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本日も愛され日和〜不遇の幼女、今日から愛され公爵令嬢はじめます〜  作者: さき
第二章

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28:そのお店は……

 


 兄弟達の中、起きていたのはハンクだけだった。

 それでも使用人達が事情を説明すると全員がすぐにテオドールの執務室へと集まった。



「せめて店の特徴が分かればこちらで調べることもできるんだが……」


 参ったと言いたげにジョシュアが話せば、普段は朗らかなライアンも今だけは深刻な表情で小さく首を横に振った。


「シャルロッテ自身が泣き過ぎてちょっと混乱しちゃってて、上手く話せる状態じゃないんだよね。それに広場の全貌もまだ理解しきれてないから地図を見せてもお店の位置が分からない。今の状態で無理に聞き出そうとすると焦らせちゃうし」

「焦らせるのは駄目だな。以前にレスカが、話を求め過ぎると相手が焦って記憶を誤る可能性があると言っていた」

「だよねぇ。ゆっくりと話を聞くのが一番なんだけど、そのためにはまず落ち着かせないと」


 説明するライアンの口調も困惑の色が強い。

 それでもひとまずリシェルに温かい紅茶を頼むのは、せめて何か飲ませてシャルロッテを落ち着かせようと考えたのだろう。

 告げられたリシェルが一礼し、傍にいたメイドと共に足早に部屋を出ていった。




 兄達が来てくれてもシャルロッテの気分は晴れず、どこにあった店か、どんな店か、上手く答えられずにいた。

 まだ物事を説明するための語彙力が少なく、広場の全貌も把握していない。地図も読めずそのうえ動くものを目印にしてしまっていた。幼いゆえ仕方ないとはいえ、この状況で店を特定するのは困難を極める。

 そのうえ今回の祭事は年に一度の大規模なもので、国内外問わず集まり何十も出店しており、とりわけアクセサリー類は出店数が多い。『フレデリカが初日に買っていた』と話してはいるものの、それも幾つも買った内の一店に過ぎないのだ。


 あまりに情報が少なく、その少ない情報もあやふや。


 これは難しいとジョシュアとライアンが話し合う。

 それを横目に、ハンクとグレイヴがシャルロッテへと近付いていった。

 フレデリカに抱き着いて泣いていたシャルロッテが顔を上げる。目は真っ赤で頬は涙で濡れ、掠れた声で「お兄様」と兄達を呼んだ。


「ね、ねてたのに……、ロッティ、の、せいで、おこしちゃって、ごめんなさ……」

「大丈夫だ、シャルロッテ。兄というのは妹のためならすぐに起きれるものだからな。……それより、欲しいものがあったんだな。気付いてやれずにすまなかった」

「グレイヴおにいさまの、せいじゃなくて……、ロッティが、いわなかったから……。……ごめんなさい」

「謝らないで。誰も怒ってないし、シャルロッテのせいじゃない。だからもう一度、僕達とお店のことをゆっくり思い出してみよう……。ほら、リシェルが暖かい紅茶を淹れてくれたから、落ち着いてお話しよう」

「ハンクおにいさま……」


 優しいハンクの声に促され、シャルロッテはそろそろと身を起こした。もっとも、身を起こしはするもののぴったりとフレデリカに寄り添ったままだ。

 リシェルからカップを受け取り温かい紅茶を一口飲む。ふわりと漂う香り。温かさが喉を伝って胸とお腹を温めてくれる。


「ライアンお兄様のおちゃ……。ロッティ、このおちゃだいすき……」

「僕のお茶? あぁ、ハーブティーだね。気に入ってくれて嬉しいな」


 ライアンが優しく微笑みながら近付いてくる。それにジョシュアも。

 兄達に囲まれて、隣には母。もちろん父も近くに居てくれる。リシェルや普段仲良くしてくれている使用人達も扉の近くに居る。彼等は一緒にお祭りに行ってくれた使用人達だ。

 部屋を見回せば皆が居てくれているのが分かる。

 改めるように全員の顔を見回し、シャルロッテはスンと一度洟を啜ってもう一度紅茶を飲んだ。


 頭の中のぐるぐるが、胸の内のもやもやが、少しだけハーブティーの温かさで解けていった気がする。


 そんなシャルロッテの様子から少し落ち着いたとみて取ったのか、ジョシュアが優しい声色で呼んできた。

 ソファに座るシャルロッテの視線に合わせるようにしゃがんで。カップを持つ手に己の手を重ねながら。

 温かなカップと大きな手に挟まれて、シャルロッテの手がより温まった。まるで温かさが手を通じて体を巡っていくようで、胸の内も靄が少しずつ薄れていった。

「ジョシュアお兄様」と名前を呼びかえせば彼が微笑んで返してくれる。その麗しく優しい笑みもまたシャルロッテを安堵させた。


「シャルロッテ、落ち着いて焦らずに話をしよう。分からなくてもいい。市街地の広場にあるお店で、アクセサリーを売っていたんだね」

「……はい。きれいなのがいっぱいでした」

「確か最初の日って、まずはコットンキャンディを食べたんだよね。ふわふわで、すっごく美味しいって僕達に教えてくれたんだよね」


 ジョシュアに続くようにライアンが確認してくる。

 話の終わりに「一緒に食べにも行ったよね」と朗らかに笑ってくる彼に、シャルロッテもその時のことを思い返して僅かながらに笑って頷いた。

 ライアンと一緒にお祭りに行った際、二人で大きなコットンキャンディを半分こして食べたのだ。あの時のことを思い出すと、また少し胸の内が晴れてくる。


「コットンキャンディを食べた後、広場を見て回って、そのお店を見つけた。それで合ってるかな?」

「はい。あのね、ロッティね、トットンキャンディで、おててがベタベタになって、お父様とおててあらいにいったの」


 ジョシュアとライアンのおかげで少しだけ胸中も落ち着き、先程より幾分は話せるようになった。

 お祭りに行っていた日の記憶、その中でも一番最初の記憶を辿りながら必死に伝える。手がベタベタだからと父と手を洗いに行き、戻ってきて店で待っていた母と合流し、再び店や出し物を見て回った……。


 シャルロッテの話を聞いていたテオドールが当時のことを微かに思い出し、広場の地図を机に広げた。

 入り口からどう進み、コットンキャンディを売っていた店に向かったのか、そのあとどう動いたか……。地図に直接書き記していく。


 遅々とした進展だが、こうやって少しずつ店を絞っていくしかない。

 そう誰もが考え次の質問をとなったところで、シャルロッテが「あのね」と話し出した。


「ボールをいっぱいポンポンしてるひとがいてね、それで、そのひとのちかくのお店。赤いお店でね、キラキラがいっぱいなの」


 必死に記憶を引っ繰り返しならシャルロッテが話す。もっとも、覚えていることの何をどう話せばいいのか分からず、やはり断片的だ。紅茶を飲んでも温かくはなるが適した言葉は出てきてくれない。

 そんなシャルロッテの話を聞き、兄達は「ボール? 大道芸か?」「ああいう出し物はタイムスケジュールが決まってるはず、そ、そこから特定できるかな……」と話し合い、どうにか店を特定できないかと考えを巡らせる。


 そんな中、「赤いお店?」と呟いたのはフレデリカ。

 優しくシャルロッテの背や肩を撫でながら、見上げてくる愛娘の潤んだ目元にキスをして落ち着かせる。


「シャルロッテ、そのお店の屋根は赤かったの?」

「あか……、ん、……あれ、でも青……、赤かったけど、青だったかも……」


 あれ? とシャルロッテが首を傾げた。

 ネックレスを売っていた店の屋根は赤かった。それを目印にしたのだ。

 だけど青かった気もする。いや、確かに青かった。だけど赤でもあった……。


「赤……、でも、青の日もありました……。たぶん、でも……あれ?」


 どうして? とシャルロッテは傾げた首を更にと曲げた。

 フレデリカが「首を痛めちゃうわよ」と優しく頬を撫でながら戻すように促してくれる。その手に頬を擦り寄せれば、親指の腹で目元を撫でてくれた。少しヒリと痺れるのは泣きすぎたからだ。


「テントの屋根は色別にわけられていると聞いたけど」

「赤は飲食店で、青は販売系、他にも緑は展示や体験で、白は受付や管理系。毎年これは変わってないし、日毎でテントを変えるなんて今まで無かったはずだけど……」


 どうしてだとライアンが眉根を寄せる。

 その話に、他の家族も、部屋に集まった使用人達も疑問を抱き……、


「……いや、今年一軒だけ、テントの色を変えた店があった」


 というジョシュアの言葉に、誰もが彼に視線をやった。




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ジョシュアお兄様……優秀!!
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