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15、唐突な接触、襲い来る絶望感

 教室を出た護は、背後から感じていた気配がなくなったことに気づいた。

 それを気にして、思わず振り向いてしまったが、そこには何もない。

 だが、何かに見られているような気配があったことは確かだ。


 ――いったい、なんだったんだ?


 正体不明の気配に、護は眉をひそめる。

 瘴気に引き寄せられてきた妖の類か、この瘴気を利用しようとしている誰かなのか、はたまたこの瘴気を生み出した元凶か。

 いずれにしても、何か良くないものが絡んできている。

 護の直感がそう告げていた。


 ――警戒しとくにこしたことはないか……


 こういう時の直感はよく当たる。

 護は経験でそれを知っているため、一応、気に留めておくことにして、目的の場所へと急いだ。

 一方、法師が使鬼として力を貸している佳代は、まだ教室に残っていた。

 力を貸してくれている法師から、呪具が何者かに破壊されたと伝えられたため、追加の呪具を仕込むためだ。

 呪具を仕込みながら佳代子は。


 ――少し、慎重さが欠けていたかもしれない……これは少し反省ね


 呪具は見つからないように、隠ぺいしたつもりだった。

 だが、わずかな違和感に気づいた誰かが、呪具を見つけて、捨ててしまったのだろう。

 法師曰く、あの呪具は一つの場所に長い時間とどまってこそ、意味があるものらしい。

 新しい呪具を用意すれば、たしかに呪詛は継続される。

 だが、それまで使っていた呪具の効力よりも、数段、効力が落ちるのだとか。

 じわじわと、ゆっくり苦しめていくには、それもいいかもしれない。

 だが、呪具を隠した場所を見ることは、その呪具に込められた念を完全に消してしまい、呪詛が成立しなくなってしまう恐れがある。

 そのため、自分で呪具を取り替えることはできない。


 ――けど、誰だろう?この呪具の隠し場所を見つけたのって


 佳代の脳裏に疑問が浮かび上がる。

 基本的にクラスメイトたちは佳代に関心を持っていない。

 そもそも、佳代が呪具を隠している時間帯は全員が帰った、あるいは部活動でこの場を離れている放課後である。

 現場を押さえられていた、という事態があるはずはない。

 だとすれば、本当に鋭い観察眼を持っているクラスメイトがいるのか、あるいは、本物の霊能者がいるのか。

 いずれにしても、今後、呪具を仕掛けるには慎重に慎重を重ねなければいけない。

 そう思う反面、同時に。


 ――けど、もし本当に霊能者が見つけたなら、わたしの味方をしてほしいな……


 不思議なこと、不思議なものに幼い頃から興味があり、いわゆる、超能力やオカルトには、幼い頃から何故か心惹かれていた。

 それが高じて、ホラーやオカルト小説を読むようになり、やがて本の虫とまで呼ばれるほどになる。

 その後、ジャンルの特殊性のせいか、風変わりな生徒、として捉えられ、いつしかいじめの対象として取られるようになってしまった。


――興味があるものがオカルト系だったのにいじめられて……仕返ししようとして、呪いのことについても調べたっけ


 人を呪わば穴二つという言葉も、その過程で知った。

 本に登場する呪いをかけた登場人物たちが、ことごとく、非業の最期を遂げていることも。

 だから、いままで仕返しをすることも、心の中で呪詛を吐きつけるようなことはしなかった。


――けど、もう限界……仕返ししないと、わたしの心がもたない


 もし、本当の霊能者が自分の仕掛けた呪具を見つけたなら、その人もまた、理不尽にさらされてきたに違いない。

 だからこそ、まずは自分にとっての理不尽の象徴である彼女たちを懲らしめることに協力してほしいと思っているのだ。

 むろん、代償として次は自分が、その人が受けてきた理不尽への復讐に力を貸すつもりでいる。

 けれど、何よりもそう思う心の奥底には。


 ――そしたら……友達に、なってくれるかな?


 という、寂しさを埋めたいという願望がある。

 しかし、その願望がかなうことも、佳代の淡い期待も、すぐに崩れ去ることになってしまった。


 「なるほど。やっぱり、お前だったわけだ。呪具を仕込んでたのは」

 「……え?」


 突然、がらがら、と教室の扉が開く音が聞こえてきた。

 思わず、視線を扉の方へむける。

 そこにはいままで見たことがある、まるで何事にも無関心であるかのような感情のない瞳ではなく、自分を蔑むような冷たい瞳を向けている護の姿があった。

 生徒は全員、帰宅、あるいは部活動に出席するため、教室を後にしたはず。

 なぜ、ここに彼が、自分が恋心を向けた男子がいるのか。

 佳代は唐突すぎる遭遇に、頭が真っ白になる。

 だが、そんな彼女に慈悲をむけるつもりはなく、むしろ知ったことではないといった風に、護は教室に入り、佳代の手に握られていた呪具を掴み、持ち上げた。


 「……あっ!」


 当然、佳代はそれを取り返そうと手を伸ばした。

 だが、護は佳代の伸ばした手を掴み、それを阻止する。

 佳代の腕をつかむと、護は呆れと怒りが混ざったようなため息をついて、口を開いた。


 「まったく。素人が呪詛なんて物騒なことしようとするな」

 「……っ!!」


 なぜ、自分が呪詛を行おうとしていることに気づいたのか。

 佳代は目を丸くする。

 いや、そもそもこれが呪具であるということになぜ気づいたのか。


――まさか、今朝わたしが仕掛けた呪具を処分したのは……土御門くん、なの?


 その結論が頭をよぎった瞬間。

 佳代の脳裏は。


――この世に、わたしの味方になってくれる人は誰もいない……わたしには、手を差し出して助けてくれる人はいないんだ


 そんな絶望感で埋め尽くされた。

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