17、小さなことだが、嫌な予感は感じるもの
最近になってクラスメイトの間で流行するようになったアプリゲームの説明について、清から説明を受けていたが、『伝説上の生物』を使役する、という設定に、どこか難色を示していた。
だが、それは二人がその生物と縁が深く、接する機会も多いためだ。
普通の人間には関係ない。
当然、普通の人間である清も例外ではないため、なぜ難色を示しているのかわからないようだった。
とはいえ、理由はわからなくとも、あまり乗り気ではない人間を無理矢理誘うほど、清も馬鹿ではない。
馬鹿ではないのだが、気に入っているものを広めたいと思うことは、人間としてごく当然のことで。
「まぁ、やるかやらないかは個人の自由だし、語るだけでもさせてくれよ」
と、宣伝を続けることに許可を求めてきた。
「……話を聞くだけなら、聞いてやる」
「お。さっすが護!話が分かってるなぁ!!」
「やかましい。さっさと話せ」
清が話を続けることを許した瞬間、清は調子に乗って護の肩をバシバシと叩き始めた。
その行為に、護はジトっとした視線を清に向け、さっさと話を続けるよう促した。
「まぁ、落ち着けって」
それをどうにかなだめながら、清は護と月美に説明を再開した。
曰く、召喚した生物を戦わせるだけでなく、フレンド登録したプレイヤー同士で交換をしたり、交配と呼ばれる生物同士を合体させることで新たな生物を生み出したりすることができるようだ。
さらに、確定情報ではないが、一つだけ面白い機能があるという。
「面白い機能?」
「なに、それ?」
「ふっふっふ……聞いて驚くなかれ!なんと」
と、いいかけたところで、そのセリフの続きは別の人物に奪われてしまった。
「最新のアップデートで、お気に入りの召喚獣と簡単な会話ができるようになった。でしょ?」
「さ、桜沢?!お前、人のセリフを……」
清のセリフを奪った人物は、これまた護の友人関係にある数少ないクラスメイトの明美だった。
むろん、自分のセリフを奪ったことに対し、明美に文句を言い出す清だったが、そんな態度にひるむことはなく、むしろ反撃とばかりに煽るような態度で言葉を返す。
「あら?だってあんた、もったいぶってなかなか教えないでしょ?だったら、あたしが教えた方が早いじゃない」
「んなことしねぇよ!教えようとしてたって!!」
「だったらなんで、『ふっふっふ……』なんてもったいぶる真似したのよ?馬鹿じゃないの?」
「馬鹿っていうな!!」
当然、煽られた清はけんか腰になってさらなる反論を繰り出し、その反論に対し、明美は待ってましたとばかりに反撃を。
そんな不毛なやり取りを続けそうになったのだが、それを止めたのは護でも月美でもなかった。
「ふ、二人とも。落ち着いて!!」
澄んではいるが、どこかおどおどとした印象を受ける声がした方へ、今まさに喧嘩の真っ最中である二人が視線を向けると、そこには、いつものメンバー最後の一人である佳代がいた。
普段、温厚でおとなしい彼女にしては珍しく、頬を膨らませ、きっ、と清と明美をにらみつけている。
その様子に、二人は思わず気圧されてしまい、それ以上、何も言わなくなった。
「まったくもう……」
「お。吉田、あけましておめでとう」
「今年もよろしくね、佳代」
「あ、土御門くん、月美。今年もよろしく」
新年の挨拶は、年賀状で済ませてはいる。
しかし、直接、面と向かって挨拶を交わすことはまだしていなかったため、三人は清と明美をそっちのけで互いに挨拶を交わしていた。
そんな三人の様子に、清が文句を言わないはずはなく。
「って、俺らを放置すんな!!」
「そうよ。勘解由小路はともかく、わたしを放置しないでよ!」
「俺はともかくってなんだよぉっ!」
「あぁんっ?!文句あるっての?」
「ありありのありに決まってんだろ!!」
当然のように文句を言ってきたのだが、明美もそれに乗っかり文句を言い出したものだから、再び喧嘩に発展してしまった。
これで翌日には喧嘩したことも忘れたかのように、ケロッとしているのだから、よくわからない。
なお、一部ではこの二人は「喧嘩するほど仲がいい」ということわざを体現したカップル。ケンカップルというものではないか、という噂が同級生たちの間に流れているのだが、本人らはそれを否定している。
それはともかく。
はっきり言って、二人のそのやりとりが日常的であるため、放っておいても問題ないことを知っている護たちは、またやってる、と言いたそうに、呆れ顔を浮かべていた。
だが、明美が言っていたことが少し気になった護は、清と言い争っている明美に視線を向けて。
「なぁ、その会話機能ってどんなもんなんだ?」
と問いかけていた。
「あぁ、うん。まだ実際にやってないからわからないんだけど、公式サイトの情報だと、召喚獣がしてくる質問に選択形式で答えることで会話できるんだって」
「それ、会話って言えるのか?」
「さぁ?けど、相手はあくまでゲームのAIなわけだから、人間と同じ会話なんてできないでしょ」
どうやら、会話といっても、単に質問に答えるだけの形式で、こちらから話しかけることはできないようだ。
もっとも、対応するゲーム機ではなく、携帯というゲーム機よりも数段、容量が小さくなる機械を使っているのだから、それも仕方のないこと。
あまり気にする必要はないのだが、なぜか護は嫌な予感を覚えた。
質問に答える、ということは、自分の趣味趣向、思考の方向性、性格がその答えに反映されるで、それらは人間の精神面ともとらえることができる。
精神面とは魂の一部だ。
つまり、質問に答えるということは魂の一部分を相手に見せるということでもある。
普通の人間や術者ならば大したことはないが、蘆屋道満のような死してなおも怨霊として猛威を振るう術者や、春ごろに対峙した女占い師、蓮田鳴海のように神と契約を交わした術者であれば、そのわずかな情報だけでも魂を掌握することはたやすいことだ。
――何か、悪いことにつながっていないといいんだけどな
先日の瘴気に関する占いのこともあり、護はどうしても嫌な予感をぬぐいきれずにいた。
そして、その予感が的中することになるのは、数週間あとのこととなる。




