第九十二話 王族姉妹のお茶会
来週は結婚式に泊りがけで参加しますんで、更新ちょっと難しいかもです。済みません。
今回はちょっと微妙な切り方ですね。分かってはいるんですが……此処が一番、切り方として可笑しくなかったので……
「紅茶が入りましたよ、お姉様!」
弾んだ声でフレイム王国国王、エリザベート・オーレンフェルト・フレイム――リズは、シルバーの上に置いたポットと紅茶を小さく掲げ、心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべて見せた。天真爛漫、邪気のない笑みに思わず声を掛けられたエリカの顔も一瞬綻び、その後思い直したかのように首を左右に振って小さく溜息を吐いて見せた。
「……恐れながら陛下。私、エリカ・オーレンフェルト・ファン・フレイムは臣下の身に御座います。その様に、お姉様など――」
「リズです」
「――と……陛下?」
「リズです! 二人っきりの時はリズです! リズって呼んで下さる約束です!」
「いえ、陛下。その約束も一体何時の――」
「リ・ズ! リズです! ちゃんとリズって呼んでください!」
ぷくーっと頬を膨らますリズにもう一度、今度は深く深く溜息を吐いて苦笑を浮かべて見せた。
「……二人の時だけよ、リズ」
「――はいっ!」
輝かんばかりの笑みを浮かべて見せるリズに、エリカも今度は苦笑を心からの笑みに変えて見せた。
「貴方は本当に昔から変わらないわね」
「そんな事ありませんよ。私だって……こう、国王陛下として頑張っています!」
「……『お姉様が来るまで仕事はしません!』ってごねたって聞いたんだけど?」
「ぐぅ!」
エリカの言葉に、少しだけ動揺した様にリズの体が揺れる。カチャ、っとシルバーの上のポットとカップが音を立てた。
「落とす前に置きなさいよ、それ」
「……お姉様が意地悪言うからです」
「意地悪って……貴方ね? そういう問題じゃないでしょ?」
「い、意地悪ですぅ! だ、大体! お姉様、折角ラルキアに来たのに全然私の所に来てくれないんですもん!」
「ぐぅ!」
「そうです! そうですよ! お姉様、私国王陛下ですよ? 国王陛下の召喚に応じないってどうですか! いっつも『所用が』って! 可笑しくないですか! お姉様、もう一回言いますよ? 私、国王陛下ですよ!」
今度はエリカが言葉に詰まる番。責める様なリズの視線から逸らす様、エリカはついっとソッポを向いて見せた。
「……い、忙しかったんだもん」
「何ですか、その子供みたいな言い訳! お姉様こそ全然成長してないじゃないですか!」
「せ、成長してるわよ!」
「何処がですか! 全然成長していません! 主に胸部と――っ!」
『何ですってー!』という、エリカの声が響くとリズは思った。無論、リズもイイ大人――では無いが、自らの姉がこう、その……自身の若干、残念な体の凹凸に悩んでいるのは知っていたのに。
「あ、あの! お姉様! その――」
一度、口から出た言葉は戻らない。それでも、状況を打破しようとリズが必死のフォローを繰り出そうとして。
「……うふふ」
「――……何ですか、お姉様。気持ち悪い笑顔をして」
「きもっ――! し、失礼ね!」
ニヤニヤとしか形容しようがない笑みを浮かべたエリカを視界に収めた。
「ほ、本当に貴方は……コホン。うふふ、リズ? 何を言っているのかしら? 私の……なんですって? 胸部が……え? どうしたの?」
心持、胸を張ってそう言って見せるエリカ。そんなエリカの姿を訝しげに見つめ、上から下まで眺めて。
「――っは!」
「ふふふ。気付いた様ね? そう! 私、成長しているのよ! あら? あらあら、リズぅ? 貴方、全然『成長』してない様ね? うふふふふ! そうよ! 姉より豊かな妹など、この世に存在――」
「パッドですかぁー!」
「――しないってなんでよ! 重ね重ね失礼よ!」
カオス。
「だ、大体! こう、領主としても、そ、その……て、テラ! テラ、発展してるじゃない! こないだ、縁故債だって償還したじゃない!」
「そ、それは……それは、そうですけど! でも、それってお姉様だけのお手柄じゃないですよね! というか、殆ど松代様のお陰じゃないですか!」
「あ、あーー! 言ってはいけない事言った! でも! ぶ、部下――じゃないけど! こう、支えてくれる人材も含めての領主の器でしょ! 違うの!」
「そ、それはそうですけど……ですが! そもそも、松代様って客人ですよね? 別に自分で見つけてきた人材って訳でもないですよね!」
「うぐぅ! 気にしてるのに! 結構気にしてるのに、それ!」
殆ど涙目でリズを睨むエリカ。今度はエリカのその視線に、うぐぅっとリズが息を詰まらした。
「……その……それは失礼しま――」
「大体! 貴方だってロッテのお陰でしょ! ロッテこそお父様の遺臣じゃない! それに、カールだってそうでしょ!」
「――したって、私の謝罪を返して頂けませんかねぇ! お姉様こそ言っちゃダメな事ですよ、それ!」
「そ、それは申し訳なかったけど……でも!」
「それに!」
「それに何よ!」
少しだけ、言い淀むよう。
「……お姉様が、側に居て下さらないから……」
目を伏せ、少しだけ拗ねた様な顔を見せるリズに思わずエリカが息を呑む。先程までの言葉の応酬は何処へやら、しんみりとした空気が室内に流れ。
「……ごめん」
何とか絞り出したのは、そんな普通の言葉。
「……」
「……」
「……少しだけ、我儘を申しても?」
「……うん」
「……ロンド・デ・テラ公爵は過去、数人の高位王族に与えられた爵位です。ですが、わざわざテラにお住いになり、領地経営を行ったのはお姉様だけです」
「……そうね」
「テラ領の経営が良ければ、それで構いません。縁故債の償還も……その、言い難いですが……こう、適正に返済を為されていれば。ですが……」
「分かってるわよ」
小さく、溜息。
「正直、貴方に甘えている所はある。でも、今は少しずつ領地の経営は上向いている。港の計画も……そりゃ、ちょっと止まっていたけど、何とか前に向いて動いているわ。縁故債の償還も出来るわよ」
「そう、ですわね」
「そうなればリズ! 今度は私がフレイム王国の国債を引受けさせて貰うから! そうすれば、きっとフレイム王国の財政も楽になるでしょう?」
「そうですね。今のテラの発展なら、きっとそうなるでしょう」
「でしょ? だから、リズ? きっと――」
「私は!」
そんなエリカの言葉を遮る様に。
「――……私は……私は、お姉様に側にいて欲しいのです」
「……」
「……ロッテは頼りになる臣下です。私の事を赤子の頃から見てくれていて、間違いの無いように導いてくれています。ローザン卿……カールだって、そう。私を、私を見てくれる。でも……でも!」
「リズ」
「……それでも、私はお姉様にいて欲しいのです」
「……リズ」
「お父様ももう居ません。アンジェリカお母様も、リーゼロッテお母様も……もう、居ないんです。ロッテだって、カールだって……何時までも、ずっと、ずっと、王城に出仕してくれる訳ではありません」
「……」
「お姉様が一緒に居て下されば、私はもっとやれます。もっと、もっと、大きくこの国を出来ます。フレイム王国は、もっとよくなります。お姉様が……お姉様が居て下されば、それだけで!」
リズの両目から、一筋涙が流れた。
「……寂しい、です」
「……」
「……お父様も、アンジェリカお母様も、リーゼロッテお母様も……誰も、誰も居ないのです。私は……私は、一人ぼっちです。一人ぼっちなのですよ!」
「……」
「――……なーんて。冗談ですよ、お姉様」
その後、その涙を拭って笑顔を。
「ロンド・デ・テラの発展、凄いですねお姉様。今日はそのお話も聞きたかったのです! さ! 紅茶が冷める前に飲みましょう!」
そう言って綺麗な笑みを浮かべて、リズはエリカのカップに紅茶を注いだ。
◆◇◆◇◆
「それにしてもお姉様、テラの発展は目覚ましいですね」
最初こそ少しだけ気まずい空気が流れたが、元々仲良し姉妹。紅茶が二杯目になる頃には普段の『エリカとリズ』に戻っていた。お互いがお互いを気遣い合う、麗しい姉妹愛、という事にしておいて欲しい。
「ちょっと躓いた事もあったけど……まあ、概ね巧く行ってるわ」
手をひらひらと左右に振って見せて何でも無い風にそういうエリカ。口ではそんな事を言いながらも、少しだけ嬉しそうに綻ぶ顔に少しだけ微笑ましいモノを覚え、リズは言葉を継いだ。
「特に、引渡証書。あの証書に関しては面白いアイデアだと思いました、純粋に。思いついた……持って来た、ですかね? 持って来た松代様も、それを裁可為されたお姉様も。英断だと思います」
「ありがと。まあ、アレはテラだから出来た所もあったのよ。フットワークは軽いのよ、テラ。しがらみも無いしね?」
「羨ましい話ですわ」
頬に手を当て、はーっと息を吐いて見せる。疲れた様なリズのその仕草に、眉根を寄せるエリカ。
「難しい、でしょうね。フレイム王国全体となれば」
「……そう、ですわね。舅も姑も小姑も多いですので、フレイム王国には。テラの様には身軽では無い分、テラ程思い切った改革を行うのは難しいですわ」
「いま、正にその局面に遭遇しているわよ私達」
「その点については申し訳ないと思っておりますが……それでも、他に頼るべき人がおりませんので」
申し訳御座いませんと頭を下げるリズに、もう一度ひらひらとエリカは手を振って見せた。
「良いわよ。こちらもだいぶ無理をお願いしたし……それに、貴方の御願いですもの」
「ありがとうございます」
「妹のお願いぐらい聞かないで、何がお姉ちゃんだか」
「……そういう所が、お姉様ですわね」
「なにか言った?」
「いえ、何も。ともかく、今回の事は殆どお姉様方に一任する様な形になってしまいました。無論、『報酬』は支払わせて頂きます」
「あら? それじゃ遠慮なしに期待しておくわよ?」
にっこり笑うエリカに笑顔を返し、空いたエリカのカップにリズはもう一杯、紅茶を注いだ。ありがと、と頭を下げるエリカにこちらもいえいえと頭を下げ、自分のカップに紅茶を注ぐ。
「まあ、『お礼』については今後お話するとして……お姉様、聞かれていますか?」
「なにが?」
「ウェストリア王国です」
「ウェストリア王国? 何? また戦争でも始めたの?」
「クリス様がおられる内は戦争は無いでしょうが……ただ、ある意味では同じくらい厄介な事です」
「……ああ。なんか、物凄く聞きたくない感じがする」
「そう言わずに。大体、ご想像が付くでしょう?」
「結婚?」
「です。ウェストリアのマリー姫殿下とローレントのクリストフ殿下の婚姻です。ほぼ、確定ですね」
「マリー姫殿下? マリー姫殿下って……」
リズの言葉に、エリカの脳裏に髪を短く切り、活発に動き回る少女の姿が思い浮かんだ。
「確か、クリス殿下の妹姫よね? もうそんな年だったかしら、マリー姫殿下って」
「私の二つ下ですから、もう十四になりますわ。何時までも昔の『お転婆マリー』を思い浮かべて居ては駄目ですわよ、お姉様?」
もう立派なレディですわよ? と首を傾けて笑みを浮かべるリズにエリカも小さく苦笑を浮かべて見せた。
「そっか。もうそんなになるのね。貴方とマリー様、それにラルキアのジェシ――」
「……」
「……ごめん。配慮が足りなかったわ」
「……いいえ。ええ、そうですわ。私達三人、よくラルキア王城で遊んでおりましたから!」
昔を懐かしむよう、目を細めるリズ。その姿に先程の失策を思い返しながら、それでもつとめて明るくエリカは言葉を継いだ。
「でも……お相手のクリストフ殿下、確かもう四十歳を越えて無かったかしら? 結構な年の差じゃない?」
「政略結婚ですので、年の差はそんなに問題では無いのですが……問題はクリストフ殿下、という点ですね」
「クリストフ殿下って……確か、第二王子だったかしら?」
「ええ。ローレントの第一王子はアレクシス王太子ですが……」
「あまり評判が良くない?」
「……失礼ながら。対して、クリストフ殿下は民の評判も良いです。恐らく、アレクシス王太子は廃嫡となるでしょう。そうなると」
「『世継ぎ』に送り込むのか、ウェストリアは」
「そうなります。そして、それは」
「北のローレント、東のウェストリア。両面作戦で来られたら厳しいわね、フレイム王国も。カールに頑張って貰うしかないんじゃない?」
「カールに頑張って貰うような事態になったらこの国は終わりですよ、もう」
「ま、それはそうね」
肩を竦めて見せるエリカに、苦笑を一つ。その後自身のカップに紅茶を注いでリズはそれを一口、口に含んだ。
「結婚式は盛大なモノになるでしょう。ウェストリア、ローレントの友好の懸け橋ですもの。私自身も参列しようと思っております」
「リズが自ら?」
良くも悪くも、国家には『格』というモノがある。フレイム王国はオルケナ大陸の一国家に過ぎないが、かつては大陸全土を領地に治めた覇権国家だ。本来であれば国家元首であるリズがわざわざ参加するほどの事はなく。
「私、行くわよ? リズの名代で」
こうなるのが普通だ。
「お姉様にもご無理をお願いしようとは思っています。思っていますが……」
「思っていますが?」
溜息一つ。
「……マリーから泣きつかれたのですよ。『陛下もご参加下さい』って」
「……ああ」
「自らの親……とまでは言いませんが、年齢は随分上のクリストフ殿下に嫁ぐことにマリー自身、不安もあるようでして……内々に手紙を頂きました」
「……」
「今回、私は『マリーの友人』という一個人の立場で参加をしようと思っております。フレイム王国の名代としてはお姉様と……それに、ユリウス外交局長を」
「ロッテは?」
「私もロッテもとなると、流石に国政が滞りますので」
どうか、お願いしますと頭を下げるリズ。その姿にひらひらとエリカは手を振って見せた。
「頭上げてよ、リズ。いいわ。私が参列します」
「ありがとうございます!」
「それぐらいはさせて貰うわよ」
随分リズにも迷惑をかけている。エリカ自身、堅苦しい場所は得意ではないが……そうは言ってもフレイム王国第一王女様だ。『慣れ』はある。
「それにしても……良く許したわね、そんな結婚をあのロッテが。あの手この手で破談にしそうだけど? 嫌いでしょ、ロッテ。こんなバランスが崩れる様な事」
「内政干渉ですわよ?」
「面白い冗談ね。ロッテよ? 巧くやるに決まってるじゃない。ラルキア王国と組んで抗議を申し入れたり……ライムにも恩、売ってたわよね? それも使えるし……」
それに、と。
「――私を嫁がせる、とか?」
エリカの言葉に、きょとんとした表情を見せるリズ。それも一瞬、弾かれた様にリズが笑い声を上げた。
「……なによ?」
「し、失礼しました。クス……いえ、お姉様がクリストフ殿下とご結婚と……あまり性質の良くない冗談だと思いまして」
「可能性としてはゼロじゃないでしょう? マリー姫殿下よりは私の方が年齢も近いし、私だって一応、王族の一員よ? こう言ってはなんだけど……ローレント的にもイイんじゃないかしら? 『ウェストリア』の血よりは『フレイム』の血の方が」
エリカ自身、自分の言は間違ってはいないと思っている。国家の『格』としてはフレイムの方が上だし、自身の容姿が二目と見れない程酷いとも思っていない。国家を傾ける程、無茶な要求をするつもりは無いし……若さ特有の自惚れを差し引いても、ソコソコ優良物件だと自分で思っているのだ。そう思い、視線をリズに向けて。
「…………なによ、その顔」
可笑しさを押し殺した様な笑みを浮かべるリズの顔を見た。
「いえいえ~。お姉様、そんなにクリストフ殿下の元に嫁ぎたいのかな~って」
「そ、そんな訳ないでしょ! 何言ってるのよ、貴方!」
「その割には随分御自分を押されるな~って」
「……リズ?」
ジトっとした目を向けるエリカに、もう一笑い。
「冗談ですよ、お姉様。大体、ロッテが『逆らう』訳無いじゃありませんか」
軽やかに紅茶のカップに口を付けほうっと一息。その後、嫋やかに笑んで見せた。
「アンジェリカお母様の御遺言ですから」
「……『エリカには自分が本当に愛した人と結婚して欲しい』、ね。有難い話だけど……いいのかしらね?」
「失礼ながら、お姉様……だけではないですが、私も含めてロッテには政略結婚の道具にするつもりは無いでしょう」
「アンジェリカ様のご遺志だから?」
「それもありますが……お姉様、ロッテですよ?」
「どういう意味?」
「私達を政略結婚の道具になどしなくても、十分に巧く回します。ロッテですから」
「……それもそうか」
フレイム王国の『鵺』だ。戦争は余所に任せろならぬ、結婚は余所に任せろ、と言った所か。
「……何だか申し訳ないわね、マリー姫殿下に」
「そう、ですわね。マリーの手紙にも書いてありました。『見ず知らずの人に嫁ぐなんてふるふる御免です! 何故、何故、私は王族などに生まれたのでしょうか……』と」
「……本当に、昔のマリー姫とは大違いね。昔はもっとやんちゃで――」
「『――こんな結婚、ぶっ壊してやります! リズお姉様、結婚式ではマリーの雄姿をその眼に焼き付けて下さいまし!』とも書いてありましたが」
「――ああ。あんまり変わってないわね、マリー様」
「『私はアンジェリカ様の一番弟子ですから!』と」
「……流石のアンジェリカ様も、そこまで無茶苦茶する人じゃなかったと思うんだけど」
「まあ……ですが、お姉様。アンジェリカお母様ですから。有り得るのは有り得るのですよ」
「……どうしよう。全然、否定できないんだけど」
エリカ、絶句。幾ら我が子とはいえ、次期フレイム国王であったリズの頭にしこたま拳骨を落したアンジェリカだ。王族のカテゴリーからは随分外れてはいるのである。つまり。
「『いい、マリー? 気に喰わない男だったら拳骨の一発でも食らわしてやりなさい!』ぐらいは言いそうね、アンジェリカ様」
「絶対言っていますね。アンジェリカお母様ですから」
溜息を吐くリズに、エリカも苦笑とも微笑ともつかない笑みを浮かべて見せる。
「ま、アンジェリカ様だし」
「そうですね。それに、マリーもああは言っていますが、嫁いでみたら変わるかも知れませんしね」
「そう?」
「クリストフ殿下はローレント王国人らしく、純朴で暖かいお人柄とお聞きしております。歩く凶器の様なマリーですが……だからこそ、でしょうか? 仲良くやるのではないかとも思っているのですよ」
「そんなモンかしらね?」
紅茶を飲みつつ、空返事をするエリカ。そんなエリカに苦笑を一つ向けて。
「それに……別に、好き同士でくっついたから巧く行くとは限りませんしね」
後、はぁーっと大きく溜息を吐いて見せるリズ。心なしか、疲れた様に見えるその姿に、エリカの眉がピクリと上がった。
「どうしたの、リズ?」
「いえ……その、実はちょっと困った事がありまして、ですね。こう、結婚絡みの話なのですが、ちょっと……こう……」
いつに無く歯切れの悪いリズ。そんな姿に、エリカの『親心』が疼いた。
「……私で手伝える事なら、手伝うわよ、リズ?」
「ですが……」
「気にしないで良いわよ? 私とリズの仲じゃない。何でも言ってよ、ね?」
まるで菩薩の様な笑みを見せるエリカ。そんなエリカの姿に、リズの顔が嬉しそうに綻んだ。
◆◇◆◇◆
「……コータ、いる?」
「……と、エリカさん? どうしたんですか、そんな――本当にどうしたんですか? そんな仏頂面して」
「時間、ある? ちょっと付き合ってくれない?」
「時間、ですか? そりゃ、ありますけど……えっと、付き合う?」
「そ。それじゃ行きましょうか」
「ちょ、エリカさん! 行くのは行きますけど……その、どこへ?」
リズの私室を出て、エリカが真っ先に向かったのは浩太の部屋。室内で本を読んでいた浩太を捕まえると、疲れた様に溜息一つ。
「詳しくは歩きながら説明するけど……ま、簡単に言うとね?」
「言うと?」
「……駆け落ちされた父親を慰める係……かな?」
「……はい?」




