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2、学園祭の準備

 始業式の翌日。

 課題の提出などはあったものの、その日から通常通りの授業が行われるようになっていた。

 生徒たちの中には、期限までに終わらせることができなかったことを嘆くものや、どうにか終わって燃え尽きたものなど、様々いた。

 何もしなければ、清もそのどちらかに入っていたのだろうが、『旅行へ行く』というご褒美があったからこそ頑張って終わらせていた。

 むろん、護と月美、明美、佳代の四人も清と同じだった。


 その日の放課後。

 どこの教室でも少し長めのホームルームが行なわれていた。

 議題は、二か月後に行われる文化祭の出し物についてだった。

 教室の黒板にはすでにいくつか出てきたクラス出し物の案が記されていた。

 喫茶店や縁日、屋台といったよくあるようなものからメイド喫茶や執事喫茶、寄席、迷路、お化け屋敷、占いコーナーなど、一風変わったものまでさまざまだ。


 「……てか、なんで寄席?」

 「さぁ?……案外、お笑い志望の子とか??」


 護と月美は、このクラスに落語をできる生徒がいるのかどうかわからないのに、なぜ寄席が出てきたのか。前座の漫才だけやりたいのであれば、そのまま漫才とすればいいだけなのだが、と二人のあまたの中ではぐるぐると疑問が渦巻いていた。

 もっとも、これは書記を務めている副委員長が勝手に『寄席』と書いただけで、実際のところは、漫才や漫談などのお笑いステージなのだが。

 そんなことは知らない二人をよそに、会議はどんどん進んでいった。


 「そろそろ出尽くしたかな?それじゃ、この中から一つに絞っていくけれど……どうする?もう決選投票にしちゃう?それとも、ここからさらにダメ出しして絞る?」

 「絞る方がいいんじゃないか?決選投票っても、一発で決まるかわからんし」

 「それもそうね……みんなも、それでいい?賛成なら挙手して」


 委員長の問いかけに、全員が手を挙げた。

 満場一致ということがわかり、そのまま出てきた案の絞り込みが始まった。

 まず却下されたのは、屋台と縁日、そして寄席と占いだった。

 屋台は生徒会への申請が面倒であることと、仮に天候が悪化したときに売り上げが下がることになるため、寄席と占いについては、単純にその技術を持っている人間が少ないため、時間のシフトを組む必要があるため、というのが却下の理由だった。

 縁日に関しては、あまり時間がない中であれもこれもと欲張ることができないし、なぜあれがないのか、とクレームがくる可能性を考慮して、ということだった。

 結局、喫茶店、迷路、お化け屋敷、メイド喫茶、執事喫茶の五つが残ることとなった。


 「……思ったんだが、メイド喫茶と執事喫茶は『コスプレ喫茶』とか『使用人喫茶』って感じにまとめちゃダメなのか?」


 不意に、護が思ったことを口にした。

 確かにメイドや執事というのは使用人というくくりに入る職業であり、細かい部分はともかく、大まかには男性か女性かの違いしかない。

 ならば、まとめてしまった方が楽ではないか、というのが護の意見だった。

 普段、無口な護からその言葉が飛び出してきた瞬間、全員が目を丸くして護のほうへ視線を向けた。


 「……なんだよ?」

 「い、いや、うん……それもそうだよね。え、えぇっと、そういうわけなんだけど、みんなはどうかな?」


 護が不機嫌そうに問いかけると、委員長は平静を装ってクラスメイト全員に問いかけた。

 が、面倒くさがっているのか、気恥ずかしいのか、誰も返事を返すことはしなかった。

 その沈黙を賛成と受け取った委員長は、メイド喫茶と執事喫茶を『使用人喫茶』として統合することにして、残った四つで再度選挙をおこなうことになった。

 その結果、喫茶店と使用人喫茶が拮抗し、僅差で使用人喫茶が選ばれることになった。

 その瞬間、男子も女子も異様な気配を漂わせ始めた。


 「ふ、ふふふふ……」

 「イケメンクラスメイトの執事服……じゅるり……」

 「これは、ウス=異本を作るべきかしらね……」

 「「「風森のメイド姿……ふ、ふふふふふ……」」」

 「あ?おいこら男子、てめぇら何考えてやがる?」


 男子たちの口から漏れた言葉に、護は瞳孔を小さくした瞳で声がした方へ視線を向けた。

 その視線に込められた殺気に、男子たちは小さくなってしまった。

 ちなみに護は声に出していたが、女子たちからは無言で冷たい視線だけが向けられていた。

 秋葉原のメイド喫茶などで着用されるミニスカートタイプのメイド服を想像してのことだろう。


 「……委員長、使用人喫茶も構わないけど、公序良俗に反するのはだめだよね?」

 「……そうね。ミニスカートじゃなくてロングスカートのタイプに統一しましょう」

 「いっそのこと、男子と女子で反転させる?男子がメイド服で女子が執事服とか」

 「あ、それ受けるかも!」

 『やめぇい!!男のメイド姿なんか見て誰が得するんだぁ!!』

 『あたしたちの目の保養になるのよ!いいじゃない別に減るもんじゃなし!!』

 『減るから!なんか大事なものが減っちゃうから!!』


 女子から飛び出してきたとんでもない提案に、男子たちは一斉に文句を言い出した。

 最近になって増えてきているコスプレイヤーの中には、女性キャラクターに扮する男性もいるが、少なくとも、護のクラスの男子たちは女装にチャレンジする気概はなかったらしい。

 なお、護はどうしても必要であったため、巫女に扮したことが何度かあった。

 あったのだが、それは中学に上がる前の話で、高校生になってからはそんな機会もなくなってしまったため、腹をくくるまで少し長い時間が必要になりそうな気がしていた。


 心中でため息をつきながら、そんなことを考えている傍らで、クラスメイトたちの言い争いは続いていた。

 もはや不毛にも思えてきたその言い争いに終止符を打ったのは、委員長の提案だった。


 「どうしてもやりたくなければやらなくていいわよ。それに、ごつい足のメイドさんなんて見たい人もいないだろうから、ロングスカートタイプにしておいてあげる。これなら文句ない?」


 そう提案するということは、委員長も実は男子たちのメイド服姿を見てみたいということなのだろう。

 委員長の提案に、男子たちはミニスカートよりはまし、と割り切り、受け入れることにした。

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