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Space Mantis Line~宇宙蟷螂戦線~  作者: 鳳飛鳥
#.1北海道奪還戦線

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第26話:政治と文化と軍事と知的欲求

月の公転軌道上を等間隔に並んだ銀河連邦共和国が保有するコロニー群セブンスムーン、その最後の数字を冠するセブンスが司るのは、文化、軍事、政治の3本柱だとパンフレットには書かれていた。


 どうやら文化の中には教育分野も含まれている様で、セブンスムーンに暮らす者達の間に生まれた子ども達が通う為の大学なんかも、セブンスにはあるらしい。


 軍事の分野は機密事項が多いがゆえに非公開なのかと思えば、ある程度観光客に見せても良い部分に関しては、有料では有るが一般公開されて居る様である。


 更にはセブンスムーンの行政機関、日本で言う所の国会議事堂に当たるであろう建物に関しても、此方は常に公開しているわけでは無く事前予約制では有るが、ソレでも相応のポイントさえ払えば見ることが出来ると言う。


 そうした様々な文化、軍事、政治に関わる施設が立ち並ぶ様子が映し出された電子パンフレットの中で、シンの関心を大きく惹きつけたのは【図書館】と【博物館】の2つだ。


 シンは決して安くは無いポイントを支払い電子書籍専用の端末を買った人物では有るが、ビブリオマニアと呼ばれる様な本に執着する手合では無い。


 ソレでもそうした機器をわざわざ購入したのは銀河連邦共和国で流通している歴史書、つまりは地球では未だ推測に過ぎない様な宇宙誕生の秘密や、その後の宇宙の歴史について書かれた書籍なんかに興味が有ったからだ。


 けれども電子書籍としてでも地球で購入出来る物はある程度の選別がされて居るらしく、特に古代宇宙帝国に関する事と成ると検閲でも入っているのかと言いたく成る程に、情報らしい情報が乗っている書籍に今のところ当たって居ないのである。


 だがココに表示されて居る図書館はセブンスムーンに居住する銀河連邦共和国人が使うのが前提の施設で有り、そこにポイントさえ払えば地球人も立ち入る事は出来ますよー、と言ったスタンスの様なので、地球では買えない書籍が見つかる可能性はかなり高い。


 そしてもう一つ博物館の方も、基本的に所蔵されている品々はどれもレプリカで本物は無いらしいが、ソレでもセブンスムーンに住む学生達向けに開設されて居る施設である以上は、地球であれこれ考えるよりもよほど良い情報と出会えるだろう事は想像出来る。


 ぱっと見る限りでも、博物館には古代宇宙文明が宇宙カマキリの様にあれこれ色々とやらかしたアカン事の歴史についての展示が有りそうな雰囲気だし、これは期待大と言えるだろう。


 ただ問題はセブンスは観光を主とするコロニーでは無く、セブンスムーンに在住する銀河連邦共和国民への公益や福祉を目的としたコロニーである為か、上がる為の費用も滞在に掛かるポイントも他のコロニーよりも高めに設定されて居ると言う事だ。


 銀河連邦共和国民ならば同じ星系に存在するコロニーや惑星であれば、わざわざ宇宙船に乗って宇宙空間を航海する様な事も無く、SF作品だと割と定番とも言える【ワープ装置】で移動する事が出来るらしい。


 つまりセブンスムーンと地球、そしてセブンスムーン同士ならば、わざわざ宇宙船を仕立ててべらぼうなコストを掛けて宇宙へ発射! なんて事をしなくても行き来する事が出来ると言う訳である。


 無論、ソレに何のリスクやコストが掛からないと言う訳では無く、あくまでも地球からロケットで宇宙空間へと上がりその後宇宙船でコロニーへと入る……なんて手順を踏むよりは安いと言う程度に他ならない。


 少なくともこのパンフレットに書かれている内容を信用するならば、日本から地球の裏側であるブラジルに行くにせよ、その転移装置を稼働させるよりは飛行機に乗った方が圧倒的にコストの面では安く済むと言う事だ。


 勿論、コストを度外視して即座に移動したいと言う需要は有るのだろうが、その為の機材は出発地点と到着地点両方に設置が必要であり、ソレを地球中に設置して回る程のポイントを地球側が支払う事が難しい為に、地球でソレを利用する事は出来ないと言う事である。


 なお今現在、地球上にたった一箇所だけでは有るがセブンスムーンと地球をつなぐ為に、転移装置が設置されて居る場所が有るのだが、その場所は非公開で有り知っているのはアメリカ政府要人とNASAの上級職員ぐらいだ。


「……図書館と博物館か」


 プロゲーマーとして東京に居た頃も、休暇の類が全く無かった訳では無く、当時の愛車であるロードバイクで都内を散策して回った事は有る。


 多くの場合は大学時代のサークル活動時の様に、美味い店を探して食べ歩くのが目的だったが、西新宿に有る平和祈念展示資料館や、江東区北砂に有る東京大空襲・戦災資料センター何かを見て回る事も当然していた。


 シンは歴史ヲタクの中でも華やかな表舞台を追い求めるのは割と浅いミーハーで、辛く汚く醜い裏舞台とでも言うべき悲惨さにも目をやるのが深い歴史ヲタクだ……と言う割と偏った考え方を持っていたりする。


 その為、第二次世界大戦における戦争の悲惨さを記録したこの手の戦争博物館とでも言うべき物は大好物なのだ。


 機会がなかったのと、旅行を好む性質(たち)では無い一種の出不精とでも言うべき性格で無ければ、金は有るんだから……と広島平和記念資料館や長崎原爆資料館へは間違い無く行っていただろう。


 プロゲーマーに成る以前の大学時代には、道南方面に住む親戚の所へ家族と共に出かけた際には、ついでに函館まで行って五稜郭を見て回ったり、江差で開陽丸記念館を見学したりもした物だ。


 ついでがあれば遠くに出かける事も否とは言わない彼だが、基本的にものぐさな性格なのか、自分の興味が有る事だとしても遠出をするのは好まないのである。


 しかしそんな彼をしてもセブンスに有る図書館や博物館は、一度は足を運びたいと思わせるだけの魅力に満ちていた。


「高いって言ってもシクススで医療行為を受けるのに比べりゃだいぶん安いし、稼いで稼げない数字じゃねぇよな?」


 普段の物憂げ……と言えば言葉が良いが、口の悪い身内からは【魚が死んだ様な目】とまで言われる彼の視線が、欲を湛えてギラリと光を帯びる。


 恐らく大学時代の先輩や後輩、更に言えば教授たちの中にすら、マーセとしての活動を行っている者は居ないだろう。


 と言う事はNASAの高官等、事前に銀河連邦との繋がりを持っていた者は例外として、歴史家と言う括りの中で言うならば自分が最も早く、銀河連邦や古代銀河帝国と言う先進文明の歴史に触れる事が出来ると言う事では無かろうか?


 シンには歴史家として世間に認められたいとか、論文を評価されたいと言った欲望は無い。


 ただただ地球人……日本人では誰も知らないだろう先進文明の歴史と言う未開拓の荒野の先に何が有るのかを知りたいと言う知的欲求だけが今の彼を突き動かして居る。


 通常人間と言う生き物は三大欲求が満たされれば次に物欲が、そしてソレが満たされたならば名誉欲が働くモノなんて説も有るが、少なくともシン……(たちばな) (まこと)と言う人間は知的好奇心が最も大きな欲望と言えるタイプの人間らしい。



 彼がプロゲーマーとして稼いだ金で投資した株式と不動産から上がって来る収入だけで暮らせる、所謂【ネオニート】生活から脱却しマーセとしての活動を始めたのも、元を正せばやはり知的好奇心が働いたが故だ。


 その知的好奇心の切欠は、幼い頃に兄のパソコンに入っていた第二次世界大戦を描いた戦争ゲームでは有ったが、戦争だけが歴史だとは彼も思っては居ない。


 言ってはあれだが明治維新前の日本の技術レベルは、欧米のソレと比べたら300年の天下泰平の中で完全に取り残されていた……と言って間違いないだろう。


 にも拘らず明治元年1868年から第二次世界大戦が勃発した1939年までの、およそ70年と言う極々わずかと言っても良い月日で、まがりなりにも欧米列強諸国とがっぷり四つに組んで戦えるまでに成長したのだ。


 その期間の歴史にだって見るべき物は山ほどある、文明開化と呼ばれた明治の時代から、大正ロマン等と言われる時代にも、それぞれに深く重い魅力が有る。


 けれどもソレ等は既に多くの先人が手垢を付けた分野に過ぎず、誰かが発見したであろう事をなぞるに過ぎない。


 無論、銀河連邦の図書館や博物館で手に入る情報だって、銀河連邦の歴史家が調べ纏めた物だろう事に変わりは無いが、少なくとも自分以外の日本人はまだ誰も知らないと言う事に、優越感を覚えるのは間違いないだろう。


 ソレを地球の各国や日本で大々的に発表する様な気は無いのだが……言ってしまえばヲタクなんてのは自己満足を満たす為にヲタクをやっているのが普通なので、彼が其れで満足ならば良いのかもしれない。


 まだ見ぬ未知の知識に思いを馳せながら、シンはあらかた読み終えたパンフレットのデータを閉じるのだった。

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