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外れスキル【地図化】を手にした俺は、最強パーティーと共にダンジョンに挑む  作者: 鴨野 うどん
第6章後半 外れスキル持ちの俺と『王女の軍隊』
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第117話 真の居場所へと


 激動の21階層攻略が終わって早数日。

 興奮と浮ついた気分にようやく区切りがついてきた頃合い。

 図らずもダンジョン攻略を続けて行ってしまった『到達する者(アライバーズ)』は日頃の疲れを取るのと、心を落ち着ける意味もあって、しばらくの休暇を取ることにしていた。


 身体がなまらないように外での運動を軽く済ませ、シャワーを浴びた後、リビングでくつろいでいると声をかけられる。


「ちょっといい?」


 この声はソフィーのものだ。

 顔を上げると、やはりそこには背筋を伸ばして佇むメイド服姿の少女がいた。


「何?」


「来て欲しいところがある」


「どうしたのいきなり? もしかして告白?」


 以前の仕返しを込めて、冗談を口にする。

 そんなこちらの冗談に彼女はというと──。


「そんなわけない。冷静に考えて。なんで貴方のことを好いていると思ったの? もしかしてノートってナルシスト?」


「……」


 自分でも思ってもいない冗談のつもりだったが、ここまでボロクソに言われるとは思わなかった。

 恩を介した主従関係が解き放たれ、秘密の共犯者となったソフィーは俺にも遠慮することがなくなってきた。

 それ自体は喜ばしいことなんだが、こうまで酷く言われると昔の従順な彼女も恋しくなってくるというものだ。


 というか、この勘違いをしたの自体、最初はソフィーからだったからな。今の発言、全部ブーメランだからな。


「まあ冗談はさておいて──」


 もちろん優しい俺はそんなことを追及したりしない。

 気に障ることを言って、これ以上好感度を下げて、酷い物言いをされたくはないだとか考えてないからね。

 女子からの悪口にビビッてるとかじゃないから。


「来て欲しいところって?」


「レイファ殿下に呼ばれたの。話がしたいって」


「この前の21階層戦の後処理とは別にってこと?」


「そう」


 一応この前の21階層攻略で、『到達する者(アライバーズ)』は『王女の軍隊(プリンセスナイツ)』が出した救援に応えたという形になる。

 冒険者のパーティー間の救助とあれば、報酬の話が出てくるのも当然の話だ。


 現に俺とエリンが20階層で遭難した時も、救助に向かったパーティーにはジンが報酬を支払っていたわけであるし、いくら知り合いのパーティーだとしても無報酬というのは世間体的に難しいものがあった。

 というわけで、報酬の交渉などを俺とフォースで担うことになったのだが、意外にもレイファはあっさりと応えてくれた。


 因縁がある彼女のことだ。もう少し嫌がらせをしてくるかと思いきや、意外にもきちんと恩は感じていたようで、こちらの想定の数倍どころじゃない報酬を条件に出してきた。

 提示してきた報酬の中には、彼女が王になった際、貴族としてその身分を認めるなんていう物騒なものまで存在して、流石の俺達も断る羽目になったのが記憶に新しい。


 結局、レイファからお金を受け取るのも怖くなってきて、いくつかの使えそうな魔道具を譲り受けたというささやかな報酬のみで辞退することにした。

 これ以上恨みを買いたくないしね。『到達する者(アライバーズ)』は決して敵じゃありませんよという、喧伝の意を込めて欲を搔くことをやめにした。


 そのせいかわからないけど、レイファとしては昔のような悪感情を『到達する者(アライバーズ)』にも俺にも抱いてはいないようだった。

 どちらかというと、彼女達を21階層から助けた時から許されていた感はあった。


 一応『到達する者(アライバーズ)』と『王女の軍隊(プリンセスナイツ)』のいざこざは全部解決したと思っていいだろう。

 今回呼び出されているのは全くの別件らしい。


「話ってなんだろうね……」


「わたしにもわからない」


「俺とソフィーに話かぁ……。想像もつかないな……」


「そうじゃない。呼び出されたのはわたしだけ」


 なんだ。そうなのか。

 なら、どうして俺は声をかけられたのだろうか。


「じゃあ、俺はどこに行けばいいの?」


「レイファ殿下の下に」


「なんで? 呼び出されてないのに?」


「わたし、一人で行くのは不安。何話していいかわからないし。ノートについてきて欲しい」


「……」


 完全なる巻き添えだった。

 いくら相手に恩を売ることができたといっても、あの王女様の下に行くの怖いんだよな……。

 何が引き金になって、怒りを買うかわからないし。

 できることなら、触らぬ神に祟りなしといきたいところだった。


「なんで、俺なんだよ。頼めばエリンとかなら聞いてくれるんじゃない?」


「エリンが言ったら、逆に話がこじれると思う……」


「確かに……」


 納得だった。ソフィーもだいぶパーティーメンバーのことをよくわかってきたみたいだ。


「それに貴方は共犯者。わたしに協力するのは当たり前のこと」


「一方的にいいように使われている感あるけどな……」


「共犯者の貴方にだったら、恩を受けても無理に返す必要はない。そもそもノートくらいにしか、こういうこと頼みにくい」


「そこまで言うなら……」


 まあ、彼女からの信頼を得たということでよしとしよう。

 だいぶソフィーに甘い気もするが、薄幸オーラを漂わせている彼女を見ていると、なんか優しくしてあげたくなっちゃうんだよな。

 俺も案外ちょろい人間なのかもしれない。


「それなら早く支度して。もうわたしは行く準備できているから」


「えっ!? 今から!?」


「そのつもりだけど。何か問題でも?」


「いや、予定とかはないけど、心の準備が……」


「心の準備なんて必要ない。ノートはわたしについてきて、見守って、あわよくば適切なタイミングでフォローしてくれればいいだけだから」


「あっ、見守るだけじゃ駄目なのね……」


「それで話が失敗に終わったら、傷ついたわたしを慰めて欲しい」


「しかもアフターフォローまで必要だった!?」


 話し合いが失敗に終わる前提なのは、ソフィーのマイナス思考がふんだんに発揮されている気がしたが、俺も人のことは言えないマイナス思考の持ち主なので追及はやめておくことにした。


「というか、そこまで重大な役割があるなら、もう少し心の準備をしたいんだけど」


「あまり先延ばしにされるとわたしの心が持たない。こういうのは一思いに終わらせたい」


「そっちのメンタルの問題もあるのね……」


 かつて追放された元主との面会ときた。緊張するのも当然のことだろう。

 あまり悪い内容の話し合いではないと思うが、レイファへの忠誠心が強い分、深刻に考えてしまうのだろう。


「わかったよ。今すぐ行こう」


「……大丈夫なの?」


「今すぐがいいって言ったのはそっちでしょ?」


「そうだけど……今すぐっていうのは緊張するから……」


「どっちだよ!」


「今すぐがいい」


 逡巡した挙句、ソフィーは今向かうことを選択したようだった。

 幸いにも、俺の現在の服装はすぐにでも外に出られるものだ。さっさと済ませてあげた方がソフィーのためにもなるだろう。


「じゃあ、行こう」


「ちょっと待って」


「今度はなんだよ」


 歩こうとする俺の袖を掴んでソフィーは言う。


「緊張でお腹痛くなってきた。トイレ行ってきてからでいい?」


「勝手に行ってきて……」


 それから俺とソフィーがパーティーハウスを出たのは三十分後のことであった。






※※※※※※※※※※






「あの……すみません……」


 ホテルの部屋に備えつけられた呼び鈴を鳴らすと姿を現したのは、あの暴虐王女であった。

 不機嫌そうな顔でこちらを睨みつける。


「あのね……」


「なんでしょう」


「なんで貴方がやってくるのよ……」


「なんででしょうね?」


 こっちが訊きたいくらいだった。

 部屋の呼び鈴を押したのも俺。扉の前に立つのも俺。

 呼ばれた当人は俺の後ろで身を隠すように縮こまっていた。


「本当に使えない子ね。余計なことをしないで一人で来なさいよ……」


「……ノートのせいで怒られた」


 小声でボソッと呟くソフィー。

 俺のせいにしないでもらえませんかね?完全にソフィーさんのせいな気がするんですけど。


「まあいいわ。来てしまったものは仕方ないわ。立ち話もあれだし入りなさい」


 追い出されるようなことはなかったみたいだ。

 二人して部屋の中に招かれる。


「あっ……」


 部屋の中にいたミーヤと目が合う。

 目が合ったものの即座に逸らされた。そのまま何か言うことなく、口を閉ざされてしまう。


 なんか避けられているみたいで悲しい。

 まあ、ダンジョン攻略するまで顔を合わせないと約束したのに、あっさり21階層で助けられたことに気まずさを感じているんだろうけど。


 部屋の中にいるのは俺達を含めて四人だけのようだ。レイファは大仰な動きで席に座った。

 沈黙が占める空間にソフィーが耳打ちしてきた。


「ノート、話って何って訊いて」


「なんで俺なんだよ。それくらい自分で言いなよ」


「そんなこと、緊張してる今のわたしにできると思う?」


「自信満々に言われても……」


 呆れながらも、レイファの方へ向き直る。

 この場を早く終わらせるためにも、俺が一肌脱がなくちゃいけないみたいだ。


「レイファ様、それで話とは?」


「だから、なんで貴方が仕切っているのよ……」


「おっしゃる通りで」


 完全に反論ができなかった。正論すぎる。

 そこにまたしてもソフィーの耳打ちが飛んでくる。


「レイファ殿下を怒らせるようなこと言わないで」


「思いっ切りソフィーのせいな気がするんだけど……」


 理不尽すぎる背後からの指摘に、文句を言いたい気持ちでいっぱいだった。

 自分が会話してれば、今頃俺が怒られることもなかったと思う。


「本題に入ってもいいかしら?」


 レイファはそんな俺達を呆れながら肘をついていた。

 こくこくと頷くソフィー。


「本当はノート・アスロンのいないところで言いたかったのだけど──」


 そう断って、レイファは口を開く。


「まず、私を助けてくれたことに感謝しているわ。今までのことは水に流してあげる。だから、変に身構えなくてもいい」


「はいっ!」


 思いっ切り上ずった声で答えるソフィー。

 そんな彼女の様子に苦笑を浮かべながらレイファは続ける。


「その上で一つ話があるの。いいかしら」


「はい、なんでも!」


 ガチガチに固まっているソフィーに向かって、レイファは衝撃の提案を口にした。


「ソフィー、私のところに戻ってくる気はない?」


 思わず目を剝く俺。それはソフィーも同じだったようだ。


「戻るって──」


「言葉の通りよ。貴女がいなければ今頃私は生きていなかった。その働きに免じて、私の下に戻らないかって提案しているの」


 そこまで言って、レイファは首を振った。


「そうじゃないわね。訂正するわ。私の下に戻って欲しいとお願いしているの」


「お願い……」


「そうよ。どうやら私には貴女が必要らしいわ。配下としては全然使えないけど、私を支えてくれる一人の人間としては、貴女は必要なピースかもしれない。この前の一件でそんな風に思うようになったわ」


 それは目に見えるレイファの変化。

 彼女がそんな風なことを口にする日が来ようとは。


「付き従う騎士としてじゃなくてもいい。付き人としてじゃなくてもいい。傍にいて、支えて欲しいの」


 似つかわしくない真っ直ぐな言葉。

 レイファの目を見るも、それが偽りのないことは明らかだった。


「場合によっては『王女の軍隊(プリンセスナイツ)』に戻ってきてもいい」

「『王女の軍隊(プリンセスナイツ)』に……? でも──」


「ちなみにその場合はこのハーフエルフを『王女の軍隊(プリンセスナイツ)』から放逐して、数合わせをするから」


「なんでよ!?」


 まさかの流れ弾に目を剝くミーヤ。

 しかし、場の空気をお笑いに染め上げてしまいそうなハーフエルフを放って、レイファは話を続ける。


「貴女にとって悪くない話のはずよ。私が王になった暁には、貴女の願いをすべて叶えてあげる」


「っ!?」


「だから、私の下に戻ってきなさい。ソフィー」


 それは彼女にとって待ち望んでいた言葉だった。

 悲願にまで思っていたはずの提案。忠誠を誓っていた元主から、ようやく与えられた見返り。

 頷く他ない。ソフィーが『到達する者(アライバーズ)』から去ってしまうのは悲しいけど、仕方ないことだ。


 彼女の夢がようやく叶うのだ。ようやく報われるのだ。彼女の幸福のためだったら、パーティーを去るという決断も祝福してあげよう。

 そう思っていたところだった。


「すみません。それだけはできません」


 だから、彼女がその提案を撥ね除けたことに気づくのに時間がかかった。


「──えっ!?」


 驚く俺を他所に、レイファは落ち着いた様子で口を開く。


「どうしてか、理由を訊いてもいいかしら?」


「はい。レイファ様の提案は嬉しいです。本当に。それはもう飛び上がるほど」


「だったら、頷いたらいいじゃない」


「だけど、『到達する者(アライバーズ)』での生活も楽しいんです。終わらせたくないって思っている自分もいます」


 ソフィーがそこまで俺達のことを思ってくれているとは想像してなかった。

 彼女にとって、いつの間にか『到達する者(アライバーズ)』はレイファと比べられるほど大きな存在になっていたのか。


「今の居場所を捨てたくないです。だから、レイファ殿下の提案は受けられません」


「そう……」


「だけど、もしダンジョン攻略を成し遂げたら!その時はもう一度! レイファ殿下の下で働かせてくれませんか!?」


「……」


「わたしの我儘を許してくれませんか!?」


「はあ……」


 レイファはため息を吐いた。

 確かにそれは音だけ聴けば呆れ果てているように思えるかもしれないけど、彼女の顔を見ている俺から言えば、優しいため息だった。


「いいに決まっているじゃない。私は頼んでいる立場よ。そのくらいの我儘くらい聞き入れるわよ」


 レイファはただ笑っていた。

 そんな元主の表情に安心したのだろう。腰を抜かして、ソフィーは泣き始める。


「ほんとですか!?」


「本当よ。そんなことで噓なんか吐かないわよ」


「レイファ殿下……ぐずっ……」


「何よ……」


「レイファでんがぁぁぁぁぁぁ!」


 完全に大泣きだった。


「ヴわぁぁぁぁぁぁん!」


 人目を憚らずに泣きながら鼻水を垂らしているソフィーに、レイファは苦笑しながらも歩み寄って頭を撫でた。


「本当、ブサイクな泣き顔なんだから……」


 二人だけの優しい世界。何人たりとも入り込む余地のない聖域がそこには広がっていた。

 その光景を黙って見守る俺とミーヤ。


「わたし達のことなんて忘れちゃってるね」


「いいんじゃない?これで」


 置いてけぼりにされている状況に反して、心の中に広がっていくのは温かい気持ちであった。






※※※※※※※※※※






「本当によかったの? レイファ様の提案断っちゃって」


 ホテルの部屋を出てから、俺はソフィーへと尋ねることにした。

 無粋だとわかってはいるけど、本当に後悔はないか是非とも口に出して確認しておきたいことだった。

 ソフィーは泣き腫らした目のまま頷く。


「うん、後悔してない。ダンジョン攻略を終えた後、レイファ殿下の下へ戻ってもいいって言われたし」


「それならよかった」


 力強く言う彼女に安心する。

 ソフィーを『到達する者(アライバーズ)』に誘って本当によかった。そう思った瞬間だった。


「なら、帰ろうか」


 いつにも増して清々しい気分で、ロビーを通り過ぎ、建物から出るとそこに現れたのはまさかの人物達であった。


「遂に押さえましたよ! お二人の密会の現場!」


「ノートとソフィーが二人きりで……ホテルに……」


 そこには帽子とサングラスで記者よろしくやっているロズリアと、口から魂が抜けかけているエリンがいた。

 なんでこんなところに二人が!? というか、何やっているんだ?


「何やら不思議がっているご様子ですね?」


 既に死体となりかけている記者B(エリン)を無視して、記者A(ロズリア)は話しかけてくる。


「とある平穏な休日の昼下がり。何やら怪しげに二人でパーティーハウスから出ていく男女がいるじゃないですか。しかも、その男女は先日疑惑の一夜をともにした二人。これはもうスクープの予感です! 追いかける他ないでしょう! わたくしの記者魂に火がついてしまいました!」


「……」


 俺の人生でしばし起こり得る、間の悪いタイプのあれだった。

 もう慣れっこなため、驚く気力も湧かない。


 というか、お前は記者じゃないだろ。

 以前ジンを尾行した時もそうだったけど、本当そういうの好きだよね、ロズリアって……。


「どうですか、エリンさん?完全なる証拠を掴んだご感想は? 散々ノートはそんなことするわけないって現実逃避にも似た弁明をしていましたけど?」


「死にたい。以上」


「というわけで現場からでした」


 絶対楽しんでいるだけだよね、ロズリアは。

 俺の疑惑を追及しようというより、俺の無実を知っているにもかかわらず、エリンを焚きつけて遊んでいるって感じだ。

 ちなみにIQが2しかないエリンは、ロズリアの罠にものの見事に嵌っていた。


「それでソフィーさん。ホテルの部屋の中では何をしたんですか?」


「たくさん泣かされた」


「おい、言い方……」


 これは完全にソフィーも狙っているだろ。これは確信犯だ。


「ワタシシヌ……ウマレカワッタラ……ザッソウニナリタイ……」


 変な呪文を唱えている隣のオブジェは無視したかった。

 雑草は雑草で生きるのが大変だと思うよ。今の人としての生を大事にして。


「よし、これで邪魔なライバルは一人消えました。あとはミーヤさんだけですね」


 何やら物騒なことを口にするのは青髪の記者だ。思いっ切りガッツポーズをしている。

 エリン死んだことにされているよ! 早く生き返ってきて!


 あとなんでここでミーヤの名前が出てくるのだろう?

 ソフィーにも増して、ミーヤが俺とどうこうなるのはあり得ないと思う。彼女が俺に抱く心情的にも。


「ソフィーさん、ナイスアシストです!」


「よくわからないけど、役に立ったみたいでよかった」


「ミーヤさんを倒す時も協力お願いしますよ」


「あのハーフエルフにはわたしも恨みがある。レイファ殿下のところを追い出された時の恨みが。倒すのには協力する」


 普段は大人しいソフィーが珍しくやる気に! ミーヤ逃げて!

 忠告したい気持ちは山々だったが、俺が彼女の下に行けばこの二人を引き連れていってしまうような気がして逆効果かもしれない。


 俺の自慢の幼馴染だったら、刺客の二人くらいなんとかしてくれるだろう。そう信じることにしよう。

 ロズリアに言い負かされて、泣かされている姿しか想像できないけど。


「ほどほどにしてあげてよ……」


 俺はあっさりとした忠告だけにとどめることにした。

 薄情な幼馴染でごめん。


「それにしても、ソフィーさん。すっきりした表情ですね。まるで憑き物が落ちたみたいな」


「そう?」


「そう見えます。もしかすると、ノートくんと本当にそういうことしていたりします?」


「さあ、どうだか?」


「まさかの反応です!? 否定の言葉が返ってこない!? これはもしかすると、もしかしますか!?」


 突然額に汗を浮かべ、死体となったエリンと顔を見合わせるロズリア。

 なんで罠に嵌めた人間が、自分の言葉で疑心暗鬼になってんだよ。

 策士、策に溺れるとは、まさにこのことである。


「どうしましょう!? どうしましょう!? これが(うわさ)に聞く寝取られというやつですか!? 寝取る側みたいなことは何度もしたことがありますが、される方は初めてですよ!? どうすればいいんですか!? この胸の締めつけは!?」


「無心になりなさい……雑草になるのよ……」


 ロズリアは完全に自業自得だ。

 だからといって、エリンは雑草教に勧誘するのをやめろ。新たな宗教を作るな。

 そもそも、パーティー内に雑草は二人もいらない。


「辛い時は雑草になればよかった……!?」


 ソフィーもそうだったのかみたいな顔をしない。

 ソフィーってぱっと見、なんか宗教とかに嵌まりやすそうなタイプの人間だよな。不幸体質で、他人への依存度が高いところあるし。


「今からでもレイファ様の下に戻った方がいいんじゃないか?」


 雑草教の教祖として君臨するエリンと、それを崇めたて始めたロズリアを眺めながら口にする。

 部外者ではない俺の目から見ても、この珍妙な光景を作り出しているパーティーに入りたいとは思えなかった。

 だけど、ソフィーは首を横に振って──。


「ううん。ここでいいの」


 真っ直ぐに微笑んだ。

 その笑顔はどこまでも美しくて──。


「時代は雑草だから」


「……おい」


 突っ込まずにはいられなかった。



これにて6章終わりです。

またしばらく次の章の執筆のため、お休みします。

今月発売される7巻もよろしくお願いします。

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