375.何ができるっていうの!?
「聞いたぞ、何か困ってるらしいじゃないか」
「水くさいですよ、春希さん。何かあったら頼って、って言ったじゃないですか!」
「さ、沙紀ちゃんも!?」
続いて現れたぷりぷりと頬を膨らませた年下親友に、春希は目を丸くして混乱する。
ここは関係者以外入ってこられないはずだ。今日のような単独ライブなら、同じ芸能界にいる一輝だって無理だろう。清司も思わぬ来客に驚いて言葉がないようだ。
そんな中、部外者2人を連れてきて腰に手をあて得意気になっている茉莉に問う。
「どういうつもり?」
いつの間に2人と知り合いに? 連れてきてどうなるの?
そんな色んな感情の籠もった声が出た。
茉莉はといえば、やけにおどけた調子で答える。
「この状況をなんとかするため?」
それがやけにカチンときた春希は、立ち上がって茉莉に詰め寄る。
「なんとかするって、今の状況わかってるの?」
「わかってる、さっき聞いたし。おばさん、映画の撮影に行きたいのにライブと被ってるから、行けなくて困ってるっしょ?」
「うん、そうだよ」
「だから、そのために助っ人を呼んだの」
「助っ人って……」
むん、っと胸を張る茉莉。あまりにも軽く言うものだから眩暈がしてくる。
まるで現実が見えていない子供のようだ。お気楽な様子をしている茉莉に、春希は額に手を当て詰問した。
「具体的にどうするの?」
「そ、それは……」
「ライブをほったらかしになんてできないよね? ボクがいなきゃ、確実に破綻するよ」
「わ、わかってるよ。ティンクルはおばさんの人気で成り立ってるって。私だけじゃ今日のライブはこなせない。だからこその助っ人じゃん」
「あのね、だからってあの2人に何ができるっていうの!?」
「っ!」
春希はたまらず大声を張り上げる。
隼人と沙紀が駆けつけてくれたことは、素直に嬉しい。だけど、ただそれだけ。
それに2人はアイドルとは何の関係もない、一般人なのだ。専門的な知識があるわけでもなく、一体何ができるというのか。
茉莉のなんてことない態度が、駄々をこねているようでどんどんと腹が立ってくる。
今の現状がどうしようもないというのは、春希が一番わかっているのだ。苛立ちが言葉となって飛び出していく。
「ボクだって、本音はお母さんの方へ行きたいよ。そもそもアイドルだって、お母さんと共演するために手っ取り早く有名になるための手段と割り切ってるし。それでも今ここに何万って人が来て、多くのスタッフが関わってる。それに何より、あなたがどれだけ努力して舞台に立とうとしてるのを知ってるのに、それをボクの都合で台無しにできるわけないでしょ!」
「っ、そこっ。私を、いいわけの、ダシに、使うなーっ!」
「っ!?」
しかし茉莉は、それだけは許せないと声を荒ら立てた。
「たしかに私じゃおばさんに敵わないよ。世間からどう言われてるか知ってるし、今日のライブだっておばさん抜きでやればどうなるかもわかってる。だけど、ティンクルはおばさんだけじゃない。私もいるんだよ。おばさんがいなきゃ成り立たないティンクルって何!? 私はおばさんの添え物なんかじゃない! おばさんがいない程度で失敗しちゃうようなものなら、ティンクルなら潰れちゃえ! 私を逃げの理由に使うな! 勝手に私を憐れむな! おばさんを目標にして足掻いてる私が惨めになるだろ、うああああああっ!!!」
感情を爆発させた茉莉は、ボロボロと大粒の涙を流して泣き叫んだ。その顔は悔しさを筆頭とした感情でぐちゃぐちゃだ。それは春希が初めて目にする、茉莉が本音を曝け出した姿でもあった。
春希はそこでようやく、無意識に茉莉を下に見ていたことに気付き、図星を指され、動揺から怯んでしまう。ずきりと胸が痛む。そこにはきっと、叔母と姪という続柄もあったのだろう。どれだけ茉莉が真剣に自分に挑んできていたのか、自分が一番よく知っているではないか。
しかしそれも一瞬のこと。
現状、どうしようもないことがわかっているからこそ、この行き場のない感情を筋違いだとわかっていても、茉莉へとぶつけてしまう。
「泣きたいのはこっちだよ! なら教えてよ、どうすりゃ――」
「春希、そこまでにしとけ。ていうか、落ち着け。姪っ子泣かすなよ」
しかしその時、いきなり割って入ってきた隼人が、むにーっと両手でほっぺたを引っ張って春希を制止させる。
「は、はひゃほ?」
混乱交じりの目を向けると隼人は、幼い頃からの相棒は、春希の大好きな悪戯を思い付いたような笑顔で、聞き逃せないことを嘯いた。
「この状況をなんとかする方法、あるぜ」




















