11、再会と依頼
護と月美がそれぞれ採寸作業を終わらせ、帰宅すると玄関に見慣れた革靴があることに気づいた。
その革靴の持ち主にあったことがある護は、まさかと思いつつ、自室に荷物を置き、着替える間もなく翼がいるであろう書斎へとむかっていった。
「父さん、入るぞ」
翼からの返答を待たずに、護は書斎の中へと入っていった。
中に入ると、そこには翼と護が予想していた通りの人物がいた。
「……ご無沙汰だな、賀茂光」
「あぁ、土御門か……うん、久しぶりだな」
そこにいた人物は、賀茂光。
護の先祖、安倍晴明の師匠である加茂忠行の子孫にあたり、護と同い年ではあるが、現代の陰陽寮とも言うべき内閣府直属機関『特殊生物調査局』に籍を置き、最前線で活動している陰陽師だ。
いわば陰陽師としての先輩だ。
先輩ではあるのだが、同い年であり、護もそれなりに場数を踏んでいるため、経験的にも実力的にも実のところあまり差はない。
そのことを互いに知っているためなのか、護は光に対して敬語を使うようなことはしないし、光もまた、護の態度についてどうこう言うつもりはないようだ。
かといって、仲が険悪というわけではない。
むしろ、同じ陰陽師であるという一点だけで、護からすれば一部を除いた一般人よりも信頼度は高く、護の方から話しかけるには十分だったようだ。
珍しく、護の方から光に声をかけていた。
「珍しいな。調査局の人がうちに来るなんて」
「仕事の依頼、と言うべきかな。少し、君と風森さんに協力してもらいたいことがあるんだ」
「仕事?」
光の口から出てきた『仕事』という言葉に、護はすこしばかり怪訝な表情を浮かべた。
別に二人とも互いを嫌悪しているわけではないのだが、護はたとえ同じ術者であっても人間との接触を嫌っており、光は光で土御門家に対して思うところがあるらしく、互いに連絡を取り合うようなことはないし、少なくとも光が土御門家に直接仕事を依頼するようなこともなかった。
そんな彼女が突然、土御門家に直接依頼をしてきたのだ。
何か裏があるのではないかと勘繰りたくなるのも仕方のないことだ。
「あぁ、仕事だ。といっても特殊生物を相手どったり、怨霊の調伏がしたりすることではない」
「荒事じゃない、ってことか?」
「あぁ……今回の仕事はある呪物の回収でな。その呪物が今度、どこかの学校のバザーに出品されることになったらしい」
バザーで呪物が出てくる、という言葉に、護は白目をむいた。
呪物と一口に言っても、一目見ただけでそうとわかる怪しいものから見た目からでは判別できないものまで千差万別だ。
そのため、たまたま呪物が効力を発動していなかったか、あるいはもたらしていた効力が小さく、所有者があまり気にならなかったものであれば、一般の家庭に潜り込んでいることはまれにある。
光が請け負っている仕事も、その部類にあたる呪物のようだ。
「まさか、うちの高校にも?」
「可能性はある……ちなみに聞くが、君たちが通っている高校、月華学園だったか?たしか、近日中に文化祭が行われると思ったが」
「あぁ、三週間くらい後に……たしか、一年生がチャリティバザーを行うらしいが」
「何組かまでは」
「知らん。俺も噂に聞いた程度だしな」
すっぱりとそう返した。
光もあまり期待してはいなかったのか、その言葉にただ一言、そうか、とうなずいて返すだけでそれ以上は何も返してこなかった。
「いや、時期が分かっただけでも重畳だ。感謝する」
「ちなみに、その呪物ってのはどんな代物だ?俺も忙しいから入手まではできんが、気に掛けるくらいはできるだろ」
「……あとで何か要求されないか怖いな……」
護からの問いかけに、光は苦笑を浮かべながらそう返した。
護に限った話ではないが、魔術や霊術にかかわる術者は必ず何かしらの見返りを求めるものだ。
術者の基本は等価交換であり、何かしらの願いを叶えたければ相応の対価を支払わなければならない。
光は仮に護が先に見つけて確保したとして、求められる見返りが何であるか読めないため、恐々としているようだ。
だが、光はすでに護から一つの情報を提供してもらっていた。
ならば、その見返りをしなければならない。
「……いわゆる『呪いの人形』だ」
「『呪いの人形』か……形は?市松人形とか」
「日本人形ではなくて、海外製のものだそうだ」
「性別は?」
「少女だ。金髪碧眼」
「了解。そんだけわかりゃ十分だ」
そういって、護はそれ以上の情報提供を拒んだ。
これ以上は情報のもらい過ぎと判断したのだろう。
光もそれを察したのか、確認をすることなく、それ以上のことは何も言わなかった。
「無理に探す必要はない。気に留めておいてさえくれていればいい」
「了解だ。まぁ、暇だったら探してみるさ」
実際のところ、シフトがどうなるのかわからないため、探すことができるかどうかがそもそも不明なのだが、呪いの人形が出回ると知ってて放置するというのも後味が悪い。
はっきり言って、購入した人間がどうなろうが知ったことではないが、自分が行動を起こさなかったために犠牲者が出るというのは、護としては面白くないのだろう。
多少は丸くなったのだろうが素直ではないその言い方に、光は苦笑を浮かべていた。




