85話
取り敢えずの話し合いはそこで終了したので、愛莉さんの運転する車で月坂さんの自宅に送り届けた。車内で細かい事や聞きたい事などはデヴァイスのチャット機能で連絡を取り合う事を決めた。
あと、月坂さんも休学するなんて言い出した時はマジで焦った。結局、俺と月坂さん二人共休学とかどう考えても怪しすぎるから京條さんに疑われるし、京條さんの動向を知る意味でも学校に通って欲しいと説得した。
そして、家に帰って来て夕食を作り、母さんたちと食事を終えたタイミングで話を切り出した。
「俺、学校を休学しようと思う」
「えっ!?ど、どうしたの急に!?もしかしてクラスでいじめがあったり!?」
母さんがあたふたする。
「学校には問題無いよ。学校には」
そう言って意味深に嵯峨根さんの方を見る。
「わ、私ですの!?」
俺に見られた嵯峨根さんが素っ頓狂な声を出す。
「嵯峨根さんと言うよりも嵯峨根家や京條家などの上流階級と言うべきでしょうね」
「この前の事?」
「あぁ……」
母さんは良く分かって無さそうだが、嵯峨根さんは絶望的な声を出した。
「そんな反応をした嵯峨根さん、理由は分かっているんですね?」
「えぇ、予想できた事ですわ。そう言う事なら私はこの場にいない方がよろしいのではなくて?」
諦めたような自嘲を浮かべてそんな事を言う。
「嵯峨根さんを信用していない訳ではありません。ですが、嵯峨根家から何かを言われれば従うしかないのではありませんか?」
嵯峨根さんが嬉々として俺を売った等とは思っていない。しかし、嵯峨根家に事情を説明して欲しいと言った俺の言葉を逆手に取って情報を流した疑惑はある。
「その通りですわ。ですから、この場にはいない方が良いのですわ」
「僕としていない間に何かされる方が怖いんですよ。なので、この場にいて下さい。愛莉さん、お願いします」
「はっ」
本気で隠すつもりなら嵯峨根さんがいるこの家でそもそも話をしようなどとは思わない。それに、これで嵯峨根家が情報を得たなら嵯峨根幸那が情報を流した事が確定する。個人情報の漏洩で男性警護者の解雇の理由になる。遺恨云々も通用しない立派な理由だ。
だが甘いかもしれないが、彼女が男性警護者としてそんな事をするとは思えなかった。前回はあくまで俺が嵯峨根家に事情を説明して欲しいと言った事を向こうが逆手に取って情報を嵯峨根さんから上手く聞き取っただけだと考えている。
「それでは、話を続けます」
今日、月坂さんと話した事を母さんに話す。
「配信者……」
話を聞いた母さんは口をポカンと開けたままだ。
「嵯峨根さん、この計画上手くいくと思いますか?」
酷かもしれないが嵯峨根さんに尋ねる。彼女は上流階級の人間だから、上流階級がどうするか予想は付いているだろう。
「私が上手くいくと言って信じて下さいますの?」
「理由如何と言った所ですね。少なくとも『最初から嵯峨根さんの言っている事は信じらない』などという事はありません」
紛れもなく本心だ。
「分かりましたわ。あくまで私の見立てだという事はご理解下さいまし?その上で言うなら、成功する可能性はありますわ」
ふむ……朗報と言いたい所だが、1%だけどとか言うオチじゃないだろうな?
「そうですか……パーセンテージで言うとどの位でしょう?」
「ふふっ。流石は春人さん、抜け目がありませんの。私は20%位と見ていますわ。勿論、厳しめでという事ですわ。甘めに考えるなら50%と言った所ですわね」
えぇ!?思ったより高いな。
「理由を聞かせて貰えますか?」
「上流階級は配信と言った類の事に疎いんですの。なので、ある程度話題にならなければ春人さんが配信している事に気付かないと思いますわ。そして、上流階級の耳に届くまでになった時にはすでに時遅し、上流階級が強引に春人さんと婚姻を結ぶのは難しいですわ。『上流階級の○○家に家族が圧力を掛けられて婚姻しなければずっと続くと脅されました。助けて下さい』なんて配信で言われようものなら……」
ふむふむ……
「その配信自体を権力で止めたりとかされませんか?それに、配信を見ている人は味方してくれるかもしれませんが、見ていない人だっています。寧ろそちらの方が多いでしょう。そういう人たちを味方につけるにはどうしたら良いでしょう?」
俺の懸念が拭えないのはコレだ。前世で言うテレビがなくなってテレビ番組も配信と言う形になった様だが、だからといって配信者の配信を見ている人が日本国民の大多数とは言えないだろう。
だからと言って見ている人が多そうなテレビ局が制作する番組に出るのも、雑誌の取材を受けたりするのも上流階級からの圧力で簡単に止められそうだから検討しなかったのだ。
「味方にする方法は春人さんが考えるべき事ですわ。ただ、日本の話に限定しているのは違うと思いますの。動画や配信は世界中の人が見れるものではなくて?」
あぁ……そうだよ。前世の性加害の問題も日本のメディアは最初は取り上げなかった。最初に取り上げたのは海外のメディアだったな。
この世界なら特に海外のメディアは期待できそうだ。日本はダメだからウチの国に来たら?って勧誘する為に力を入れて報道してくれそうだな。
保険と言うよりそちらも次善の策として練ってみようか。月坂さんに相談だな。
「嵯峨根さん、貴重なご意見ありがとうございました」
「春人さんの役に立てたのなら幸いですの」
嵯峨根さんも板挟みなのは辛い所だろうけど、元はと言えば彼女の所為だからな……
最後まで読んでいただきありがとうございました。お手数をお掛けしますが、宜しければ拙作への評価やブックマークよろしくお願い致します。




