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第九十一話 さあ始めよう、ワルダクミ

先週は……すみませんでした。


「本当に酷いんですよ、アイツ! そりゃ……まあ、確かに結構な高位の貴族の娘だし、世間一般の常識が無いだろって事は私も重々承知していましたよ? 承知していましたけど、流石に酷過ぎるんですよ! こう、今は二人とも言ってみれば『隠れ』て生活して行かなきゃいけない時期じゃないですか? だったら、派手な生活とか控えて息を殺してじっと耐えるのが筋ってモンでしょ? なのに『ニーザ、演劇が見に行きたいと思わない? こんな気分だからこそ、喜劇でも!』じゃねーよ! お前の頭ン中が喜劇だよ! 常識で考えたら分かんだろうが! 観劇なんて貴族とか富裕層が売る程来てるに決まってんだろう! ばれたいのかよ、あのバカ! それと、洗濯! 洗濯で――コータさん! ちゃんと聞いて下さい! え? 聞いてる? 嘘ばっかり! 今、目を逸らして溜息吐いたでしょ! とにかく洗濯ですよ! 別にね? 出来なきゃ出来ないでイイんですよ? 貴族のお嬢様だし? そりゃ、最初は『済みません……穴をあけてしまいました』なんて言うのも笑って許してましたよ? でもね? 一遍失敗したんだったら、もう同じ失敗しない様に努力するでしょ? 百歩譲って、『もういいよ』って言ってるんだから洗濯しなけりゃいいでしょ? 『やります!』とか言って何遍同じ失敗してるんだよ! 俺、もう服がねーよ! こんな逃亡生活じゃ買いにもいけねーよ! でも……まあ、洗濯はイイです。俺の為にやろうとしてくれてるんだろうし、アイツが努力家だった事も知ってて、そこに惹かれた所もあるんで……まあ、あんなに不器用とは知らなかったですけどねぇ! 問題は料理です! 料理――ちょっと、シオンさん! なんで貴方まで目を逸らすんですか! え? もう聞き飽きた? 違います! 新作です! 今回、アイツ新作に挑戦とかしやがったんですよ! もうね? アホかと。バカかと。料理もした事無い様な貴族のお嬢様が、いきなりオリジナル料理ってなんだよ! 隠し味がどんだけ主張してるんだよ! 食材に対する冒涜ですよ、アレ! それを『頑張って作ったんだから食べて!』って! 味見という文化は貴族階級には無いんですか! 『頑張った』っていうのは免罪符じゃねーんだよ! そもそも――だから! 二人とも、何で目を逸らすんですかぁ!」


◆◇◆◇◆


「聞いて下さいまし! 本当に彼は酷いのですよ! 確かに……ええ、確かに? 彼は優秀な商人でしょうし、私よりも物事を沢山知っておられるのでしょう? ですが! 私だって最低限の常識はあります! 今が逃亡生活だと言う事も十分熟知しておりますし、目だって良い事など一つも無い事だって分かっているんです! ですが、余りにも彼が塞ぎがちでしたので、少し雰囲気を変えようと思いまして冗談を言ったのです。演劇でも見に行きましょうかって! そしたらですわよ! 彼、『……これだから、貴族のお嬢様は……常識で考えろよ?』とか言ってあからさまに軽蔑した目で見るんです! そっちこそ常識で考えて下さいまし! 分かってるに決まってるじゃありませんか! それに、洗濯ですわ! 洗濯だって――コータ様! 聞いておられるのですか! え? 聞いている? 嘘は結構ですわ! 私の話を『はいはい』って流すニーザそっくりの目でした! とにかく、洗濯です! 私も人の妻、それも貴族ではない一商人の妻です。今後はなるだけ自分の事は自分でしようと思いまして洗濯をしたのです! それは……確かに、失敗もしました。穴もあけてしまいましたが……でも! 最近は少しずつコツを掴みつつあるのです! このまま洗濯をさせて頂ければ、きっとニーザが満足する出来になります! 後、仕事! 仕事です! 仕事の――なんですか、シオン様? え? 料理? 料理は私、完璧ですわよ? 先日も彼に振舞ったんですから! 味見? したに決まってるじゃありませんか! 自分で言うのは何ですが、頬っぺたが落ちそうでした……オリジナル? 違いますわよ? アレはローレント王国の郷土料理ですわ。確かに、少々『クセ』のある見た目と味ではありますが……ですが! あの料理は必要な具材も少ないですし、何より簡単で安く作れるのです! まあ、そんな事はどうでも良いのです! 問題は仕事です! 彼、『そこそこ名の知れた商人だったのに……落ちぶれたな、俺も』とか言うのですよ! 確かに? 私も彼の仕事中の姿に惹かれた所もあります。否定はしません! あの時の彼は輝いていましたもの! ですが! 何時までもまあ、過去の栄光をグジグジグジグジと――ちょっと、お二人とも! 聞いておられるのですか!」


◆◇◆◇◆


「――おお~、お帰り、シオン、コータ。どうじゃ? 二人は――」

「……」

「……」

「――あんまり芳しくなさそうじゃの?」

 二人を同室にしておくのは色んな意味で『危険』と判断。無駄にスペースがあるこのフレイム王城内の『ウェストリア領』スペースをフルに活かしてニーザとアイリス、二人を別々の部屋にしたのが今から二時間ほど前。

「……何ですか、アレ?」

「……『結婚』というのがいかに難しいか良く分かるモデルケースだろう? 最近、元々薄かった私の中の『結婚願望』というヤツが残らず死滅したぞ。『早く落ち着いて孫の顔でも見せてくれないか?』と言っていた両親が悲しむ」

「その辺りはアリアさんに期待で」

 はーっと一息。クリスティアンの私室に帰った浩太は机の上に置きっぱなし、すっかり温くなった紅茶を一口、口に含んで大きく溜息を吐いて見せた。

「紅茶、淹れなおそうか?」

「構いませんよ。クリスティアン殿下直々の紅茶なんて、緊張して飲めませんので」

「緊張やこせんでええ。それと、私の名前長いじゃろ? 『クリス』でええよ」

「非礼では?」

「皆、そう呼んどるけぇ、構わんで。シオンもいつも通りクリスでええけん」

「殿下がイイならそうさせて貰おう。ついでに紅茶も」

 殿下、紅茶と、気軽に頼むシオン。そんなシオンに『はいはーい』と軽く返答して紅茶のポットを持ってきたクリスティアン――クリスは、少しだけ楽しそうにシオンのカップに紅茶を注いだ。

「どっちかの国の重臣が見たら卒倒しそうですね」

「殿下に紅茶を淹れさせたのが、か? 殿下がイイと言っているんだ。問題なかろう」

「……そんなモノです?」

「そんなモンじゃで? コータも良かったら淹れるけど?」

 簡単に言うクリスに、丁重にお断りを述べる浩太。幸か不幸か、浩太はシオンの様に図太くは出来ていない。

「それにしても……参りましたね、アレは」

「付かず離れずが結婚生活を長続きさせる秘訣とは良く言ったものだと思う。近すぎてお互いの『イヤな所』が如実に見えてしまっているからな」

「……確かに」

「同情するべき点もあるにはある。幾ら『夫婦』と言っても、普通は四六時中べったりという訳ではない。仕事だ何だとある程度は距離を保てるモノなのだが……」

「仲直りの秘訣は冷静になる時間、ですか」

「喧嘩相手が真正面に居れば冷静にもなれん。それも含めて『若い』と忠告したのだが……」

 はあ、と小さく溜息を吐くシオン。

「……そこまで色んな配慮が出来て、なんで最後の最後で『駆け落ちしろ』なんて言っちゃいますかね? 本当、肝心な所で残念ですよ、シオンさん」

「……つい、かっとなって……は、反省はしてるんだぞ?」

「……」

「そ、そんな眼で見るな! 大体、コータは知らないから言えるんだぞ? 駆け落ち前の最後の方なんか、殆ど毎日私の私室を訪ねて来てたんだぞ? やれ世間が悪いだ、やれ家が悪いだと一頻り愚痴を並べた後、二人して惚気て帰るんだぞ? やってられるか、私だって!」

「あれ? 少し意外ですね? どちらかというとシオンさん、『惚気? はん、勝手にやってろ』というタイプかと思っていましたが」

「否定はせん。別に、人の幸せが軒並み憎いと思うタイプでもないし、どちらかと言えば幸せな人間を見るのは好きだ。好きだが……好きだと言っても、毎日だと食傷気味だ」

幾らケーキが好きでも、ケーキばかりなら流石に胸やけもするといった所か。

「まあ、そんな訳であの二人の仲は結構悪い。育って来た環境が余りに違い過ぎる、というのも理由の一つではあるが」

「そうですね」

「加えて、周りに参考になる事例が無いのも痛い。無い訳では無いが、決して豊富にある訳ではないからな。『貴族』と『平民』の結婚は」

「ベッカー夫妻は?」

「あれはあれで特殊なパターンだからな。エルとクラウスも『育って来た環境』という点においてはアイリスとニーザに近いモノがあるが……」

「あれもあれで特殊、と」

「そう言う事だ」

 浩太とシオン、二人で目を見合わせて溜息。そんな二人を面白そうに見やり、クリスは口を開いた。

「まあ、そうは言うてもあんなモンじゃで?」

「殿下?」

「結婚ちゅうんは結局、バクチみたいなモンじゃけ。身内程知らん人間と一生共にしようか思うたらそら、そうなるわ」

「……何だか実感が籠っていますが……その、ご結婚は?」

 少しだけ探る様な浩太の問いに、クリスは笑って右手を左右にヒラヒラと振って見せる。

「ないない。ほいじゃけど、ウチの所は結構有名じゃけんね」

「有名?」

「国王陛下が裸足で逃げ出したんよ。自分の嫁から」

「……」

 浩太、言葉もない。絶句する浩太を横目で見やり、シオンが補足する様に言葉を継いだ。

「リズ様のお父上、先代国王のゲオルグ陛下の治世自体は可もなく不可もなくで、取り立てて評価すべき点が無いがただ一点、『娶った正室・側室共に良妻だった』という点においてゲオルグ先王陛下は『フレイム史上最高に幸運な君主』と呼ばれている」

「……それは……イイんですか、その評価」

「事実だからな。なあ、殿下?」

「ウェストリアの現国王陛下――私の親父じゃが、親父殿は酒が入るといっつもグチッとったで? 『ゲオルグばっかりズルいんじゃ。なんでアイツにばっかりエエ女が寄って来るんじゃ!』って」

「リズ様の御母上であられるアンジェリカ様も、エリカ嬢の御母上であるリーゼロッテ様も人間の出来た御仁だったからな。あのロッテ翁やカール閣下ですらあのお二人には頭が上がらなかったから」

「爪の垢でも煎じて飲ませたいの~、シオン?」

「全くだ。アレぐらいの良妻ぶりを見せて欲しいモノだがな、アイリスにも」

 もう一度、大きく溜息を吐くシオンに悪戯っ子の笑みを浮かべるクリス。その表情の変化に、シオンが訝しげに顔を向けた。

「……なんだ、殿下?」

「まあ、そうは言うてもあの二人は最終的には巧くくっつくと思うで?」

「……ほう。その理由は?」

「私の方がシオンよりも長い事あの二人に逢っとるし、よう知っとるよ。それに……今の二人の状態は『すれ違い』が原因じゃ」

「すれ違い?」

「洗濯はともかく……料理。アイリスの作った料理はローレントではちょっと有名な料理なんじゃ」

「そうなんですか? それなら、知っていても――」

「ゲテモノ料理として」

「――……ああ」

「見た目も悪いし、味は……まあ、食べ物なんて好き嫌いがあって当然じゃけど、それでも嫌いな人間はトコトン嫌いな味なんじゃ。ただ、健康にはエエらしいし、沈静効果もあるらしいんじゃ。最近、ニーザも怒りっぽかったしの。アイリスはアイリスで色々気をつこうとんよ」

「……詳しいですね」

「食材の仕入れを頼まれたけんの。ニーザもニーザで色々と思うトコロがあるんじゃろ。『一生、幸せにする!』って決めた筈じゃったのに、やっとる事は駆け落ちで、日に三食の捨扶持もろうて生きとるんじゃからな。アイリスにも迷惑……ちゅうか、色々心労かけとるし、窮屈な思いをさせとるのも自覚しとるんじゃろ。じゃけん、余計感情的にもなるんじゃ」

「……そちらも詳しいですね?」

「頼まれたからの。『殿下、何か仕事をさせて下さい』って。『嫁は自分の力で養いたいんです!』ってまあ、結構格好エエ事言うとったで? 生憎、エエ仕事がないけん宙ぶらりんやけど」

「……」

「……」

「……どうしたんじゃ、二人して?」

 不意に無言になる二人に、きょとんとした表情を見せるクリス。その姿を少しだけ眩しそうに眺め、浩太は視線を隣のシオンに向けた。残念な子を見る目で。

「……出藍の誉れ」

「ちょっと待て。コータ、それはどういう意味だ!」

「師匠より優れた弟子は存在するんだな~って思っただけですよ。見習って下さいよ、シオンさん。この微妙な人間関係の機微を見る所とか、気の回し方とか。王族なのにですよ、クリス殿下」

「れ、恋愛関係に関しては――」

「いや、恋愛だけじゃないくて」

「――関しては! 恋愛に関しては一歩譲るかも知れんが、そこ以外ではまだまだ若い者には負けん!」

「若い者って。対して年齢差無いでしょうに。大体、今回の事だって殆どシオンさんのせいみたいな物でしょう?」

「うぐぅ! そ、それはそうだが……」

 言葉に詰まり、気まずそうに視線を背けるシオン。そんなシオンをちらりと見やり、クリスは助け舟を出した。

「まあ、コータ? そうは言うてもシオンのした事もあながち間違ってはおらんけん、そんなに責めんでやってくれんかの?」

「殿下?」

「あのまま二人で勝手に盛り上がっとったら、最悪心中も選びかねんかったじゃろうからな。その前に保護できたと思うたら、まだマシじゃ」

「……しますかね、そこまで?」

「今の二人を見たらそうじゃろうけど……ほいでも、ホレ、色恋沙汰は足し算じゃなく、掛け算じゃけんの。ポーンと一足飛びで飛び越えるモンじゃ」

「今は割り算中ですか?」

「殴り合いまでしとらんけん、精々引き算じゃの。身内の恥を晒す様じゃけど、ウチの親父殿は大概じゃったで?」

「殴り合いしてたので?」

「殴り合い……ではないか。一方的に蹂躙されとったけんの」

「……男尊女卑と聞きましたが、ウェストリア」

「家庭は別、と言いたいけど、本来『王族』いうんは一個の国家装置なんじゃろうけどな。まあウチの話はエエんよ。問題はあの二人じゃ」

「そうですね」

 浩太としても妙案が浮かばない。そもそも、恋愛経験値が決して豊富である訳ではない浩太に取って、荷が勝つと言えば荷が勝つ。

「……そうですね。では、『案』……という程でもありませんが」

 そうは言ってもこのまま一人で考えても仕方ない。ブレインストーミングよろしく、取り敢えずアイデアを出す事を選択する浩太。

「拝聴しよう」

「まず、あの二人を『仲直り』……仲直り、では少し可笑しい気もしますが、取り敢えず仲直りさせる。お互いに出逢った当初ぐらいの気持ちに戻す事が一つ」

「ふむ。その通りだな」

「そうなった二人を今度は周囲――主に、ファーバーさんに認めさせる。結婚の許可が貰えるまで持って行く事が出来れば一番ですが、取り敢えずお付き合いを認めさせる程度でしょうか?」

「どちらにせよ結婚相手は決まっているが。誰が好き好んで駆け落ちした女なんぞ娶るか」

「建前を大事に。幸い、ロート商会は出入りの商人だったのでしょう? でしたら……そうですね。『厳しい家庭環境に耐え兼ねたお嬢様が家出。出入りしていた商人の三男坊が心配して身柄を保護』ぐらいの筋書で」

 どうですかね? と問う浩太。顎に手を置いたシオンは、その灰色の頭脳をフル回転させた後、一つ頷いて見せた。

「……ふむ。実にロッテ翁の『好み』なシナリオではあるな。美談にもなる」

「陛下もこれなら納得して頂けるかと。無理が通れば道理は引っ込むモノですし。最後に、ロート商会の名誉回復ですが……まあ、これは先程の『お嬢様の身柄を守った』という体裁で何とかならないですかね?」

「かなり無理があるが……一応、辻褄は合うな」

 そう言ってシオンはポンと手を打ってみせる。

「……やはりコータを巻きこ――相談したのは正解だったな。何とかなりそうじゃないか!」

「今、さりげなく巻き込んだと言い掛けた事は聞かなかった事にしますが……そう簡単でも無いですよ? シオンさんが仰った通り、かなり『無理』があります。皆が知ってる『駆け落ち』を美談にするんですから」

「ロッテ翁と陛下の言葉なら覆る可能性が高いが? お二人が『敢えて』そう言えば、追随する貴族は多いだろう? 実態はともかく」

「『娘に家出された』という汚名をファーバーさんが被ってくれればね」

「……ふむ。家人の管理も出来ないレッテルを敢えて受け入れてくれるか、か」

「加えて、ファーバーさんの認めていない『平民』との結婚も認めろと言うんですからね」

「……」

「そして、それより問題な事が一つ」

「……なんだ? ファーバー氏よりもロート商会よりも問題な事があるのか?」

 訝しげなシオンの言葉に、ええと一つ頷き。


「――面倒臭いんですよ、正直。男女の恋愛関係って」


「……そ、それは……確かに、そうだが……」

 心底うんざりした様な表情を見せる浩太に、思わずシオンも口籠る。

「何と言うか……努力だけが友達のコータ、君らしくもない意見だな」

「努力だけが友達って。悲しい人過ぎるでしょう、私。いえ、確かにあまり私らしく無い意見ではある事は承知しています。承知していますが……ですがね? こう、色々難しいじゃないですか、男女の関係って」

「まあ……そうだが。だがコータ? そういう難しいのを解決するのが得意ではないのか、お前は?」

「買い被り過ぎですし……こう、なんでしょう? 『利』とか『理』が絡む訳じゃない恋愛は無理ですよ。感情論になると説得も何もあったモノではないですから。特に、私なんて二人の関係性も何も知らないんですよ? そんな人間が間に入って巧い事仲裁できると思います? 私はこれっぽっちも思わないんですが。精々、引っ掻き回すだけ引っ掻き回すのがオチです。イイ事にならないに決まってますよ」

「……」

「なんです?」

「……何かイヤな事でもあったのか?」

「……ノーコメントで」

 二十六年生きていれば、そういう経験の一つや二つ、浩太にだってある。

「纏めると……結局、二人が『仲直り』する事が先決と言う事です」

「……一周回って振出しに戻ったな」

「だから言ったでしょ? 『案』って程のモノでもないって」

 パシッと解決する方法など中々無いモノである。特に、感情が絡むと余計に。

「……ほいじゃけど、コータ? 二人が『仲直り』出来たらある程度前に進むって事かいの?」

 今まで黙っていたクリスが、視線を浩太に送る。その視線を受けて浩太は肩を竦めて見せた。

「まあ……そうですね。前に進む可能性は高いかと。ですが――」

「ほいじゃ、それをやろうかの?」

「――そんなに簡単に……殿下?」

「そうは言うても毎日毎日『夫婦喧嘩』を聞くのも結構えらいけんの。此処は私も一肌脱ごうかと」

「で、殿下! 手伝ってくれるのか!」

 瞳をキラキラさせて見つめるシオンに苦笑を一つ。


「まあ、シオンには世話にもなっとるしの。たまには恩返し、しとこうかの?」


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