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42、狐たちの活躍

――い、いったい、何を?!


 護に戦闘続行が可能かどうか問いかけられ、問題ないことを伝えた光は、護が起こした行動に驚愕していた。

 使鬼を呼び出したことだけは理解できたが、その数が問題なのだ。

 通常、術者一人が使役できる妖は、一人につき一体ないし二体が限度。

 むろん、それ以上の数を使役している術者もいるが、そういう術者が使役しているものは力も自我もあまり強くない小物ばかり。

 だが、護が呼び出した五色の狐たちは、いずれも高い霊力を有しており、その目に宿る意思の光からは自我すら感じられた。

 このレベルの妖となると、一体使役するだけでも相当の負担がかかるはずだ。

 その妖を五体も使役しているにもかかわらず、護は顔色一つ変えず、平然としている。

 一体全体、自分と彼の実力の間にはどれほどの開きがあるのか。

 そんな思考がよぎった瞬間。


「禁っ!!」


 月美の鋭い声が聞こえてきた。

 それに遅れて、不可視の障壁が光の目の前に築かれる。

 それと同時に、今までにないほど接近してきたケルベロスの顔が目に飛びこんできた。

 どうやら、護の使鬼の霊格と数に圧倒されている間に、ケルベロスが突進してきたらしい。


「……す、すまない」

「謝るのはあと!来るよ!!」


 その声と同時に、ケルベロスは障壁を打ち破って光にむかって突撃してくる。

 月美が時間を稼いでくれたおかげで、その突撃を回避することにあまり手間は取ることはなかった。

 だが、あまり同じことを繰り返していてもらちがあかない。

 そればかりか、体力的にどう考えてもケルベロスの方が有利だということは目に見えている。

 とはいえ、ケルベロスの攻撃が突撃と噛みつきくらいしかないことが今のところの救いだろう。


「……これで火を吹いてきたらと思うと、ぞっとしないぞ……」

「……言えてる」


 護のぼやきに月美が苦笑しながら返した。


「……とはいえ、このままだとじり貧だな」

「こうも体力勝負な相手だと、けっこう疲れるよね……どうしようか?」

「その方針がたてば、ちったぁ楽なんだけど」


 月美の問いかけに、護は苦笑しながら返したが、どうやらさすがにこの状況を打開する策はまだ浮かばないらしい。

 その視線の先は、ケルベロスと戦っている五色狐たちの姿があった。

 彼らは葛葉姫命(くずはひめのみこと)に仕えている、いわば神獣だ。

 神獣とは、その名の通り、神にすら通じると言われるほどの力を持っている存在である。

 そこら中にいる妖や悪霊の類に苦戦することなく、それこそ一瞬で決着をつけることも可能だ。

 そんな彼らでもケルベロスに決定打を与えることができずにいる状態になっていた。

 単に護の今の力量が五色狐たちに追いついていないため、彼らの力が抑えられてしまっているということもあるが、それだけケルベロスが異質ということなのだろう。


――決定打に欠けているな……

――援軍を待つ以外の方法が思い浮かばない……


 護も月美も策が思い浮かばなかったが、どうにかケルベロスの動きを止めようと奮闘する様子を見て、光は一つの策が思い浮かんだらしい。


「……ねぇ、もしかして、あの狐たち、自分で術を使うことができたりする?」


 と、主である護に問いかけてくる。

 だが、護はその問いかけに答える気配がなかった。

 それもそのはずだ。

 基本的に術者という人種は、自分以外の術者に自分の手の内を明かすことを良しとはしない。

 それは護も同じことなのだが、いまはそれにこだわっている場合ではない。

 何より。


――どのみち、ここでの出来事は忘れるという契約だしな……別に構わないか


 ならば、話しても別段、問題はないはず。

 そう判断しての問いかけだった。


「……できるぞ」

「なら、縛魔術も?」

「……なるほど、そういうことか」


 護は光の思いつきに察しがついたらしく、納得したようにうなずいた。

 要するに、五色狐たちにしばらく動きを止めさせて、自分たちは攻撃に専念することができる環境を整える腹積もりのようだ。


「なら、わたしたちがやることはわかってるわよね?」

「もちろん」

「えぇ……なんとなく、だけど」


 光の問いかけに、護は堂々と答えたのに対して、月美は今一つ不安の残る言葉を返してくる。

 だが、月美もそこまで鈍くないことを、今までの戦闘で光は感じ取っていた。

 なんとなくとはいうが、護と自分がやることを見ていれば、おのずと察することができるだろう。

 そんな身勝手な期待を寄せながら、光は護に視線を向ける。


「それじゃ、お願い!」


 護はうなずいて返すと、静かに目を閉じ、五色狐たちに自分の声を届けた。


――おい、お前ら。さっきの会話、聞こえてたな?

《あぁ、ばっちりな》

《まったく、自分に使鬼がいないからと、他人を頼るというのはいかがなものだろうな?》

《言ってやるなよ、それは。力量の差、というものだろう》

《それはそれとして、止められるとしても、もって数秒だぞ?》

《まぁ、それくらいあれば十分、ということなのかもしれんが》

――あぁ、十分だ


 黒月、青風、紅葉、白桜、黄蓮から、それぞれの言葉が護の脳内に響いた。

 どうやら、やる気十分、といったところのようだ。

 それを知った護は、にやりと口角を吊り上げ。


「やってやれ!お前ら!!」


 と、高らかに命じた。

 その瞬間、五色狐たちはケルベロスを囲むように移動し、それぞれの配置に彼らがつく。

 その瞬間、額に描かれた五芒星からゆらゆらと炎のように光が立ち上った。

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