341.頼れる先輩の悪戯
隼人は皆と頷き合った後、未だ春希が煽った熱の残滓で沸いている体育館を、こっそりと抜け出した。
扉を一枚隔てた外は、体育館の喧騒がどこか遠いところのように聞こえ、まるで別世界。頬を撫でる四月の空気は、思いのほか冷たい。
まずは体育館のステージ側にある裏手の出入り口を目指し、もしかして春希はこのまま学校を後にしたんじゃという逸る気持ちを押さえ、ひた走る。
幸か不幸か、そこには人影がなかった。
伊織が額に手をかざし、周囲を見渡しながら呟く。
「車とかは見えないな。ってことは、まだ校内にいるはずだが……」
神妙な顔で頷き、同意を示す隼人。
とはいえ春希は一体どこへ行ったのだろうか?
学校としても、春希の扱いは慎重になっているはず。サプライズとして先ほど登場させたのだから、なおさら。しっかりとそのあたりの取り決めなどもしているに違いない。
だが、どこにいるかとんと見当も付かず、眉間の皺が深くなる。
体育館から聞こえる騒めきが、徐々に小さくなっていく。
ほどなくして入学式が終わり、校内に人が溢れかえるのは時間の問題。そうなると、春希を探すどころじゃなくなってしまう。
じれったい空気が醸成される中、一輝が話を切り出した。
「ここは皆で手分けをして探――」
「待って、アレを見てください」
しかし途中でみなもが言葉を遮り、ある場所へ指を差す。そちらに目を向けると、校舎の勝手口からひょいひょいと手招きする見知った顔の女子の先輩の姿。
彼女の姿を捉えた隼人は目を大きく見開き、たちまち彼女の名前を叫び駆け出した。
「白泉先輩っ」
一輝にみなも、伊織もすぐさま隼人の後に続く。
白泉先輩は生徒会所属、司会進行役をしていたこともあり、今日の春希のサプライズも知っているようだった。ならば、今春希がどこにいるのか知っているに違いない。
白泉先輩は息を切らしてやってきた隼人たちを見て、にししと愉快そうに笑う。
「いいね。うん、いい。キミは絶対来ると思ってたよ。けど予想よりも人が多いな。いっやー、あの子ってば愛されてるね!」
「あの先輩、春――」
「おっと、みなまで言うな。こっちだよ、着いてきて」
そう言って白泉先輩は身を翻し、何もかもわかってるよと言いたげに機嫌よく鼻を鳴らし、今にも躍り出しそうな軽快な足取りで先導する。
隼人たちも一瞬戸惑うものの、慌てて彼女の後に続く。
ほどなくして一階職員室近くにある、応接室へと案内された。
どこか納得すると共に、ここにきて急に期待感が胸に広がっていく。
白泉先輩はポケットから鍵を取り出し開錠すると、陽気な声を上げ勢いよく扉を開け放った。
「サップラ~イズ♪」
「えっ」
部屋の中から、驚愕交じりの間の抜けた声が聞こえてくる。
応接室を覗くと、果たしてそこには探していた春希の姿があった。
来客を迎えるためのその部屋には、高校の歴史を紹介するかのように、あちらこちらにトロフィーや賞状が飾られている。
その中で中央のソファーでぽつねんと座っている春希は、信じられないとばかりに目をぱちくりさせていた。どうやらこれは白泉先輩の独断専行のようで、春希もこの状況は予定外のようだ。
パッと見たところ春希は、直接見た去年からどこも変わっていない。
いざ目にするとそのことにホッとするような、嬉しいような、しかし胸の中には色んな感情がぐるぐると渦巻き、何て声を掛けていいかわからず、何も言葉が出てこない隼人たち。
そんな中、白泉先輩は悪戯が成功したかのようにほくそ笑み、まごついている隼人たちの背中をぐいぐいと応接室へと押し込む。
「ほら、他の人に見つからないよう、さっさと入った入った!」
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