42、蔵で見つけた気になる剣
『明けの明星』を呼び出すための魔法字の出現と、その周囲に存在していると思われるバフォメットの配下や周囲から集まってきた特殊生物の存在。
光の口からもたらされたそれらの情報から、戦闘が避けられないことを察した翼は、準備をするために護とともに土御門神社へと戻った。
神社に到着すると、あれ以降、余震がなかったためだろうか。
境内に集まっていた避難者たちはそれぞれの家に戻り始めていたらしく、調査局へ向かう前よりもその数が減っていた。
「だいぶ避難者が減ったみたいだ」
「家が悲惨な状況になっていない人たちは家に戻ったんだろうな」
「戻ってない人たちは、察してるってことかな?」
護の言葉の通り、まだ境内には何人かの避難者が残っている。
時間が時間であるため、悲惨な状態になっている家の片づけをしないまま、過ごすことはできない。
というよりも、それをしたくはない。片づけをするだけの体力も時間もないため、一晩をここで過ごす選択をした人間がそれなりにいるようだ。
「まぁ、ここは弟子たちに任せて、私たちは自分の仕事の準備をしよう」
だが、そんな彼らのことは放置して、翼は自分の仕事に専念することを選んだらしい。
境内を抜けて、さっさと自分の家へと向かっていき、護もその後ろに続いた。
「あら、お帰りなさい」
「ただいま。月美ちゃんを呼んでくれないか?」
玄関を開けて早々、雪美が二人を出迎えてくれたのだが、翼はすぐに月美を呼び出してほしいと頼んできた。
急な頼みにも関わらず、雪美は何かを察したのか、リビングの方へと向かっていき、すぐに月美を伴って戻ってくる。
「おかえりなさい、護、翼さん。あの、いったいどうしたんですか?」
「あぁ。実は事態が急変してね。急ぎで申し訳ないが、以前、話していた仕事でこれから一緒に調査局へ向かってほしい」
「わ、わかりました!」
翼が月美を呼び出した理由を話すと、急な話であるにも関わらず、月美は自分の部屋へと戻っていった。
自室に保管している道具を持ってくるつもりなのだろう。
それに続き、護も自分の部屋へと戻ろうとする。
だが、それを翼に止められた。
「護。部屋に戻る前に、ちょっときなさい」
「え?けど、父さんの道具は……」
「お前にも渡していない道具がある。これからそれを取りに行く」
それだけ伝えて、翼はさっさと背を向けて玄関から出て行ってしまった。
護は慌ててその後ろについていく。
数分して、二人は蔵に入り、その中を奥へと進んでいくと、翼が立ち止まる。
周囲には錫杖や剣、弓、鏡などが積まれていたり、壁にかけられたりしていた。
「ここは……」
「普段なら、使うことがない霊力を込めた特別な道具だ。今回はこれに頼らなければならないだろうからな」
目の前にある武器は、普通ならば使うことはない。
というよりも、所持していることが姿を警察に見られでもしたら、職業質問をかけられるだけでなく、銃刀法違反や窃盗を疑われてしまう可能性がある。
それを避けるため、普段はこれらの道具を使わず、呪符や数珠、持ち歩いても独鈷しか使用しない。
しかし、今回はこれらの兵器も使わなければ対処することは難しいと判断したらしく、護もここに連れてきたようだ。
「どれでもいい、好きなものを選べ。月美ちゃんにも何か見繕ってあげるといい」
「好きなのって言っても……使えるの?」
ずっと蔵の中にしまわれていたため、外見上は問題なくとも、実用に耐えることができるかどうか。
護はそれを心配していた。
そこに加えて、武器の扱いを学んだことがない。
果たして扱いきれるかどうか、そこが不安材料になっていたのだが。
「適当に振り回すだけでも、それなりの怪我を負わせることができる。何より、こんなものは術や霊力を妖に効率よく叩きこむためのものだ」
「……本当なら必要ないけど、今回ばかりは効率を考えて持って行けってこと?」
「まぁ、そういうことだ」
この蔵に収められている武器は、神道や修験道の儀式でも使用されるものであり、霊力を込めることに適した道具だ。
真言や祝詞だけでも妖を退治することはできるのだが、霊力を消耗するため、複数の妖を相手にすることには向かない。
だが、ある程度の霊力が込められた道具ならば、術で使用する霊力を減らすこともできるし、妖に叩きつけるだけでもそれなりの効果がある。
ないよりまし、というものだろう。
「なら……」
保管されている武器を見回しながら、護は何を持ち出そうか思案する。
ふと、護は一振りの剣に視線を向けた。
日本史の教科書や日本史の資料集などで写真が掲載されている銅剣のような形状をしている。
――これは、銅剣?いや、鉄剣か?切っ先が両刃で、それ以外の刀身は片刃の剣……こんなの、見たことがないけど
学校の成績はそれなりに高く、中でも日本史や古文に関しては校内ばかりか全国模試でも五十位以内に入るほどの実力を有している護だが、目の前の剣に見覚えがなかった。
切っ先が両刃になっている刀身を持っている刀に、小烏丸と呼ばれるものがあるが、目の前の剣は日本刀のような緩やかな曲線を描いてはいない。
加えて、龍や朱雀など、四神を模したと思われる意匠が施されている。
――これって、儀礼剣の類か?てことは、もしかして
意匠に気づいた護は、自分の祖先である安倍晴明に関する業績の一つを思い出した。
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