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017:新しい喜び・観覧車・たい焼き

「良い子のみんな、こんにちはー!」

「「「こんにちはー」」」

「あれ? 返事が小さいゾ? みんな、こんにちはー!」

『『『こんにちはー!!』』』

「よし、いい返事だね。今日はね、アカツキパークに来てくれたみんなの為に、アカツキレンジャーが来てくれてるんだよー。じゃあ、みんなで呼んでみよう! いくよ、せーの……」

『『『アカツキレンジャー!!』』』

「うおおおおおお! アカツキレンジャー!!」

「…………」

 日曜日の真昼間。

 地方の少し古びた遊園地のヒーローショーを観賞する子供たちに交じって大声を上げる巨漢の総大将の横で、自分は何をしているのだろう。

 魔王山ン本九朗左衛門一派鬼頭補佐・伽耶は、死んだ魚の目をして天を仰いだ。



          * * *


「はあ、はあ……」

「やっと逃げられた……」

「チクショウ、いてぇ、いてぇよ……」

 複数の男が全身傷だらけ、息も絶え絶えの状態で荒れ地を駆けていた。

「クソ! なんで俺たちがこんな目に遭わなきゃいけねえんだよ!」

「女、女抱きてぇ……」

「ああ、女……!」

「ん、おい見ろ!」

 一人が指をさす。すると剣と針の森の向こうで、一人の赤い着物の少女が毬をついて遊んでいた。

「女! 女だぁ!!」

「ちょっと俺の好みにしては小せぇが、この際構うものか!」

「ブチまわせ!」

 男たちは全身を剣や針が引き裂くのも構わず、血走った目で森をかき分ける。そして全身から血を吹き出しながら、少女の元へと辿り着いた。

「女女女女女女オンナオンナぁ! おじちゃんとイイことして遊ぼうねぇ!」

 最初の一人が醜悪な笑みを浮かべて少女へ手を伸ばす。それをきょとんと首を傾げて見ていた少女は――不意に、冷たい笑みを浮かべる。

「おっちゃんがウチと遊んでくれるんや?」

「ああ、そうだよぉ! すぐ気持ちよくな――」

 ぷつん、と男の声が途切れる。

「おい、どうした」

 それを不審に思った後から追いついた別の男が肩を揺さぶる。すると最初の一人はゴトリと物言わぬ肉の塊のように倒れこんだ。

 そしてその顔を覗き込んだ男は、ひゅっと頭から血の気が引くのが自分でも感じた。

 倒れた男の顔は、元が分からないほどに潰されていたのだ。

「う、うわあ!?」

「おっちゃんもウチと遊んでくれるん? うれしいわあ。ほなウチと鬼ごっこしよ? もちろん、ウチが『鬼』な?」

 少女が笑う。

 いつの間にか、彼女は大人の身の丈ほどもある黒い鉄の棒を肩に担いでいた。鉄の棒には鋭い鋲がいくつも打ち込まれており、その一つ一つにべっとりと赤い血が付着している。

 そしてざわざわと風もないのに乱れ始めた髪の間から、小さいが尖った角が二本姿を見せた。

「うわああああああ!? こ、こいつも鬼だ!?」

「逃げろ! 逃げろ馬鹿!!」

「ま、待ってくれ! 剣の森がさっきより濃く……!?」

「早くしろ! 後ろがつっかえて……!」

 逃げ惑う男たち。しかしそれを阻むように、剣の森は枝葉を伸ばして男たちを切り裂く。

「そんな楽しそうにされたらウチも嬉しくなってまうなあ」

 そして小さな鬼女は、逃げ惑う男たちの様子を蟻の群れでも眺めるように愛くるしい狂気の笑みを浮かべ、ペタペタと歩み寄る。

「ひ、ひい!? く、来るな!?」

「安心しいやあ。ウチがおっちゃんたちに新しい喜びを教えたるからなあ」

「助けてくれ! 助けてくれ、俺たちが悪かった!」

「大丈夫やでえ。痛いんは最初だけやからなあ。……そう言っておっちゃんらも女の子で『遊んだ』んやろ?」

「ひゅっ……!?」

 ぶん! と音がして、眼前に金棒が迫っていた。

 意識が、潰えた。



          * * *



「亡者への呵責は順調のようだな」

「あれ、山ン本様やあ」

 冥府――衆合地獄。

 生前に性犯罪を犯した亡者が堕とされる地獄にて、伽耶はその日も熱心に呵責に打ち込んでいた。

 先ほどぶちのめし、塵芥と化した亡者の魂は地に埋める。こうすると数時間ほどで再び復活し、また女を求めてさ迷い歩く。そして女に釣られて寄ってきたところをまたぶちのめす。これを刑期が終わるまで延々と繰り返すのだ。

 元々冥府は根の国と呼ばれる鬼や妖の住処だった。そこに後になってから死者を管理し、輪廻へと回すシステムを構築する際、冥府と呼ばれる機関が成立した。

 冥府に送られてくる死者は生前の行いによって冥府の王・閻魔が判決を下し、輪廻までの間の待遇が異なる。

 特に大きな罪もなく安寧と生きてきた者、もしくは徳を積んだ者は苦痛の存在しない清らかな「極楽浄土」で穏やかに輪廻の時を待つ。逆に生前に大きな罪を犯した者は、その罪の重さと区分によって二百七十二の「地獄」へと堕とされ、そこに住まう鬼たちによって呵責を受け続けることとなる。

 また例外として、異能者や妖混り、罪は大きいが丈量酌量の余地ありと判決が下された者のうち、有益と判断されれば死神や鬼狩り、天使といった直轄機関へ登用され、冥府そのものの運用に携わることとなる。

 ともかく。

 現在では大まかにそのようなシステムで冥府は成り立っているが、元々根の国に住んでいた鬼たちにとって所詮それは人と世界の都合でしかない。いつの間にか輪廻を司る機関が立ち上がり、自分たちもそこに組み込まれた。それに対して鬼たちは憤慨――することはなく、今日まで成り立ってきた。

 何故なら現在、冥府と鬼は対等の契約関係にあるからだ。

 冥府は罪人を地獄へ堕とし、鬼は罪人を呵責する。その際、鬼たちは罪人が発する恐怖や絶望といった負の感情を喰らい、栄えることができる。冥府もまた罪人の呵責を一任する対価として、鬼の地獄における自由を約定とした。

 冥府というシステムに協力すれども、決して服従せず。

 それが冥府と鬼の関係である。

 しかし自由が約束された地獄の鬼と言えども、無法者の集団というわけではない。なんなら現世よりもよっぽど厳しく、苛烈に統治されている。

 今代における地獄の鬼は二大頭領による指揮体制が敷かれていた。


 つまり、魔王山ン本四代目――山ン本九朗左衛門。

 つまり、魔王神ン野五代目――神ン野悪十郎。


 人間の敵たる鬼として正々堂々、片や人間の敵たる鬼として悪辣姑息という風潮の違いこそあれど、二鬼による地獄の統治は恙なく行われている。

 そして今、伽耶の目の前に現れて声をかけてきた継裃姿の偉丈夫こそ、山ン本九朗左衛門であった。

「久しく浅い階層の刑場へは足を運んでおらなんだが、息災のようだな」

「はいなあ。山ン本様こそ、最近はたいそうお忙しかったと聞いとりますう。どうかお疲れの出ませんようにい」

「うむ。例の瀧宮羽黒関連の事件で、現世も冥府も沸き立つ釜の底のようであったからな。それが一応の終結を見せた今、ようやく我もこうして地獄を見て回る余裕ができたわ」

 言いながら、九朗左衛門は顎を撫でて苦い表情を浮かべる。元々九朗左衛門は細かい作業を苦手としているのだが、目端の利く悪十郎が現世へ冥府へと駆け回っていたため、自然と地獄の留守を守ることとなったのだった。

「ほんなら今宵は地獄の視察ということでっしゃろか?」

「ああ、それもあるが。伽耶よ。一つ我の頼まれごとに付き合ってはくれぬか?」

「山ン本様の頼み事? そんなん、ウチが断わるわけないやないですかあ」

 一も二もなく頷き、承諾する伽耶。

 自分も山ン本一派の中では決して低くない地位に就いてはいるが、それでも頭領直々の依頼など早々あることではない。

 一体何だろうか? 地獄を逃げ出した亡者の捕縛だろうか、はたまた現世に湧き出た妖をぶちのめして一派へ組み込むのだろうか。なんにせよ腕が鳴ると、伽耶はふんすと小さく鼻息を鳴らした。

 そして――

「ありがたい! それでは三日後、我と共に現世の遊園地へ行ってほしい」

「……ほえ?」

 自分の頭領が何を言い出したのか分からず、首を傾げた。



          * * *



「げっへっへ! アカツキレンジャーめ、今日こそ貴様らをぶっ潰してやるわ!」

「きゃあ! みんな、悪の王国タソガレ伯爵がやってきたわ! お願い、みんなの応援をアカツキレンジャーに届けてあげて! せーの!」

『『『アカツキレンジャーがんばれー!!』』』

「うおおおおおお! アカツキレンジャー!! タソガレ伯爵も負けるな!!」

「…………」

 そして冒頭のシーンへと戻る。

 いや、きっついわあ、と伽耶は拳を握りしめる。

 周囲には小さい子は5歳、大きくても10歳そこそこの子供の群れ。大人はせいぜい子供を膝に乗せた保護者くらいしかいない。そんな中で、馬鹿みたいに上背があってやたらと筋肉質の大男が子供に交じって歓声を上げているのだ。そしてどうやらその大男が自分の上司らしい。

 追い打ちとばかりに、伽耶の服装がまた彼女の精神をゴリゴリに削っていく。

 九朗左衛門によって支給されたそれは、いわゆる子供服。しかもだっせぇピンク色のトレーナーに謎の黄色い猫のキャラクターがでかでかとプリントされたものだ。下も、何とも言えない地味なえんじ色の長ズボン。ついでに歩く時にかかとが光る靴まで履かされた。

 ちなみに九朗左衛門はその体形に合う服がほぼないらしく、サイズの大きさが売りのハイブランドの服装ワンセットだった。雑誌から切り抜いたような組み合わせだが、それゆえに普通にキマっている。この差はなんだと泣きそうになる。

「ぐわああああああ!? ちぃ! アカツキレンジャーめ、今日はこの辺で退いてやる! だがいつか、必ず貴様らを倒してやるからな!!」

「みんなー! みんなの応援のおかげで、アカツキレンジャーがタソガレ伯爵を追い払ってくれたわ! みんなでお礼を言いましょう! せーの!」

『『『アカツキレンジャーありがとー!!』』』

「うおおおおおお! アカツキレンジャー!! タソガレ伯爵も単身でよく戦った!!」

「…………」

 これはきついと、伽耶は心を殺す。

 自分は確かに人間の子供のような見た目をしているが、小鬼というだけで子供ではない。中身は普通に大人の女だ。それが突如このような場所に放り込まれたら、羞恥で逃げ出したくなる。

 しかし逃げるわけにはいかない。なぜならこれは九朗左衛門からの依頼。鬼の上下関係は人間よりもはるかに厳しいのだ。途中で放り出すなどあってはならない。

「心を無に心を無に心を無に心を無に心を無に……」

「ぴえっ!?」

 突如念仏のように唱え始めた伽耶を見て、たまたま隣に座っていた男の子が泣きそうになっていた。

 そしてそのまま数分後、ようやくエンディングテーマ曲が流れるとともにステージからヒーローと司会のお姉さんがはける。それを合図に、周りの子供たちも「たのしかったー!」などと感想を言い合いながら離席し始めた。

「いやあ、今宵も良いステージであった!」

 九朗左衛門もまた、とても満足そうに頷きながら立ち上がる。

 それに倣い、伽耶もようやく解放されるという思いで九朗左衛門の腕に手を回した。

「お父ちゃん! ウチ観覧車乗りたい!」

「お? よいぞ! その前に何か腹に入れよう。何が食いたい?」

「ほなウチたい焼き食べたい! あっちで出店来てたん見たわ!」

 事前の打ち合わせ通り、九朗左衛門の娘を演じて無邪気に振舞う。ついでに話の流れで九朗左衛門に負担とならない程度の価格の間食を所望し、店へと歩く。

「おっちゃん! ウチ、カスタード!」

「わ……俺は小倉をもらおうか」

「はいよ! 二個で220円ね!」

 九朗左衛門が渋いがま口財布から小銭を取り出し、店の男へと払う。そして受け取ったたい焼きのうち、カスタードクリームが入っていると説明された方を伽耶へと渡す。

 受け取ると、包み紙越しに焼き立ての暖かさを指先に感じた。別にこの程度は地獄の釜に比べたら何ともないが、子供らしさを演じるためにあえてふうふうと息を吹きかける。

「お、美味い。甘さが控えめで良いな」

 そんな気遣いを知ってか知らずか、九朗左衛門はでかい口の二齧りでたい焼きを完食していた。

「では観覧車へ行こうか」

「はーい!」

 九朗左衛門に手を引かれながら、観覧車がある方へと移動する。

 その間も、伽耶は娘を演じながらにこやかに九朗左衛門と会話を弾ませる。そうでもしないと九朗左衛門の見てくれではすぐに不審者、誘拐犯として通報されていただろう。

「すまぬ、大人と子供一人ずつ頼む」

「はい、扉低くなっていますのでお気をつけて!」

 観覧車にたどり着き、受付を済ませる。そしてゴンドラまで案内される、中に乗り込んだ。

 そして扉が閉まり、地上からゆっくりと足下に浮遊感が感じられるようになったところで、ようやく伽耶は一息ついた。

 ここならば周囲の目を気にする必要もない。

「伽耶、すまぬな。我一人ではあのステージは間近で鑑賞できぬのだ」

「はあ、まあ……それはええねんけど……」

 たい焼きの最後の一口を放り込み、咀嚼する。長く置きすぎてすっかり冷め、口の水分を持って行かれる感じがした。

「山ン本様はああいった見世物がお好きなんやろか?」

「そうだな。勧善懲悪といった分かりやすい筋立てに派手な殺陣は我の好むべきところである。今日はステージであったためなかったが、テレビ放映時の爆破演出などは見ごたえがあるのだぞ」

「はあ……」

 キラキラとした目で語り始めた九朗左衛門に、伽耶は曖昧に頷く。

 あまり踏み込むと長くなりそうだと自然と察した。

「ウチはあんまり分かりまへんわあ。殺陣なんかは、まあ、見ててちょっとは楽しい思いましたけど、悪モンが負けるだけの話はちょっと……」

「ほほう」

 九朗左衛門が顎に手を当て、考え込む。それを見て「しまった」と身構えたが、予想に反して九朗左衛門はなるほどと頷いただけだった。

「そういう観点もあるか」

「……へえ。ウチらは鬼でっしゃろ? 人間の敵やから、どうしてもああいう劇やと悪モンの方に感情移入してまうんや」

 ついでとばかりに、もう少し話題に踏み込む。

 なるほど、と九朗左衛門は再び頷く。

「貴様は生粋の鬼であるようだな」

「そりゃあ、ウチは鬼やよ? 山ン本様もそうやないんですか?」

「ふむ。確かに我は鬼の中の鬼である。しかしその根にある気質というものは貴様らとは少し違うかもしれぬ」

「……?」

 首を傾げる伽耶に九朗左衛門は実に楽しそうに語る。

「貴様は初代山ン本は知っているか」

「そらまあ。ご隠居様を知らん山ン本一派なんておらへんのやないですか?」

「では初代が人間好きであることは知っているか?」

「ええっと、確か『稲生物怪録』やったっけ? 初代神ン野と競い合ってたご隠居様が、人間の若モンを驚かすのに手間取ったって怪談」

「そうだ。あの一件で初代は神ン野に苦渋を嘗めさせられたわけだが、それとは別にその若者を大きく讃えておるのだ。天晴見事なり、その度胸は目を見張るものがある。今後万一神ン野がちょっかいをかけてきたら自分を呼べ、とな」

「はあ、そう言えばそんな話やった気がします」

 正直、鬼目線からすると自身の敬服する頭領のご先祖様の失敗談なわけだから、あまり好んで聞きたい話ではない。細部については曖昧だが、確かそんな内容だったと記憶している。

「その初代の血を引いておるのだ。我もまた人間については興味深い存在であると考えておる」

 言いながら、九朗左衛門は実に楽しそうだった。まるで先ほどのショーの続きを見ているかのような声音で語る。

「我は鬼である。鬼とは、人間の敵である。その血肉を啜り、恐怖を喰らう。しかしだからと言って、人間を憎いと思ったことなど一度もないし、ましてや滅ぼすべきなど考えたこともない。かといって軽んじたこともないし、ぞんざいに扱うこともない」

 ひじ掛けに腕を置き、九朗左衛門は長い足を組む。その些細な動作においても威厳が感じられる一方で、狭いゴンドラ内で足が伽耶にぶつからないよう慎重に動いているのも見て取れた。

「我は人間と鬼は対等であるべきだと考えている。奴ら人間から我らは恐怖という感情をもらっている。その見返りに、我らは何を与える?」

「えっと……すんまへん、よう分かりません」

「簡単なことだ。鬼と言う悪を退けるという達成感と安堵を与えてやればよい」

「……ああ」

 それで最初の話に繋がるのか、と伽耶は顔をあげた。

 視線が合った九朗左衛門は、とてもとても気合の入った悪役面を浮かべていた。

「貴様はもしかしたら、我が伊達や酔狂で今日のステージを見に来たと思っているやもしれんが、少し惜しい」

「い、いえ! そんなことは……少し惜しい?」

 つまり根っこの部分は伊達や酔狂ということか。

「我はな、伽耶。人間の敵たる鬼として、人間が今日も健やかに悪を退け、達成感と安堵を抱いているか確認しに来たのだ」

 鬼は人間の敵である。

 されど決して人間を見下してはならぬ。

 人間を滅してはならぬ。

 人間をすり潰し、へし折ってはならぬ。

 一時はそれで至上の恐怖を味わえるかもしれない。

 しかしその先は、何もない――何ひとつ。

 迎え撃つ人間に適度に安堵を与え、また立ち直させる。しばし時を置き、再び敵として立ちはだかり恐怖を喰らう。

 それが鬼のあるべき姿である、と九朗左衛門は語った。

「さて、そろそろ一周か」

「あ……」

 言われて、伽耶は振り返る。気付けば、一度は天高く上ったゴンドラが地面も再び近くなっていた。

「んー……ぷはあ、しかし今日は良いステージだった!」

 狭いゴンドラの中で器用に背を伸ばし、肩回りをゴキゴキ鳴らす。それをぼうっと眺めながら、伽耶はふと言葉を漏らす。

「山ン本様」

「ん?」

「もし今後、今日みたいに娘役が必要だったらウチが付き合いますえ」

「いいのか!? いやあ、貴様の反応がイマイチであった故、今日限りかと思っておったわ!」

「それはまあ、その……」

 最初はきっつい状況だと思っていた。しかし九朗左衛門の心根を聞いた今、その誘いを無碍にするという選択肢は伽耶の中から消えていた。

「はっはっは! では次はどこのステージにしようか! 少し足を遠く運ぶ必要があるが、別の遊園地のステージも見事と聞く!」

 九朗左衛門はにこにこと手帳を取り出し、ページをめくる。結構な数に目星をつけていたらしいが、これまで我慢していたのだろう。

 そんな九朗左衛門を見つめながら、伽耶はこれだけはきつく釘を刺した。

「ただそん時の服は、ウチが自分で選びますね」

「え」

「山ン本様、この服はないで。きっついわあ」

「なに!? 小さかったか!?」

「サイズちゃいますねん。センスの話や」

 それだけは絶対に譲れなかった。

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