさんの存在が気に食わなかったのか何度も襲撃(いたずら)を仕掛けてきた。それにキシさんがブチギレて妖魔大戦争にまで発展したため、翌年以降沖縄も選択肢から消えることとなったのは、本当に申し訳なく思う。

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