339.サプライズ
去年とは違う、しかし古文の授業で馴染みのある担任教諭から簡単な自己紹介があった後、すぐさま始業式が行われる体育館へと移動した。
体育館に並ぶパイプ椅子の後ろ半分に集められ、式辞もそこそこに生徒指導部の教員や学年主任、教頭から健康に気を付けろ、規則正しい生活を、勉強しっかりというお決まりの注意事項を告げられる。そして隼人たち2年生には先輩になることの自覚、3年生には受験生としての心構えを説かれ、始業式はあっさり終わった。
しかしそこで解散するわけでなく、少しの騒めきの後、教師陣からの合図で静粛になると共に、この場の空気が張りつめていく。
ややあって体育館の入り口が開き、新入生たちを万雷の拍手で迎える在校生たち。
新入生たちは緊張した面持ちをしているものの、その瞳にはこれから始まる新生活への期待の色に彩られている。
そんな彼らの中に沙紀の姿を見つけた。
沙紀は他の新入生と違って胸を張りまっすぐ前を見据え、堂々としたものだった。もし自分ならこの大人数の中で注目されると、身体をガチガチにさせてしまうだろうにと、困ったように眉根を寄せる隼人。
(緊張してきた、って言っていたのにな)
しかしよく考えれば、沙紀は神楽で人の前に立つことに慣れている。舞台度胸もあるだろう。それに歩く姿勢も綺麗なものだ。
当然のことながら、周りと違って落ち着き払い、悠然とした様はよく目立つ。
他の人よりも色素の薄い亜麻色の髪と、透き通るような白い肌をしていれば、なおさら。さらに整った目鼻立ちと品の良さがわかる所作をしていれば、この場の視線を集めるのも必然。
誰もが沙紀に釘付けになっている。
少し行儀が悪いと思いつつも、噂として囁く声を止められない人も多いようだ。
これから沙紀はイヤでも校内の噂の的になるだろう。周囲が放っておくはずがない。
その騒ぎを想像し、困ったように眉を寄せる隼人。
もし都会に来る前の沙紀だったら、傍に姫子がいないこともあり、もみくちゃにされて孤立したかもしれない。
しかし今の沙紀なら、なんだかんだ皆と上手くやるという確信があった。
沙紀は一人暮らしを通じ、どんどんとしっかり者へとなっていった。それだけじゃなく、いつの間にか愛梨と友達になっていたり、かつての気弱で人見知りなところはどこへやら。沙紀に対するイメージが随分変わったなと、苦笑を零す隼人。
やがて新入生全員が着席し、ややあって入学式が始まった。
隼人たちにも馴染みの薄い理事長の挨拶の後、校長や来賓が祝辞を述べていく。
堅苦しい大人たちの言葉が続く中、ある女子生徒が登壇する。
彼女の顏には見覚えがあった。白泉先輩だ。
白泉先輩は在校生代表として、ちょっぴりユーモアを交えた歓迎の言葉を紡げば、この場の空気も緩んでいく。
そのおかげか後に続く新入生代表の宣誓も、肩の力を抜いて行われたようだ。
もし春希がアイドルの道を進まなければ、来年は白泉先輩の代わりに話していたのだろうか……そんな未練じみたことを考えた自らを笑う。
入学式はこれで終わり。だがある意味、在校生的にはここからが本番。
引き続き、新入生歓迎会が始まる。
内容は主に部活動の紹介と勧誘を兼ねた催し。
吹奏楽部のものの見事な演奏を皮切りに、書道部の迫力ある巨大字の実演や空手部による一糸乱れぬ演武、サッカー部のリフティングによる器用なボール回しといったものが披露されれば、新入生だけでなく在校生からも拍手と歓声が上がる。
数々のパフォーマンスの中でも一際盛況だったのは、やはり柚朱が主演を務める演劇部だろうか。
題目自体はロミオとジュリエットに現代風の解釈を加えた、オーソドックスなもの。
しかしその中でも柚朱の存在感は異彩だった。
以前よりもその美貌に磨きをかけており、男女問わず魅了している。
早速、新入生の間でも、柚朱についての噂が囁かれているようだ。
やがて、全てのプログラムが終了する。
皆が心地よい余韻に浸っている中、司会の白泉先輩は閉会の言葉を告げようとした時のことだった。
『――以上、在校生による新入生歓迎会でした、が! 実はこれで終わりじゃありません。なんと、サプライズがあります!』
にんまりと笑う白泉先輩の顔を見て、背筋にイヤなものが流れる隼人。
皆も何かを察したのか、にわかに体育館が騒めき出す。
今年の受験応募者数がこれまでになく多かったという話をしたのも、記憶に新しい。
果たして皆の期待を裏切ることなく、目当ての人物がステージに姿を見せた。
『新入生の皆さん、ご入学おめでとーっ!』
春希の登場に、爆発したような喝采が弾ける。
隼人にとっても、これはとんだサプライズだった。
てんびんコミカライズ7巻発売しました。よろしくお願いします。
また、カクヨムネクストで新作連載しています。
こちら、今なら大部分無料で読めるのでぜひ。




















