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46、見覚えしかない顔ぶれとともに現場へ

 保通の独断と偏見で編成された班分けを見た護と月美は、班員の名を見て、どこか安堵した。

 配られた名簿によれば、護と月美は満と光と同じ班に配属されることになっている。

 いきなり知らない人間と組むより、ある程度、一緒に仕事をしたことがある人間同士を組ませたのだろう。

 ある意味、保通が気を使ったということになるのだろうが。


「若手は若手で組ませときゃいいだろ、みたいな感じがするなぁ」

「ベテランがいないのは、やっぱりちょっと気になるよね」


 護も月美も、それなりに特殊生物と交戦した経験はある。

 だが、通常は護と月美の二人だけで、三人以上の術者と組んで行動した経験はない。

 行動を共にする人数が増えれば、その分、その場での判断よりも班員との連携や班長の指示を順守することが重要視されるようになる。

 班員同士での連携はともかく、時として班長の指示よりも個人の判断の方が状況を打開するための最善手となることもあるため、護としてはあまり大人数で行動することを好ましく思っていない。


――相方は月美だけで十分なんだけどなぁ……どうせ組むなら、父さんと月美とのほうが気が楽なんだけど


 もっとも、護の場合は自分の身近にいる人間と一緒にいる方が精神的に安定するためという、非常に個人的な理由が大きいのだが。

 それはともかく。


「まったく、つくづく君たちとは縁があるようだな」

「もはや腐れ縁か?」


 嫌味とも取れる言葉が二人の背後から聞こえてきた。

 振り返ると、昨年から何度となく一緒に仕事をしてきた二人の女術者がいる。

 あの班分けに彼女たちも意図的な何かを感じているのか、それとも腐れ縁のようなものを感じているからなのか。

 二人の顔には苦笑が浮かんでいた。


「まぁ、この組み合わせが腐れ縁かどうかはともかく」

「打ち合わせがあんまり必要ないのは、正直、少しありがたいかな」

「それは確かにそうだ」

「まぁけど、ある程度の方針を共有するのは必要だけどね」


 そんな二人の様子に、護と月美も同じく苦笑を浮かべる。

 だが、月美が言っているように、この四人が一緒に行動できることは、お互いにとってありがたいことだった。

 光と満は護と術比べをした経験があり、その実力を肌で感じ取ったことがある。

 月美の実力はまだ未知数の部分が多いが、護との関係から考えるに、起爆剤であったり抑止力として大いに期待しているのだ。

 もっとも、光も満も、護と月美の間にある霊的なつながりを感じ取っており。


――万が一、土御門に宿っているという神狐の力が暴走した場合、彼女でなければ抑えることはできないからな

――それに、土御門の名は『護』だ。安倍晴明の教えでは、『名前はこの世で最も短い呪』。何よりも彼女をまもるために、こいつは全力を尽くすだろう


 月美がいることで、護は十分すぎるほどの力を発揮するだけでなく、暴走しかねない神通力すらも抑止する安全装置となってくれる。

 それだけでなく、月美がいれば、護は名前に込められた呪詛にも似た強制力で彼女を守護することに力を尽くすだろうことは予想できていた。

 抑止力であり、おそらくは一番の戦力の起爆剤。

 能力や実力が未知数であっても、連れて行かないという選択肢はない。

 二人のそんな思惑はつゆ知らず。


「ともかく、まずは移動か」

「そうだね。早くしないとほかの人たちから遅れちゃう」


 護と月美は何やら思案顔になっている二人に声をかけ、その場から動き出した。

 数分後、護たちは現場であるオフィスビルの手前まで運ばれ、間近で問題となっている魔法陣とその周囲を目の当たりにし。


「こりゃまた。なんと言ったらいいのやら」

「凄まじい、としか言えんな」

「こんなの、いままで見たことないよ」

「安心しろ、風森。おそらく、私と同年代の職員全員が思っていることだ」


 四人ともそんな感想を漏らしていた。

 彼らの目の前は、まさに百鬼夜行と呼ぶにふさわしい、おどろおどろしい光景が広がっている。

 『明けの明星』が封じられている場所が地獄の底であるとされているためだろうか、黄泉の瘴気が周囲にあふれ、血のように赤い稲光と腹の奥底に響くような雷鳴がその場を支配していた。

 その奥には、何も知らずに飛び込んできたものを仕留めようとしているのか、らんらんと輝く獣の瞳のような光が見え隠れしている。

 そのような光景は、見鬼の才を持っている人間でもそうそうお目にかかることができるものではない。

 少なくとも、第二次世界大戦終戦当時や阪神淡路大震災といった大災害。

 あるいは、米国で同時多発的に発生した自爆テロ事件の現場では、もしかしたら見られたかもしれない。

 だが、それらの事件もすでに記憶の彼方に追いやられそうになっている現在においては、まず見られることのない光景であることは間違いなかった。


「まさに、百鬼夜行だな」

「あぁ。まさにその言葉がふさわしい」


 百鬼夜行とは、妖たちが徒党を組み、夜道を練り歩く光景を指す言葉だ。

 絵巻物などで手足の生えた琵琶や四つ足の笙など、付喪神が行列を組んでいるものは有名だろう。


「なんか、気持ち悪くなってきた……」

「百鬼夜行は初めてか?」

「ううん。小妖怪たちの行列みたいなのは、何度か見たことあるけど」

「これほどの禍々しさは、あの行列にはなかったな」

「うん」


 出雲で何度か小妖怪たちが行列を組んで練り歩く姿なら、護と月美も見かけたことはある。

 ここ東京でも、そのような光景を時々見かけることがあった。

 だが、目の前に広がっている光景は、もっと禍々しいものだ。

 絵巻物のような滑稽さのあるものや、小妖怪たちの行列のようなにぎやかさなど、微塵も感じることができなかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます

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