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第75話 『最強無敵パーティーず』

『最強無敵パーティーず』との夕食会の翌日。

 俺とロズリアはダンジョン探索に来ていた。

 折角ピュリフの街に戻ったわけだし、久しぶりにダンジョンに潜ってみようということになったのだ。


 もちろん、二人だけでダンジョンに潜るのは危険すぎる。

 ネメやナクト達とのパーティーに同行してもらうことにした。


『最強無敵パーティーず』は現在、4階層まで攻略が完了している。

 新人冒険者が四人も占めているパーティーなため、ダンジョン攻略の進行度はなかなか上がらないらしい。

 先輩冒険者からのアドバイスも欲しいそうで、俺達が同行することをナクト達は快諾した。

 そうして『最強無敵パーティーず』+二人の七人で5階層を潜ることになった。


 5階層は荒野の様相をしている階層である、

 地形条件はかなり優しいが、視界が開けているため一度モンスターに見つかると、そのままなし崩し的に連戦を強いられてしまうことがあるという特徴がある。


 出てくるモンスターも足の早い獣型、空を飛ぶ鳥型、戦闘能力が高めな人型と様々な種類だ。

到達する者(アライバーズ)』のポテンシャルがあれば容易に突破することが可能だが、普通のダンジョン攻略パーティーにとっては苦戦するのも無理はなかった。


「ナクト、一体そっちに行った」


『最強無敵パーティーず』のタンク役、レイズが告げる。

 大剣で競り合っている大柄の鎧兵士の背後から一匹の猟犬が駆けてきた。


「そんなこと言われても手が離せねえよ」


 ナクトも骸骨兵士と刃を交わしている最中だ。両者の剣筋は均衡しており、当分片づきそうもない。


「リラ、サポートお願いです!」


 ネメが大きく叫ぶ。そのかけ声とともにリラはナクトの方に向かった。

 リラが相手をしていた狼鬼はフリーになる。手が空いたそいつは杖に魔力を込めているフーリエの下へと走ってくる。


「こ、こっち来た!」


「ネメに任せるです! 《聖壁(プロテクト)》!」


 狼鬼の前方に光の壁が現れる。灰色の小さな身体は壁に阻まれて足が止まる。


「《光環(リング)》!」


 その隙をつき、狼鬼の胴体に光の環が出現する。環は収束し、その身体を捉えて締め上げた。


「拘束完了です! 《魔増付与(マジックアップ)》! フーリエは鎧兵士に攻撃してくださいです!」


 魔法を増強するバフをかけてもらったフーリエは杖から火の玉を放つ。

 火炎は一直線に銀色の鎧へと向かい、その巨体を焼いていった。


「《破砕(クラッシュ)》っ!」


 ダメージを食らい動きが止まったところにレイズが一発。これは致命傷だ。

 鎧兵士はがっくりと力が抜け、地面へと崩れ落ちていった。


「ナイスです! レイズは狼鬼に攻撃、フーリエはナクトへの援護です!」


 喋りながらもナクトに《治癒(ヒール)》をかけるネメ。猟犬の放つ雷撃がリラに当たりそうになるのを見ると、即座に《聖壁(プロテクト)》を張って防いだ。


「あともう少しです! ファイトです!」


「はいっす!」


 ネメの掛け声に反応して、ナクトは剣を振るう。

 フーリエの魔力の装填も完了。骸骨兵士の身体を焼き、その隙にナクトの剣戟が迸る。

 骸骨の首を落とすと、手が空いた二人はリラが戦っている猟犬に向かった。


 そこからは早かった。三人で即座に猟犬を叩き、片がつくとレイズが堰き止めていた敵を全員で処理していく。

 戦いが終わると、次の敵が来る前に退散していった。


「どうでしたです? ネメ達の戦いは?」


 地面に座り、一息吐いている一同。その中から尋ねてくる声が聞こえる。

 先ほどの戦い、俺とロズリアは見学に徹していた。『最強無敵パーティーず』だけでの戦いを見て、そのアドバイスが欲しいとのことだった。


「何かネメが直した方がいいところとかあったです?」


 ネメはこのパーティーで真剣にダンジョン攻略を目指しているようだ。

こちらに問いかけを投げかける真剣な眼差しからその事実は察せたし、戦いの姿を見ていても明らかなことだった。


「俺なんかのアドバイスでもいいんですか? 冒険者としての経験も浅いですし、ろくなアドバイスできないと思うんですけど……」


「ネメはノートを信用しているです!」


「そういうことなら――」


 一瞬だけロズリアに目配せをして、彼女からは言いたいことがなさそうなことを確かめると口を開いた。


「いいんじゃないですか? 手厚いサポートができていますし、指示も出している。パーティーの神官っぽい働きがきちんとできていると思います」


「そうです……?」


「はい。しっかりパーティーに貢献できてますよ。むしろ、『到達する者』にいた頃もそれくらいやって欲しかったって思っちゃいました」


「それはごめんなさいです」


 明らかにネメの神官としての動きは変わった。

 昔はレベルの高いバフスペルを戦いの前にかけておしまい。あとは誰かが怪我をしたら、回復スペルを適宜かけていく。

 そんな適当な戦い方であった。


 普通の神官があんな動きをしていたら、即座にパーティーから追放されてしまうだろう。

 規格外のバフスペルを持つネメだから許されていた戦い方だ。


「冗談です。別に責めているわけじゃないですよ」


「ならよかったです」


「でも、なんで戦い方を変えたんですか?」


「ダンジョン攻略できるようネメもきちんと勉強したです! 色々な冒険者からアドバイスをもらってです!」


 あの人見知りなネメが他人からアドバイスをか。

 ジンが死んで、ネメも思うところがあったのだろう。

 嘘を吐いて虚勢を張ったりなどと根本的なところは変わってないが、冒険者としてのネメは大きな進化を遂げている。

 それは神官としての立ち振る舞いだけでなく、パーティーとしての立ち振る舞いでもそうだ。


 ネメはこの新人だらけの『最強無敵パーティーず』を引っ張っていっている。

 能力的にも精神的にも、パーティーの中核といっても過言じゃないほどの存在になっていた。

 昔の彼女じゃ考えられないほどの変わりようだ。


 俺やロズリアなんかと比べ物にならない成長。

到達する者(アライバーズ)』の中で唯一、パーティーが解散してもダンジョン攻略と向き合ってきた者の功績だ。


「でも、ネメにももっとできることがあると思うです! なんかないですか? ダンジョンのもっと先に進みたいです!」


「そう言われてもですね――」


 そういえば、一つだけ疑問に思った点があったんだった。


「なんで強めのバフスペルかけなくなっちゃったんですか?」


「それには理由があるです」


 ネメは胸を張って答えた。


「スペルをいっぱいかけると魔力がなくなるです。昔、それでスペルが発動できなくて全滅しかけたです」


 他のメンバーも当時のことを思い出したのか頷いていた。

 まあ、そうだよな。エリンと違いネメの魔力は有限だ。

 人よりは多い方だろうが、それでも使いまくればなくなってしまう。


到達する者(アライバーズ)』ではアタッカーが規格外の戦闘力を持っていたため、モンスターとの戦闘を短時間で終えることができたが、『最強無敵パーティーず』ではそうはならない。

 攻撃力が足りない分、どうしても持久戦になってしまうのはしょうがないことだ。

 今のネメは無駄遣いを極力抑えて、必要最小限のスペルにとどめているといったところだろう。


 現状をしっかり分析して、戦い方に反映できている。

 今のネメの戦い方も神官としてはごく一般的な立ち振る舞いだ。特段、おかしいということではない。

 むしろ、『到達する者(アライバーズ)』時代が異端だっただけだ。


「考えあってのことだったら、それで大丈夫だと思います。俺も神官の動きについてそこまで詳しいわけじゃないですし、特に指摘する点はないですね」


 確かロズリアも過去に神官をやっていたはずだ。

到達する者(アライバーズ)』に来る前のこと。彼女がこの街でパーティークラッシャーとして名を馳せていた時の話だ。


「ロズリアは何かないの? 神官やっていたこともあるんでしょ?」


「わたくしですか?」


 頬に人差し指を当てて考える素振りを見せる。

 しばらくして、目をぱちくりさせながら口を開いた。


「真面目に神官やってなかったですし、よくわからないです」


「えっ?」


「バフスペルなんて面倒でかけてなかったですし、回復スペルかけるのもさぼってましたからね。やっていたことといえば、モンスターが来たら怖がった振りをする。あとは応援くらいでしょうか……?」


 ロズリアに訊いた俺が間違っていた。

 パーティークラッシャーだった頃のロズリアがまともに神官なんてやっているわけなかった。

 これじゃあ、入ったパーティーを崩壊させるのも納得だ。

 真面目に冒険者をやりたい派とロズリア擁護派で争いが起こるのは目に見えている。


「ロズリアはダメダメです!」


 ほら、ネメにまで言われてるし。


「過去のことは過去のことですし……。死人は出てないからいいじゃないですか……」


 今のネメはきちんと役割を果たしているため、ロズリアも強くは言い返せない。

 口を尖らせながら人差し指で髪を巻いていた。


「二人の意見はあまり参考にならなかったです……。ネメは一体どうすればいいです?」


 話が終わっても。ネメは頭を悩ませていた。

 どうすれば『最強無敵パーティーず』をもっと先の階層まで進められるのかについて思案しているようだ。


 俺には正直、ネメがどうこうしようと解決できないような問題に思える。

 ネメはよくやっている。それは第三者の目から見ても明らかなことだった。


 確かに神官としての動き様などはまだまだ成長の余地があるかもしれないが、それも経験とともに解決していくだろう。

 仮にネメがこれ以上成長したところで、パーティーとしての戦力は微々たるものだ。


 パーティーとは何人もの冒険者が寄せ集まってできたものであり、決して一人では成り立たない。

 ナクト、フーリエ、リラ、レイズ。

 この四人の地力が明らかに足りていない。この先に進めるほどの実力を持ち合わせているようには思えなかった。


 そもそも、フォースとジン、エリンにネメにロズリアと各戦闘職(バトルスタイル)で最上位クラスの実力を持つ五人を揃えても、ダンジョンの深層を攻略することは叶わなかったのだ。

 ナクト達四人はよくやっていると思う。

 平均的な冒険者としての実力は兼ね備えているし、チームワークも取れている。ダンジョン攻略にも真剣に向き合っている。


 でも、それだけじゃ足りないのだ。ダンジョン攻略は。

 前人未到の誰もなし遂げられなかった悲願を達成するには、圧倒的な才能(スキル)、研かれた実力、そして一握りの運。それら全てが必要だ。

 四人には――そしてフォースと渡り合うことのできなかった俺自身にも足りなかったものである。


 ネメはこのパーティーに入って神官として成長した。

 それは言い換えれば、成長しなければここまで進めなかったということである。


 回復スペルを使うくらいダメージを負う。

 ネメのサポートがなければ、モンスターを倒すことができない。

 一人で敵を圧倒できないから、ネメの指示出しも必要とする。

 ネメが高レベルのバフスペルを連発できないくらい、戦いが長引いてしまう。

 そのどれもが四人の実力不足を物語っていた。


 そもそも、俺達がパーティーハウスに侵入した際、ナクトとフーリエは簡単に俺とロズリアに制圧されてしまった。

到達する者(アライバーズ)』を超える偉業を成し遂げたいのなら、少なくともあそこで制圧し返さなければならなかった。

 最低限、個人の戦闘力で俺達を上回らなければ話にならない。


 ネメは成長した。でも、ネメはパーティーのサポート役というべき回復職だ。

 いくらサポート役が過去の『到達する者(アライバーズ)』を超えていたところで、戦いの矢面に立つのはアタッカーの四人である。

 四人がモンスターを倒せなければ意味がない。


 これが残ったのがフォースとかだったら話は変わっていただろう。一人で10階層くらいまでなら攻略していたかもしれない。

 でも、ネメじゃ。ネメだけが強くても駄目なのだ。

 それを今のネメに言うことはできなかった。


 だって、それは残酷な宣言だから。

 ネメを慕うナクト達。そんな仲間とダンジョン制覇という夢を天秤にかけさせる行為だから。


 ナクト達と冒険を続けていくならダンジョン制覇を諦めなければならない。

 逆にダンジョン制覇を優先するなら、仲間に別れを告げなければならない。

 二つとも手に入れることなんてできない。大事なものをどちらか一つ選ばなければいけなかった。


 俺達が戻ってこなければ、『到達する者(アライバーズ)』復活の話を持ち出さなければ、ネメは今のパーティーでダンジョン攻略に挑むしかなかった。選択肢は一つしかなかった。

 でも、俺達が戻ってきてしまったから、ダンジョン制覇をより建設的に目指せる手段が出来てしまった。


 きっとこの事実にはネメも気がついているだろう。

 誰よりも『最強無敵パーティーず』の面々に向き合ってきた彼女なら、とっくにわかっているはずだ。


 でも、ネメにはその選択ができない。ダンジョン攻略ができなくて、困っていたところに集まってきてくれた仲間を見捨てることができない。

 だから、『最強無敵パーティーず』でのダンジョン制覇のために、自分ができることがないか必死になって探している。

 その願いを無残に切り捨てることなど、俺には出来なかった。


「じゃあ、そろそろ俺達も参戦するか」


 俺とロズリアはネメ達にアドバイスをあげるためだけに、ダンジョンに潜りに来たわけじゃない。

 久々に命と隣り合わせの空気を浴びるため、この迷宮へと潜ることにしたのだ。

 そして、ダンジョン探索での戦闘で俺ができることを探すために。


「そうですね。わくわくしてきました」


 ロズリアも腕を伸ばすストレッチをしながら口を開いた。


「サポートはネメに任せるです!」


 どうやらネメもやる気満々なようだ。

 確かにネメはもう『最強無敵パーティーず』の一員だが、『到達する者』のメンバーでもあったのだ。


 久しぶりの『到達する者(アライバーズ)』としての戦い。

 三人だけしかいないが、それでも嬉しいものは嬉しかった。

 きっとネメも同じような気持ちなんだろう。


「それじゃあ、行きますか」


 こうして俺達は5階層探索を再開したのであった。






 ***






「いやぁー、すごかったっすね。お二人とも」


 5階層からピュリフの街までの帰り道。

『最強無敵パーティーず』の面々と歩いていると、ナクトから声をかけられた。


「ロズリアさんの聖剣? でしたっけ? あれやばいっすね。モンスターが紙のように斬れていくんすもん」


「それわかるかも。しかもスペルまですごかったし。魔導士のわたしより強い威力だったもん」


「動きも無駄がなかった。盗賊の私から見ても惚れ惚れする戦い」


「さすがは『到達する者(アライバーズ)』の聖騎士だけはある……」


 ロズリアは『最強無敵パーティーず』の一同から絶賛の嵐を受けていた。

 まあ絶賛されるのも無理はない。レイズの言う通り、ロズリアは『到達する者』の聖騎士なのだ。


 サポート役のネメと違い、前線で敵を一手に引き受ける花形的役割。

 しかも、ロズリアにとっては5階層のモンスターなんて雑魚そのものだ。

 圧倒的な力で切り抜けていく様は、四人にとっては輝いて見えたことだろう。

 現に俺が最初にロズリアの戦闘を間近に見たときは鳥肌が立ったくらいだ。


「それは言い過ぎじゃないですか? わたくしなんて全然ですから!」


 ロズリアも必死に謙遜しているが、心なしか口元がニヤついているような気がする。

 照れているのだろうか。ロズリアがここまで直接的に褒められることなんてあまりないもんな。男を誑かした時以外で。


「ほら、一度攻撃を食らっちゃったじゃないですか」


「あれはネメ姉さんとの連携が取れてなかったせいじゃない?」


 確かにロズリアの言う通り、彼女は攻撃を一撃食らった。普段の彼女じゃあまり見ない光景だ。


 でも、その内訳はというと、ロズリアが敵の攻撃を寸前まで引き付けてカウンターを放とうしていたところ、ネメが焦って《聖壁》を張ってしまい、ロズリアの剣筋を邪魔してしまったというものだ。

 結果、攻撃のリズムが完全に崩されてしまい、モンスターから一撃をもらってしまった。

 ネメの回復スペルで即座に治せる程度の怪我だったので、あまり大事にはならなかったものの。


「あの時はごめんなさいです……」


 ネメも申し訳なそうに俯いていた。

 彼女としては良かれと思ってやったことが完全に裏目に出てしまったのだ。

 ネメのサポート技術は明らかに上がっている。『最強無敵パーティーず』はネメのサポートなしでは動かないといっても過言じゃないだろう。


 でも、ロズリアの戦闘は彼らの数倍速い。ネメのサポートが完全に追いつかない。

 ネメが戦闘のサポートをするようになったといっても、それは一年も経っていないはずだ。

 経験が明らかに足りない。ナクト達のサポートをする分には問題ないが、ロズリアの戦闘スピードについていくのはまだ難しいようだった。


「気にしなくていいですよ。わたくしのミスでもあるんですから。久しぶりに一緒に戦うとなるとあまり上手くいかないもんですね」


 ロズリアもこの件については特に気にしていないようだ。

 ロズリアもネメに悪気があったわけではないことは承知しているはずである。明るく笑い飛ばしていた、


「それにノートさんもすごかったっすよ! 速すぎて何してるのか全くわからなかったですもん」


「しかもあれで戦闘スキル持っていないって……。ナクトももうちょっと頑張りなさいよね」


「なんで俺なんだよ。同じ盗賊のリラに言ってやれよ」


「あれは無理。化け物じみてる」


 化け物じみてるって酷くない? もうちょっと良い言い方なかったのかな……。


「どうしたら戦闘スキルなしでもあんなに戦えるようになるんですか?」


 フーリエは目を輝かしながら訊いてくる。

 戦闘スキルなしでどうしたら戦えるようになるのか。

 フォースに勝てなくて悩んでいる身としてはこちらが訊きたいくらいだ。


 剣聖の街を出てから、ロズリアとの手合わせをするようになったが未だ何も掴めていないのが現状だった。

 今回のダンジョン探索で何か掴めるかと期待していたが、それも空振りに終わってしまった。


「俺なんて全然だよ。ネメとかロズリアとか、他の五人はもっと強かったからね。パーティーの中で断トツの最弱が俺だったし」


「ほんとなの、それ⁉ ノートさんだってすごかったのに……。モンスターの攻撃なんて一つも当たってなかったじゃない」


「ほら、回避アーツはまだマシだけど、攻撃アーツとか微妙だからね。致命傷は与えられてないし」


 5階層のモンスター戦では以前から練習していた《必殺(クリティカル)》、そしてエイシャとの特訓で自然と身についた《掌底(ショット)》を行使することはできた。

 しかし、威力はどちらもモンスターを仕留めるには足りなかった。完成度としてはナクト達四人の新人冒険者と同レベルといったところであろうか。


 安定して発動することはできるようになったのだが、やっぱり『到達する者(アライバーズ)』の戦いを見ていた立場としては物足りなく感じてしまうのも事実だ。

 こんなんじゃ、フォースには到底勝てない。


「そんなことないですよ! 攻撃アーツも上手でした!」


 フーリエは慌てて首を横に振る。

 これは確実にお世辞というやつだろう。

 ざっと見たところ、ダガーの扱いだけなら盗賊のリラに負けているような気だってした。


 なんだろう。スキルの差なのか、それとも努力の差なのか。

 ここまでダガーの扱いが上達しないと、センスがないんじゃないかとすら思ってしまう。


「それに回避アーツはすごかったです。本当にどうしたらあそこまで上達するんですか?」


「それは20階層で遭難したりすれば大丈夫だよ……」


 回避アーツも《偽・絶影》もあの極限状態で身についたものだ。

 偶然置かれた環境で偶然身について、偶然生き残れたから。あれを再現するのは難しいし、リラなどに教えてあげることもできない。


「へぇ~。20階層で遭難して戻ってきた冒険者がいたって聞いたことあったけど、それってノートさん達だったんですね!」


 フーリエは驚きの声をあげると、ナクトに向き合った。


「ねえ、わたし達も遭難しようよ! 強くなれるかもよ!」


「強くなる前に死ぬから……」


 呆れた顔でツッコミを入れるナクト。

 二人は幼馴染と聞いたが、俺とミーヤとはまた違った力関係のようだ。


 ちょっと頭が足りないフーリエをナクトが支えているといったところか。冒険者としての能力も開きはなく、二人は上手くやっているようだ。

 俺とミーヤとは大違い。二人を見ていると少しだけ懐かしく思え、羨ましくも感じた。


「いいね、二人とも仲良くて」


「でしょ⁉ ね、ナクト?」


「まあ幼馴染っすからね!」


 二人は影一つない笑顔で返事をする。

 眩しすぎて、直視するのが難しかった。


「幼馴染は大切にしておいた方がいいよ」


「ノートくんが言うと言葉の重みが違いますね……」


「ロズリアは余計な茶々を入れてこない」


 ひょっこり首を出してくるロズリアを軽くあしらう。

 俺も間違えなければこの二人みたいになれたのかなって感傷的になってたところなんだから。

 やめて、そういうこと言うの。


「でも、この五人って良いパーティーだよね。何より仲が良いし」


 道を並んで歩く『最強無敵パーティーず』の面々を見る。

 ナクトとフーリエの二人一組って感じだし、後ろにいるリラとレイズもネメと笑顔で話している。


 割とギスギスすることが多かったどっかの『到達する者(アライバーズ)』とは大違いだ。

到達する者(アライバーズ)』も仲が悪かったわけではないんだけど、個が強かったからなぁ。

 どうしても一体感がないんだよな……。


「ですよね!」


 笑顔で答えるフーリエとは対照的に、ナクトは曇った表情をしていた。


「まあ……そうなんすけど……」


「実は仲悪かったとか?」


「そうじゃないっすよ! 仲はいいっす! それだけは断言できるっす!」


 ナクトは慌てて手を振って否定した。


「だったらなんで――」


「俺、時々思うんすよ。この五人でダンジョン制覇なんてできるのかって。特にノートさん達の戦闘を見た後だと……」


「何、弱気になってんのよ! 元気出しなよ! ボスだっているんだし、絶対出来るって!」


 明るい表情でナクトの肩を叩くフーリエ。

 フーリエはあまり深刻な問題に捉えていないようだが、ナクトは違ったようだ。

 なおも真剣な顔つきで尋ねてくる。


「ノートさんはどう思いますか? このパーティーでダンジョン制覇できると思いますか?」


「……」


 俺はその問いかけに上手く答えることが出来なかった。



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