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第二百五十一話 そうだ! エムザに行こう!


 王港都市、エムザ。


 ソルバニア王国旧王都にして、王都ソルバニア、カトと並ぶ、ソルバニア三大港の一つである。南を海に、北に山を背負ったその地形は正に天然の要塞であり『難攻不落のエムザ』と呼ばれ、過去に外敵の侵攻を何度も食い止め、また一度もその地を戦火にさらしたことのない街だ。オルケナ全体の『千年帝都』がラルキアであるとすれば、エムザはソルバニア王国の千年王都であり未だにソルバニア人の中ではエムザこそ王都に相応しいと思う人間も一定数いる、歴史と伝統の街だ。ではなぜ、そんなエムザが王都の座をソルバニアに明け渡したかというと、そんなに深い理由がある訳ではない。

――単純にこのエムザという街、狭いのである。

 南に海、北に山という立地である以上、確かに天然の要塞ではあるのだが裏を返せば拡張性に乏しいという事だ。辛うじて東に多少の平野はあるものの、それでも北の山を切り崩して街を広くするのが一番拡張するのであるが……建設重機がバンバンあります、な現代日本と違い、オルケナ大陸自体の工事は基本的につるはしとスコップを持って人力でえっちらおっちらだ。チタン帝国の後期、国が亡びるかどうかの際は首都機能を天然の要塞の中に閉じ込めるのは一定の理も利もあったが、フレイム帝国が成立してからは今は昔、わざわざ狭い場所に人を集中する必要は殆ど皆無であり、フィリップ・ソルバニアとエレノアの第一子、フィリップ二世の時代にソルバニアはエムザの西にある広大な平野に一大首都計画を打ち立て、フィリップ二世の子、フィリップ三世の時代までおよそ五十年を掛けて首都機能を完全に移転させたのである。


 そんな訳で完全に首都機能をソルバニアに明け渡したエムザであるが、その価値は落ちる事はない。『王港』という名が示す通り、ソルバニア王家の手から一度も離れた事のない天領である、完全な計画都市である王都ソルバニアとは違い、エムザには伝統があり、戦火に巻き込まれた事がないという一事において歴史的建造物や昔ながらのソルバニア建築などの民家が立ち並ぶ……まあ、一大観光スポットなのである。


◆◇◆


「――コータ様ぁ! さあ、次に参りましょう!! 折角エムザに来たんです! 此処はエムザが誇る『オモイオモイ』に行かねば! カップルで行くと幸せになれるらしいです!」

「ちょ、ソニアさん? ひ、引っ張らないでください! 落ちます! チュロスキが落ちますから!」

 そんな王港都市エムザで一組のカップル――というには年齢差的に色々アウトの二人が楽しそう――楽しそう? ともかく、街角でソルバニア王国の伝統的な子供のおやつ、『チュロスキ』を齧りながら楽しそうに男性の手を引く少女……まあ、ソニアだ。

「あら、失礼しましたわ。わたくし、少しばかりはしゃいでしまいました」

 コータの手を放してチロりと舌を出して見せるソニア。その姿はいつものドレスとは違い、白色のワンピースにつばの広いストローハットという、完全に避暑地のお嬢様スタイルだ。ちなみにお相手である浩太も珍しくいつものスーツ姿ではなく、半袖のTシャツとハーフパンツ、足元はサンダルというラフな格好をしている。

「はぁ……まあ、たまには良いでしょうが。ですが、あまり慌てずともその……『オモイオモイ』ですか? それはにげないでしょう?」

「『オモイオモイ』は逃げませんが、コータ様との時間は有限でしょう? ですからわたくしはこのデート、無駄にはしたくないんです!」

 そう言って胸の前で手をぎゅっと握ってふんすと鼻を鳴らすソニアに浩太も苦笑を浮かべる。

「折角、皆様が快く送り出して下さったわけですし!」

「……快く……ですか……」

 フレイム『帝国』ご一行がテラを出発し、此処エムザに到着したのはフレイム『王国』側から了承の書状が届いた三日後だ。会談自体は一か月後に設定されているのだが……『まあ、みんな、色々あったし? たまにはバカンスも良いんじゃない? ほら、昔みんなでパルセナ行ったみたいにさ? エムザ、遊ぶところはたくさんあるんでしょ?』とエリカの鶴の一声で、今回の前倒し訪問が実現したのだ。現実問題、忙しかったのは忙しかったし、会談前日にエムザ入りをして体調不良でパフォーマンスが発揮出来なかったら、みたいな事も考えられるので浩太もそれにはオッケーしたのだが。


『――それではコータ様? 折角のエムザです! 『約束通り』、わたくしがご案内いたしますわ! 王都程ではないにしろ、わたくしも小さいころからエムザには良く来ていますし!!』


 エムザ到着初日、胸を張ってそんな事をいうソニアに一悶着は当然あり……まあ、ソニアが言うように快くは誰も送り出してはいないのだが、とにもかくにもこうやって『デート』……じゃなかった、『道案内』がスタートしたのである。

「それはいいではありませんか、コータ様! それより……折角のエムザです! 楽しみましょう!」

「……そうですね。此処に至っては楽しみましょうか」

 ソニアの弾けんばかりの笑顔に浩太も微笑を返す。

「ですが……良かったのですか?」

「なにがですか?」

「折角エムザに来たのにご案内ばかりさせる事になりそうでしょう? なんでしたら観劇などでも差し支えないのですが……」

 エムザは歴史ある街だし、有名な劇場もある。ソニアとしてもこんなお散歩よりも『デート』らしい事が良いのではないか? そう問う浩太に、ソニアは曖昧な笑みを浮かべて見せる。

「……そうですね。そういう『デート』らしい事に憧れが無いわけではありません。ありませんが……観劇はおしゃべり厳禁でしょう?」

「そうですね」

「折角、コータ様と二人きりなんです。いっぱいお喋りしたいですし……観劇は少しだけ、勿体ない気がするんです」

「……そうですか」

「それに」

 浩太の腕をくい、くいっと引っ張って『耳を貸せ』という仕草をして見せる。そんなソニアに、浩太も腰を屈めて。



「――その『デート』は、わたくしがちゃんと『女性』として認められてからの、楽しみにしておきます」



 そう言って、年に似合わない妖艶な笑みを浮かべて見せるソニア。

「……今は手のかかる妹程度でしょうが……いつかはコータ様、貴方がメロメロになるほどの良い女になってみせますので! 成長に乞うご期待、ということで」

「……分かりました。期待していますよ」

 ソニアの言葉に降参の意を示す浩太。ソニアはまだ少女、ならば、こんな『お散歩デート』でも……エスコートは今度でも良いかと思い直して――



「それで! これから行く『オモイオモイ』はエレノア様が街娘にふざけてちょっかいを掛けたフィリップ一世に対して『……ねえ、フィリップ様? フィリップ様が好きなのはエレノアですよね? エレノアの事が一番ですよね? あの子の方に行くわけじゃ……ないですよね?』と、一つの石に座って十時間くらい問い詰めたという石でして! それ以来、フィリップ一世は誠実にエレノア様だけを見ていたことから『男性がよそ見をしないで一生伴侶を愛す証』としてオモイオモイの石で告白をすると幸せになる伝説があるんです!」



「……私に対するあてつけじゃないですよね、それ?」

 ちなみに『オモイオモイ』をあえて日本語訳するとすれば……『重い想い』、であろうか。



文中で『パルセナ行ったみたいに~』みたいな事書きましたが……パルセナ行ったの、現実ではもう十年も前なんですよね……フレイム、十年書いてるんだと感無量です(途中、開いたりしてますがw

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 かの場所の謂れが・・・・(^^;; さてソニアのこの後の成長や如何に^^ 次回も楽しみにしています。
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