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12、燃ゆる嫉妬心と渦巻く狂気

 瘴気の一件をどうにかするため、護と月美は手始めに教室の四方を囲む結界を作り上げ、内部の空気を道具を何も用いない状態でできる最上級の浄化を行った。

 だが、霊力を大きく消耗した影響で、かなりの疲労が蓄積してしまい、ホームルームの間、ずっと舟をこいでいる。

 そんな状態にあっても、二人とも、担任が告げた連絡事項はしっかり聞いているあたり、慣れのようなものが見え隠れしていた。


 閑話休題それはどうでもいいとして


「あ~、と。最近、学校全体で体調不良で休みがちになる連中が少し増えてる。体育祭に向けての練習が大変だってことはわかるが、体調管理はしっかり行うように!以上!!」


 二人が舟をこいでいる様子を無視して、担任は連絡事項を告げて、さっさと教室から出て行く。

 担任が教室から出ていくと、生徒たちは授業の準備もそこそこに、友人同士で談笑を始めていた。

 だが、まだ護と月美はうつらうつらとしている。

 その姿を見かねた清と明美が起こさなければ、二人とも、始業前までうつらうつらとしていたに違いない。


「ったく、一体なにやってんだよ?」

「二人して居眠りって、なんか珍し……」


 言いかけた明美は、一つの無粋な可能性に気づき、顔を赤く染めたかと思えば、意地の悪い笑みを浮かべて、月美の耳元まで近づいた。


「もしかしなくても、お二人でしっぽりぬっぽり、ですか?」

「んぇ?そんなんじゃないよぉ……」

「またまたぁ。と言いたいけど、その反応じゃ、本当みたいね……」


 月美の反応が、予想していたもの、というよりも期待していたものとまったく違っていたため、面白くなさそうな表情を浮かべて、ため息をつく。

 何を想像したのかはあえて聞かなかった月美だが、何を聞こうとしたのか理解できてしまい、顔面を真っ赤にした。

 その反応を、明美が見逃すはずがなく。


「お?もしかして想像しちゃった?」

「……明美の意地悪」

「にっしし~」


 愛らしく頬を膨らませる月美に向かって、明美は意地悪な笑みを浮かべた。

 その笑みに、月美の中で何かが切れたらしい。

 背後から、ゴゴゴゴゴ、と音が聞こえるのではないかと錯覚しそうな雰囲気をまといながら、こぶしを握り締めていた。


「いや、ごめん。ごめんって!だからしまったよ、そのげんこつ!!」


 その姿から、自分を殴ろうとしていることに一切のためらいもないことを察知した明美は、急いで謝罪した。

 その行動の迅速さが幸いして、事なきを得たことは言うまでもない。

 だが、この時、二人は気づいていなかった。

 二人のそのやり取りを、佳代が影から見聞きしていたことに。


――風森さん、やっぱり土御門くんと……そりゃそうだよね、毎朝、あんなに仲良さそうに登校してるだもん


 平日はほぼ毎日、二人で登下校している光景を目にしていれば、おのずとわかることだ。

 わかっていたことだけれど。


――頭でわかっていても、納得するなんてこと、できない


 月美と護の間に何があったのかは知らない。知るはずもない。

 けれど、彼の名のように守ってもらったのは、いじめっ子たちから助けてもらったのは自分だ。


――土御門くんはわたしを見てくれた。何があったかはわからないけど、喧嘩してた風森さんじゃなくて、私を見てくれた


 そう思えば思うほど、佳代の心の中にぐつぐつと何かが煮えたぎり、熱を帯びているように感じた。

 それが嫉妬だということはわかっている。

 抱いていてもどうしようもない、むなしいだけの感情だということも。

 けれど、その感情を抱かずにはいられない。

 なぜ、彼は自分ではなく彼女を選んだのか。なぜ彼女の前では笑みが浮かぶのか。


――なんで?なんで?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……なんでなのよ??!!


 答えの出ない疑問が、頭の中をぐるぐると駆け巡る。

 まるで黒い渦のように回り続けるその疑問は、徐々にストレスへ変わっていき、体に不調をきたし始めた。


――頭痛い、おなかも重い……なんで、こんなに気持ち悪いの?なんで、こんな想いをしなきゃいけない?なんで、こんなに苦しいの??


 何も悪いことはしていない。

 だというのに、なぜこんな苦しい思いをしなければならないのだろう。

 むしろ、この苦しみは今まで自分を苦しめてきたいじめっ子どもが受けるべきものではないのか。

 そんな気持ちがよぎった瞬間、ふと、一つの閃きが頭をよぎった。


――そうか。いなくなればいいんだ……風森さんが、わたしの。土御門くんの前からいなくなればいいんだ……


 いじめっ子たちと同じだ。

 自分を不快にするものは、攻撃してくるものは、全部なくなってしまえばいい。

 それに、彼女がいなくなれば、きっと彼は自分の方を見てくれる。

 もう一度、手をつかんで、声をかけてくれるに違いない。

 自分だけのものに、なってくれる。

 そのための力を、"彼"がくれたのだから。


――なんだ、簡単なことだったんだ……


 その閃きがよぎった瞬間、佳代の顔は晴れ晴れとしたものになった。

 だが、彼女自身、その瞳の奥に狂気が宿っていることに、そして額に小さな瘤のようなものが二つできていることにまだ気づいていない。

 そんな佳代のその変貌を、一人の老人がニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら見守っていることにも。


――たとえ、その代償がどれほど大きいものだったとしても。わたしを嫌な気持ちにさせるものは、全部、全部、なくなってしまえ……


 だが、そんなことはまったく関心がないかのように、佳代は笑みを浮かべる。

 その笑みは見たものの背筋を凍らせるほど恐ろしい。

 しかし、どこか惹きつけられる、美しい笑顔だった。

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