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外れスキル【地図化】を手にした俺は、最強パーティーと共にダンジョンに挑む  作者: 鴨野 うどん
第6章後半 外れスキル持ちの俺と『王女の軍隊』
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第107話 『到達する者』と山脈の巨龍

 ソフィーが加入してからの『到達する者(アライバーズ)』は比較的順調にダンジョン攻略を進めていた。


 元々『到達する者(アライバーズ)』は20階層まで踏破経験のあるパーティーだ。

 ジンがいなくなって昔の『到達する者(アライバーズ)』とは違う形になってしまったけど、ソフィーが入ったことによる補強、そして個々の戦闘能力の向上により、以前と比較しても地力が高いパーティーに仕上がってきた。


 以前は中層の攻略にも苦労していたが、今ではあっという間に次の階層へと進めた。

 そして、現在は18階層の攻略に挑んでいた。


 18階層は巨大なモンスターしか出てこないという不思議なコンセプトの階層だ。

 大きいのはモンスターだけでなく、木々や地形もであり、何から何までスケールの大きい階層である。


「大きい木……」


 俺達は見慣れていた光景だったが、初見のソフィーにとっては珍妙な景色だったらしい。

 この階層を訪れて早々、ソフィーは辺りを見回しながら感嘆の声を漏らしていた。


「なんかこういう風に、ダンジョンの景色一つ一つに感動している人を見るのも新鮮よね」


 そんなソフィーの様子を見て、エリンが口を開く。

 対するソフィーといえば、エリンの反応に首を傾げていた。


「変だった?」


「変じゃなくて新鮮ねって話よ。あんまり『到達する者(アライバーズ)』でそういう反応する人いなかったから」


 確かにエリンの言う通りだ。

到達する者(アライバーズ)』はかれこれ一年以上最高到達階層を更新していない。ダンジョンに潜ってもどれも一度は見たことのある景色で、ソフィーのようにダンジョン内の景色に驚くといった経験も忘れかけていた。


「ちなみにだけど、あの奥の山あるでしょ?」


「はい」


「あれ、この階層のボスモンスターだから」


 なんとも無慈悲なネタバレである。もう少しわくわく感とか大事にしてあげてもいいと思う。


「何よ、その視線……」


「そんなにあっさり教えちゃうと、ソフィーの楽しみがなくなっちゃうのになって」


「最初にこの階層に来た時、ノートがやったことでしょ?」


「そうだっけ?」


「覚えてないの?この階層に来て早々、《索敵》でボスの気配摑んで、私達に報告してきたじゃない」


「あったなぁ……そんなこと……」


 確かフォースとかにブーイングを食らった記憶がある。

 あの時の俺は、早めにボスの存在がわかった方がいいと善意100%で口にしたんだけどな……。


「完全にブーメランな発言でした」


「なんで当の本人が忘れてるのよ……」


「それはすみません。でも、ソフィーまで同じ目に遭わせなくても……」


 ソフィーの方へ視線を向ける。彼女は会話内容に興味を抱いていなかったのか、いつも通りの冷めた表情を浮かべていた。


「別にどうでもいい。ダンジョン攻略に楽しみなんて求めていないから」


 それもそれでどうかと思う。

 無理に楽しめとは思わないが、少しくらいそういったプラスの感情をダンジョンに期待してもいいんじゃないだろうか。


 そもそもソフィーをダンジョン探索に誘ったのは、単に『到達する者(アライバーズ)』に必要な戦力だからというわけではない。

 レイファの下を追い出され、自分の人生に絶望をしていたソフィー。

 そんな彼女に新しい希望を見つけて欲しい。


 そのようなお節介ともとれる動機から、俺はソフィーを『到達する者(アライバーズ)』に誘ったつもりだった。

 しかし、彼女が自分の人生に希望を見いだしているようには、今のところ見えていなかった。


 今のソフィーは受動的に、義務感に背中を押されながらダンジョン攻略をしているだけだ。

 手を差し伸べた俺達に恩を返すため、献身的に『到達する者(アライバーズ)』に尽くしてくれている。


 だけど、それはソフィーの本来の意思なのか。彼女のやりたいことなのか。正しい関係なのか。俺は自信が持てないでいた。


 これじゃあ、レイファの下にいた時と何も変わらないのではないだろうか。

 恩という鎖で縛りつけて、俺達五人の野望を叶えるためにソフィーの力を借りている状況。不完全で、歪な共生関係だ。

 このままじゃいけないんだろうと思うけど、どうしたらいいのかわからない。


 別にソフィーの感情が摩耗しているわけでもない。

 現にこの階層に来た時は現実離れした景色を見て、感嘆の声を漏らしていた。少なくとも景色に感動するだけの心は持ち合わせているのだ。


 だけど、ソフィーは自分の心にどこかブレーキをかけている。

 まるで幸せになっちゃいけないと、楽しんじゃいけないと、自分に言い聞かせているような、そんな印象を受けていた。


「で、この階層はどうする?どうやって突破する?」


 エリンの声で我に返る。

 そうだ。今はダンジョン攻略に来ているんだ。まずは無事に突破する方法を考えなくては。


「そろそろエリンと合わせて戦ってみないか?」


 そう言ったのはフォースだ。


「今までエリンが出てくると、パーティーの連携の練習にならないからって休ませていただろ? そろそろ出てくるモンスターも強くなってきたし、エリンを出しても問題ない階層なんじゃないか?」


到達する者(アライバーズ)』の休止期間、一番化けたのはエリンである。

【魔力増大・極】による無限大の魔力を利用して、スペルを撃ち続けることで練度を強制的に上げるという反則級の荒業。


 それによって、今の彼女は歩く魔導兵器だ。

 最高練度の高火力スペルを無限に撃てる。そう言えば彼女の規格外ぶりはわかりやすいだろう。


 そんなエリンだ。彼女が本気を出せば、ダンジョンのモンスターは瞬く間に消し炭になってしまう。

 俺達は迫ってくるモンスターからエリンを守るだけで充分で、連携も何もなくなってしまう。


 というわけで、17階層まではエリンを封印していたが、来るべき深層のためにもそろそろエリンと合わせる練習もしておいた方がいいのかもしれない。


「いいの? 私が出ちゃって。全部倒しちゃうわよ」


「相変わらずの自信過剰っぷりだな」


「前まではそうだったかもしれないけど、今は事実よ」


「まあ、期待だけはしておいてやるよ」


 エリンとフォースは相変わらず軽口を叩き合っていた。

 接近戦のエースと遠距離戦のエース。

 パーティーの二大エースは、お互い丸くなったといえども、未だにライバル意識は抱いているようだ。


「わたしはどう動けばいい?」


 ソフィーが指示を仰ぐ。

 エリンは髪をかき上げながら言った。


「とりあえず私を守りなさい。それだけで充分だから」






到達する者(アライバーズ)』がダンジョン探索を再開した当初、16階層に潜ったエリンはたった一人でその階層のモンスターを焼き払った。

 今回も派手にやりたがる彼女だったら、それくらいのことをしでかすかと思っていたが、予想は大きく裏切られることになる。悪い意味で。


 さあ18階層を攻略しようと歩みを進めた直後、エリンがスペルを放つ素振りを見せる。

 超高密度の魔力の気配。大魔法を展開させていることに気づいた時には遅かった。


 エリンの背後に現れた魔法陣から、エネルギーの塊が放たれる。

 魔力の奔流。見る者に凶兆を与えるような煌めく光は放物線を描き、空を駆けていく。


 そのまま青空に消えていったかと思うと、遠くで乾いた破裂音が。

 一瞬何をしたのか全くわからなかったが、後に訪れた地鳴りですべてを理解した。


 こいつ、開幕速攻ボスモンスターに宣戦布告の攻撃を仕掛けやがった。

 道中の雑魚モンスターなんて相手じゃない。私はボスにしか興味がない。眠ってないでさっさと出てきなさい。

 と言わんばかりの無茶苦茶な発砲。


 ボス部屋とかそういった仕様を完全に無視した、ダンジョンへの冒瀆といえる行為。

 そんな意図が伝わったのか、巨龍は怒りの咆哮をあげる。眠りから覚めて、完全にこちらに狙いを定めている。


「どうするんだよ、これ……」


 ボスを起こしたことはまだ許せるが、問題は正式な手順を踏まなかったことだ。

 ボスを起こすほどの一撃とあらば、周囲にいるモンスターも当然俺達の気配に気づく。

 それだけならマシなのだが、中ボスですらまだ倒せていない状況なので当然中ボスの気配すら現れ始めていた。


「この階層すべての敵と戦うようなものだぞ?」


「それがどうしたのよ。そのくらいの力がないと、あの21階層は突破できないでしょ?」


 エリンなりに色々考えての行動だったらしいが、全くもって滅茶苦茶な論理だ。

 せめて行動に移す前に一言入れて欲しかった。そうしたら、許可するかどうか決められたのに。


「雑魚モンスターはロズリアとソフィーが引き受けて。フォースさんは中ボスをさっさと片づけてください。エリンはボスを起こした責任を一人で取ってよ」


「わかってるわよ。あいつを一人で処理すればいいんでしょ?」


「本当にわかってるんだったら、いいんだけど……」


 心配になる返事だったが、始めてしまったものは仕方ない。

 雑魚モンスターの数には限りがないので、ロズリアとソフィーの手が空くことはそうそうない。

 どれだけ早くフォースが中ボスを処理して、状況を好転させるかが鍵になっていきそうだ。


 こちらが今後の展望を組み立てている間にも、エリンは絶え間なくスペルを撃ち続けている。

 どんどんと山脈が近づいてくるのが見て取れた。巨龍は己の射程圏内に不遜な魔導士を収めるために、攻撃の雨を一身に受けながらも歩みを止めない。


 いくらエリンが七賢者に匹敵するほどの魔導士とはいえども、人間である。

 彼女の放てる魔法には威力の限界があり、数十キロメートルを越える超長距離弾道とあれば威力が減衰するのも自然の理である。

 巨龍の射程圏内に入る前に削り切るのは不可能そうだ。


「フォースさん、二時の方向から中ボス来ます」


「おうよ」


 既にフォースは近づく強敵の存在を研ぎ澄まされた感覚で認知していたようだ。

 俺が情報を与える前に走り出していた。


「まだバフスペルかけてないです!待ってくださいです!」


 駆け出すフォースにネメが待ったをかける。あまりに目まぐるしい開戦に、神官の支援が追いついていない。

 慌てて杖に祈りを込めるネメに目もくれず、フォースは一言。


「いらん」


 その反応はネメも予想外だったようで──。


「酷いです! なんなんです!ネメはいらない子だったです!?」


 顔を真っ赤にして怒っていた。

 支援スペルをかける手を止め、杖をぶんぶん振り回しながら怒りをまき散らしていた。


「もうフォースなんて知らないです。もう一生スペルかけてあげないです。モンスターにやられても回復してやらないです」


「そう拗ねるなって。別にネメがいらない子ってわけじゃねえよ」


「なら、なんなんです?」


「どうせ21階層ではネメのスペルは封じられるんだ。なら、支援なしの戦闘を経験してみた方がいいだろ?」


 意外にもフォースには深い考えがあったようだ。彼なりにきちんと考えての発言だったみたいだ。言い方はともかくとして。

 まあ、この窮地でそんな挑戦をするのは危険な気もするので口を挟むことにする。


「大丈夫なんですか?この状況で。煉獄抜きで中ボスを素早く処理できます?」


 煉獄とはフォースが用いる妖刀だ。自身の身を焼く代わりに、桁違いの切れ味と呪いにも似た黒炎をまき散らす禍々しい刀。

 フォースの【魔法耐性・大】とネメの継続回復スペルで煉獄の代償をやり過ごすという戦い方を以前の彼はとっていたが、もう一方の代償がない名刀煌狛だけで中ボスを倒すつもりなんだろうか。


 しかし、そんな予想を裏切る答えをフォースは口にした。


「いや、煉獄は使う」


「でも、それじゃあ─」


「言っておくが、成長したのはエリンだけじゃねえぜ」


 フォースは黒い鞘から獄炎をまき散らす刀身を抜き出し、構えた。


「ネメの支援抜きで煉獄はもう使えるっていうんだ」


 なるほど。フォースもしっかりと21階層対策はしていたということか。

 フォースにとってともにパーティーを立ち上げたジンの存在は、他のメンバーとは一線を画すものだ。

 いわば相棒といえる存在を奪った21階層ボス。そんな仇敵を倒すために準備に万全を期していた。


「じゃあ、ネメの役目はどうなるです!?」


「だから、いらん」


「がーん、です!」


 あからさまな落ち込みを見せるネメ。

 仕方ないところだよな。21階層ではボスによって、ネメの神聖術スペルは封じられてしまう。ネメ抜きの戦闘を考慮するのは当たり前だ。

 その分、それからの階層ではネメのスペルも使えることだろうし、ふんだんに頼らせてもらうけど。


 フォースが森に消えて直後、剣戟の音が響く。どうやら中ボスと交戦を始めたらしい。

 一人で渡り合っていることに安堵していると、今度は正面から何やら不穏な気配が。


 見てみると、巨龍の口にダイヤモンドのような煌めきが。

 あれはそんな綺麗なものじゃない。光線だ。敵の射程圏内に到達してしまったのだ。


「ソフィー、防御スペル展開して──」


「了解」


 ソフィーが精霊術の詠唱をしようと口を開く前に、背後から膨大な魔力の気配が。


「いらないわよ」


 杖から一閃。いや、一閃というには太すぎる魔力の激流。

 放たれた光線に正面からぶつかるようなレーザービームが、エリンの下から発射された。


「撃ち合う気なのかよ……」


 圧巻の光景。巨龍の口から放たれた光線と、エリンのレーザービームが拮抗している。

 拮抗といっても、それはエリンの方が押していて、巨龍は自らに降りかかる熱線を()けるかの(ごと)く首を振り、迫りくるレーザーの軌道を()らした。


「仕留めそこなったわ。あのまま口の中にスペルぶち込んでやれば、簡単に倒せそうだったのに」


「まずそこなんだ……」


 自身の数千倍以上ある巨体なモンスターに、威力勝負で真っ向から競り合っただけでも驚きなのに、それ以上を見据えて勝負を挑んでいたとは。

 なんというか、見えている世界が違いすぎる。エリンには自分一人の力で巨龍を打ち倒すことしか見えていないようだ。


「ほら、行くわよ。次!」


 エリンは絶え間なくスペルを放っていく。

 対する巨龍はというと、光線を放つにはチャージが必要なようだ。反撃する間もなく、攻撃を一身に受けている。


 チャージが溜まるも、放たれる光線は即座にエリンのスペルに撃ち落とされる。一方的な虐殺劇。

 巨龍はダメージを受け続けて、怒りモードに突入する。


 怒りモードというのはネメが便宜的につけた名前だったが、要は体力が一定以下になると巨龍の背中の山が活火山となり、範囲攻撃を仕掛けてくるのだ。

 背中が赤く光ったかと思うと、閃光が弾ける。怒れし山は轟音とともに溶岩と火山弾をまき散らしていく。


「《樹状光束》!」


 撃ち出される火山弾。エリンはそれを幾重にも分岐していくレーザーで撃ち落としていく。

 弾け飛ぶ溶岩に森のモンスター達が次々と死滅していくのが見て取れる。


 ソフィーが心を動かされた巨大樹林の光景は完全に消え失せ、火山弾とエリンのスペルの流れ弾によって燃え盛る森が広がるのみだ。


 巨龍の攻撃は火山を噴火させるだけではない。溶岩を噴き出しながらも、光線を放っていく。

 先ほどより熱量を持った赤い光線。エリンは分岐するレーザー魔法を撃ち、迎撃に向かう。


「ロズリア、ソフィー、ちっこい攻撃の処理は任せたわよ!《轟砲射撃》っ!」


 ちっこい攻撃とは火山弾のことだろう。二重発動(ダブルキヤスト)を使えないエリンは、敵の火山弾攻撃の迎撃を諦め、より危険度が高い光線の処理に集中することにしたようだ。


 しかし、ちっこい攻撃といっても、火山弾は数メートルを誇るものもある。当たっただけで常人なら即死してしまう。

 それにロズリアとソフィーはボス以外のモンスター処理に忙しい。急に言われて対処できるわけがない。


「わかった」


 そう思っていたのだが、意外なところから返事があった。この声はソフィーのものだ。


「《守城の精霊(フロンテ)大地を用い(テイエラ)壁を生成(パレツド)》」


 精霊術で土壁を作り、『到達する者(アライバーズ)』の下に迫りくる火山弾を防いでいた。

 しかし、彼女の周りには無数の敵がいる。巨大なモンスター達は、巨龍からの攻撃を防ぐのに必死になっていたソフィーに向かって襲い掛かっていた。


「ソフィー!」


 駆けつけるのが一歩遅れた。

 巨大な象の蹴りが彼女の胴体を直撃する。そのまま彼女は、身体をくの字に曲げて吹き飛ばされる。


 いくら【鉄壁】のスキルを持つソフィーといえども、相手は18階層の敵だ。今の直撃はかなり危ない。

 迫るモンスターの群れを避けながら助けに入ろうとするも、敵の数と空から降る火山弾に妨害され、上手く近づけない。


「ネメ姉さん、回復スペルを」


「わかってるです!」


 ネメの回復スペルが届き、ソフィーの身体が緑色に光るも、今度は近くのサイクロプスが棍棒を振り上げ、そのままソフィーの頭上へ振り下ろした。鈍い音が鳴る。


「《絶影》」


 この際、敵の攻撃が多少かするのは厭わない。強引にモンスターの横を抜け、ソフィーに肉薄していく。

 一瞬で攻撃を仕掛けたサイクロプスの下へ。躊躇(ためら)いなく、一閃。


「《魔法掌底(スペルシヨツト)》ッ!」


 一度の戦闘に二度までしか放てない大技。俺がダンジョンのモンスターにダメージを与えられる唯一の攻撃。エリンの魔法を込めた相乗攻撃を灰色の巨体にぶつけた。

 サイクロプスの巨体に穴が空く。一発で致命傷だとわかる空洞。


「ソフィー、大丈夫か?」


 慌てて地面に横たわるソフィーに声をかける。頭からは血が流れ、手も変な方向に曲がっている。

 だけど、まだ息はあるようで。


「大丈夫。壁を生成(パレツド)は解いてない」


 身体を動かせないながら、見当違いの返事をしていた。

 ネメの回復スペルが届いたのを確認して、彼女を抱えて一旦戦線を離脱する。


「そっちじゃなくて、ソフィーの身体の方だよ」


「わたしは大丈夫。滅多なことじゃ死なないから」


「そういう問題じゃないだろ」


 ソフィーが受けた攻撃は命を奪わないまでも、彼女の命を奪う引き金に指をかけていた。

 口から血が出ていることから、内臓が損傷していたことは明らかだし、骨折もしていた。ネメの回復スペルがなかったら、そのうち死んでいたはずだ。


「わりい。ようやく中ボスを倒し終えた」


 どうやらフォースの手がようやく空いたようだ。フォースにはそのまま雑魚モンスターの処理に回ってもらうことにした。

 ソフィーの傷もネメによって完治することができたが、ここは休ませた方がいいだろう。

 そう思ってネメの近くで寝かせようとするも、ソフィーは俺の肩を掴んだ。


「大丈夫。わたしは治ったから。戦える」


「でも──」


「ここはダンジョンの中。少し怪我をしたから休むなんていう甘えたことはできない。そうでしょ?」


「その通りだけど……」


 ソフィーの言い分も理解できる。

 フォースの手が空いて余裕ができたとはいえども、未だ油断ならない状況だ。気を抜けば、また誰かが致命傷を負う可能性だってある。


「じゃあ、わたしは行くから」


 しかし、納得のいっていない俺を他所に立ち上がり、ソフィーは周囲の雑魚モンスターに向けて駆けていった。



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