22、京都の親類
みなさま、新年おめでとうございます。
本年も、拙作『陰陽高校生』をよろしくお願いします。
晴明神社に到着した護たちは、ひと騒動のあと、本殿を参拝し、道教や陰陽道において破邪退魔の効能があるといわれる桃の銅像に触れて御利益にあやかり、晴明像に手を合わせたりして過ごしていると、背後から声をかけられた。
振り返るとそこには、護と一緒になって悪がきどもに蹴りを入れていた巫女がいた。
「よかった、まだおったんやね?」
「あ、あぁ……何かあった?」
「お父ちゃんがお兄さんのこと呼んどるんよ。なんや、挨拶しときたいとかって」
「あぁ、なるほど……参拝したら伺おうと思ってけど……少し待っててくれ。連れに話しつけてくる」
巫女が言っているのはおそらく、護がこの神社の祭神である安倍晴明の子孫であるということを指しているのだろう。
そして悪ガキどもに制裁を下してからの会話で、目の前にいる巫女もまた、自分と同じく晴明の血を引いていることも、護と同じようにある程度"仕事"ができるということも推測することができた。
そのことを知らないのは明美だけで、ある程度ならごまかすこともできるだろう。
だが、できるだけ術者に関わらないでほしいと思っているのも事実だ。
「お連れさんも一緒でえぇのんと違う?それとも、お兄さんのこと、知らんの?」
「術者にできるだけ関わってほしくないんだよ」
「……あぁ、そういう……わかったわ、ほなうちはお父ちゃんに少し遅れるて伝えに行くわ」
そう返しながら、少女はぱたぱたと社務所のほうへとむかっていった。
立ち去っていく巫女に背を向け、護は月美たちが待っている、晴明神社が認定しているお土産が売られている小屋へとむかった。
「お、来た来た。お前、なに浮気してんだよ」
「浮気じゃない。ありゃ親戚だ」
「はぁ?あんた、こっちに親戚いたの?」
「……あ、そっか。そういうことか」
これ見よがしにからかってくる清に、簡潔すぎるくらい簡潔に説明すると、明美が驚愕し、佳代はどこか納得したようにうなずいた。
むろん、月美はなんとなく察していたため、特に怒るような様子はなかった。
が、わざわざ声をかけに来たことに疑問を感じたらしい。
「どうしたの?もう少し、話してると思ってたけど」
「あぁ、ここの神社の宮司様に呼ばれてな。せっかくだし、挨拶してこようかなって」
「待ってたほうがいい?」
「そう、だな。もしかするともしかするとかもしれない」
月美の問いかけに、護は少し考えてから返した。
普通ならば、友人として親戚に紹介することはできなくもない。いや、将来的なことを考えると、ここで縁を結んでおいたほうが得になる可能性もある。
だが、それは術者ではない、一般人であればの話だ。
術者の場合、簡単につながりのある人間を紹介するのはあまり得策ではない。
ともすれば、相手に弱みを見せるということにもなり、そこに付け込もうとする悪党もいるのだ。
土御門や安倍、倉橋といった、安倍晴明の子孫たちはあまりそのあたりのことについては無関心な傾向が強く、やられたら十倍以上にしてやり返すが、相手から何もしてこなければ何もしない、ある意味では一番穏やかで、何もしなければ無害な術者一族だ。
しかし、人とは常に善意と悪意を併せ持っているものであり、同族とはいえ、弱みに付け込もうとする悪党が生まれないというわけではない。
護や翼はそういった連中が月美を狙ってくる可能性を考慮し、時期が来るまではできる限り、一族の会合の場から遠ざけることにしていた。
むろん、そのことは月美も同意している。
同意しているからこそ、自分も清たちと一緒に待っているほうがいい、と判断したようだ。
「それじゃ、ちと行ってくる」
「うん」
護の頼みに月美は頷いて返し、護は社務所のほうへと向かっていった。
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社務所に入ると、アルバイトなのだろうか、先ほど声をかけてきた巫女よりも明らかに年が上の若者たちがせわしなく動いていた。
あまりのせわしなさに、声をかけるのをためらっていると、奥の方から先ほどの巫女の声が聞こえてきた。
「あ、お兄さん!来はったか!!はよ入りぃ!」
「あ、あぁ……」
招きに応じ、護は社務所に入っていき、奥へと進んだ。
社務所の奥には、声をかけてきた巫女と、その父親なのだろうか、神官服をまとった壮年の男がいた。
護は二人の前に正座すると、頭を下げ、挨拶をした。
「東京の土御門神社から参りました。土御門翼の長子、護でございます」
「晴明神社を任されている、安倍成吉だ。こちらは娘の」
「藤香や、よろしゅうな」
「藤香」
「えぇやん、別に。お兄さんも今はお家の事情やのぉて個人としてこっちに来とるみたいやし」
「だからといってだな……」
「お気遣いなく……娘さんの仰る通り、今回はあくまで個人的な旅行で京都に来ただけなので」
成吉と藤香のやり取りに困惑しながら、護は成吉にそう告げた。
別に東京の土御門家のほうが京都の安倍家よりも格上というわけではないし、その逆ということもない。
だが、土御門家のほうは先祖のひざ元にいるため、安倍家のほうが立場が上と考えており、反対に安倍家のほうは天皇が東京へ都を移したことで、天皇のひざ元にいる土御門家のほうが立場が上と考えている。
もっとも、本当のところはどう思っているのか、それはわからないのだが。
とはいえ、建前上はそんな状態なので、無意識にその認識が働いてしまったのだろう。
礼節を尽くそうとする成吉の態度は、不快ではないのだが、かえって藤香のような態度のほうが気が楽だった。
だが、成吉は順応性が高いようで。
「ふむ。そういうことならば、一人の血縁として接しさせてもらおう」
「そうしていただけるとありがたいです」
すぐに態度を変えたことに驚く様子もなく、護は少し安堵したような顔をした。




