第23話:宇宙人の技術を学ぼう、水産業・接客業
セブンスムーン・サードは内容量の大半を人工の海と川そして湖が占める水のコロニーとでも言うべき場所だとパンフレットには書かれている。
その目的は水産資源の養殖が第一では有るが、合わせて海水浴や川遊びに湖水浴、更にはジェットスキーにマリンボート等など水のレジャーも楽しめる観光コロニーの側面も併せ持つ、一次産業と三次産業双方を受け持つ場所だ。
ファーストやセカンドにも観光客を受け入れる為の宿泊施設なんかは有るとは書かれているが、サードのソレは前者に有る物と完全に掛け離れた観光地に有るそこそこの値段のホテルの様相を呈している。
そのホテルには流石に天然温泉とは行かない物の、人工的に合成された温泉の大浴場なんかも有るらしく、人工の海に有る安全を考慮した遊び場【海のプール】で泳いだ後には、そこで海水を流してさっぽりする事が出来ると言う。
温泉が有る場所と言えば【秘宝館】の様なシモに関わる施設と言うのは割と付き物だと言うのは、札幌の奥座敷としても名高い定山渓にも昔はそう言う物が有ったので、或る意味で当然と言えば当然と言える筈だ。
実際パンフレットにはセクシーな衣装で無重力空間を踊る女性ダンサーの映像が添付されており、彼女達に見合う対価を支払う事が出来るならば【一晩買う】事も可能だと書かれていたりする。
日本ではそうした性的なサービスは基本的にグレーゾーンで有り、明確な性交渉を伴う売買春は違法行為だ。
けれども銀河連邦共和国に置いては、そうしたサービスも双方合意の上で有れば何ら問題は無いらしい。
エッチの前には愛が要る……と言うのが日本流で有り、所謂【風俗営業】の中でも特に過激とされる場所ですら、建前としては性行為をサービスとして売っては居らずあくまでキャストと客の自由恋愛の結果と言う事に成っている。
ぶっちゃけそんな建前は誰も信じて居ないとは思うのだが、警察が法律で決まっているラインを越えて越権捜査なんて事がまかり通っても困るし、性的な産業は人間が人間で有る以上絶対に無くなる事も無いので、表向きがキレイに成ってればヨシとするしか無い。
「んー、海も暫く行ってねぇなぁ」
北海道で海に行くと言うと、海岸沿いに住んでいる者は別として、多くの場合は砂浜にテントを立ててそこでキャンプをする……と言うのが定番である。
家族と一緒に暮らしているならば子どもを連れて夏休みに一泊二日で……と言うのが毎年当たり前に行われる行事と行っても良い。
無論、内地のヨコハマ辺りで行われている様に、日帰りでビーチに遊びに行って女の子をナンパする……なんて事が全く無いかと言えばそんな事も無いが、そうした事が行われているのは小樽や石狩辺りの大きな海水浴場くらいだろう。
まぁあの辺の海は夏の暑い盛りには【芋洗いビーチ】なんて言われたりする事も有るし、テントを立ててキャンプをすると言う北海道式の海水浴には向かない場所とも言える。
恐らくは今でも毎年シンの父親は孫、つまりは彼の兄弟の子ども達……シンから見れば甥っ子や姪っ子達を連れて、シン達兄弟が子どもの頃には毎年行っていた穴場のビーチに行っているのでは無かろうか?
特にここ数年は地球温暖化の影響なのか、札幌でも真夏には連日30℃を超える猛暑の日々が続いていたりもしたので、そうした中での海水浴は楽しめて居る筈である。
宇宙カマキリは山間部を主な繁殖の場とし水辺を嫌う習性が有る為、今の地球上で海水浴はコレまで以上に人気の有る娯楽に成っていたりもするのだ。
東京に居た頃はそれこそ夏場はクーラーの効いた室内で、一日の大半はゲーム漬けだったし、身体を動かす時だって暑い時期は外を走るのを避けてオンラインゲームに繋げた自転車を漕ぐ方が多かった。
夏に海に行った記憶なんてそれこそ大学時代にサークルの仲間たちと、石狩の海近くに有るラーメン屋へ行くついでにナンパをしようとした時まで遡らなければ思い出す事すら出来ない程だ。
ちなみにシンは所謂カナヅチでは無い、彼の父親は道南の小さな漁港の出身で海以外に遊ぶ場所がない……なんて田舎の出だった為に泳ぎはかなり達者な方で、そんな人物が毎年海へと連れて行ってくれるのだから教えない訳がないのである。
海への憧れと思い出が脳裏をよぎる中、次のページ……セブンスムーン・フォースの紹介を開いて見れば、サードで紹介されて居たよりも更に官能的な装束を身に纏った女性達の姿が映し出されていた。
サードで紹介されいた女性達は正直な所、地球人とほとんど変わらない見た目だったので、無重力ダンスと言う演目だけが特徴的だったが、フォースで紹介されて居る女性達は恐らく亜人と呼ばれる様な遺伝子改造を受けた結果産まれた種族の者達だ。
ファンタジーを題材とした物語では必ずと言って良い程に描かれる、細長い耳をした長命種族のエルフ、小柄な体格ながら圧倒的な腕力を有するドワーフ、犬やネコと言った愛玩動物の容貌と頭から生えた耳が特徴的な獣人と言った者達が間違い無くそこに居た。
先日読んだ本の内容から察するに彼女たちは古代宇宙帝国時代に、何等かの理由で開発された強化人間である。
古代宇宙帝国時代には生物兵器の類として扱われていた者達では有るが、現在の銀河連邦共和国では被差別種族と言う事も無く、極々普通に暮らす一般共和国民と言う事に成るらしい。
ただ亜人系の女性と言うのは【そう言う目的】も含めて開発されたと言う事も有るそうで、基本的に見目麗しい傾向が有る。
それだけが理由と言う訳でもないのだろうが、比較的高級な店が軒を連ねる様な歓楽街では、亜人系の女性が働いて居る事が多いのだとパンフレットに書かれていた。
セブンスムーン・フォースは地球からの観光客では無く、セブンスムーンに所属する他のコロニーに居住する者達が遊ぶ為の歓楽街と言う意味合いが強く、コロニー居住者は総じて高給取りである事を考えれば最高級の店が並ぶ街と言う感じだろう。
シンが毎日通うスポーツジムの有るススキノや新宿の歌舞伎町に大阪のミナミを総じて、日本三大歓楽街等と言ったりする事も有るが、フォースは何方かと言えばそうした一般的な歓楽街というよりは、銀座辺りの高級クラブが軒を連ねる場所の方が近いかもしれない。
更にここには銀河連邦国内の様々な惑星から仕入れた様々な酒が用意されて居ると言う事で、比較的リーズナブルに提供されて居る物から、地球でもプレミアがついてべらぼうな価格に成っている様な酒を超える値付けの物まで味わう事が出来ると言う。
なおマーセ達が打ち上げの場で飲んでいる酒は地球上で作られた物も有るが、フォースに貯蔵されて居る物の中で、比較的安価な物が定期的に地上へと降ろされて提供されて居るらしい。
……シンはほとんど飲まないので知らない事では有るが、同価格帯の地球産の酒より美味い物も有れば、そうでもない物も有ったりとバラエティ豊かで、酒飲みマーセ達はソレ等を目当てに死なないまでも痛い思いに耐えて居たりする訳だ。
ついでに言えば、地球上では宇宙カマキリの影響で全体的に値上がりして居る畜産物が、マーセ達の打ち上げでは安価とも言えるポイントで提供されて居るのも、ファースト産の畜産物を酒と一緒に地上へと卸しているからである。
現状では地球の産業を圧迫する事のない様に、コロニー産の食品が提供されるのはマーセの打ち上げと、マーセがポイントで購入したお土産の類だけだ。
シンも毎回完全に打ち上げを拒否して居ると言う訳では無いので、何度かはソレ等を口にしているが、良くこの値段で採算が取れるな……と思う程のクオリティだったのは、地球産の物よりも安定して安く生産出来るからなのである。
「今ん所は大量のポイントを貯めてまで宇宙に上がりたいとは思わんなぁ……」
ファーストからフォースまでの4つのコロニーにはシンの琴線に触れる物は無かった様で、そんな事をつぶやきながら、次のページへと手を進めるのだった。




