338.離れているからこそ
昇降口で沙紀と別れ、玄関口の掲示板で自分のクラスを確認し、2―Cへと足を向ける。新しいクラスの席は既に半分ほどが埋まっており、早速わいわいとお喋りの輪が広がっていた。
クラス分けがなされた新しい教室の顔ぶれは、当然のことながら去年と違う。月野瀬ではなかった現象に、少々戸惑いを隠せない隼人。
それから、春希の姿が居ないことにも。
その名前はクラス名簿にもない。
春希とはクラスも離れてしまった。
まるでどんどん春希と距離ができていることに、寂寥と焦燥を共に抱かせる。
隼人はそれらを振り払うかのように小さく頭を振り、改めて教室内を見回す。
顔ぶれが変わったとはいえ、全員が知らぬ相手というわけでもない。ざっと見回した感じ、3分の1は前のクラスと同じだろうか。
しかし去年までは別のクラスだったのに、よく見知った顔を見つけ、隼人は不思議な高揚と共に彼女へ声をかけた。
「みなもさん、同じクラスなんだ」
「隼人さん! そうみたいですね。これから1年よろしくお願いします」
「あぁ。それにしてもよかった、話せる友達が居て少しホッとしているよ」
「ふふっ、私もです。けど話せる友達といえば、その……」
みなもは歯切れ悪く、ある席へを視線を向けた。
そこでは席に突っ伏し、「えま……えま……」と絶望に染まった声を呟く伊織。
何ともいえない体たらくな姿の友人に、隼人は肩を竦めて答える。
「伊織はその、伊佐美さんと別のクラスになっちゃって……」
「あ、あはは……」
伊織は掲示板で恵麻と別クラスだと判明して以来、魂が抜けたようになっていた。隼人が首根っこ引っ張って、このクラスにまで連れてきた形だ。
もしクラスが別になっても会いに行くと息巻いていたものの、実際にこうして別れてしまったことにショックが隠せないらしい。
こればかりはどうしようもないと思うものの、新しいクラスで浮き立つ中、陰鬱な空気を撒き散らすのはいかがなものか。いつまでもこのままだと、二年生最初期の人間関係の構築にも支障が出るだろう。しかし、なんて声をかけていいかもわからなくて。
二人がどうしたものかと眉でハの字を作っていると、横から弾んだ声をかけられた。
「やぁ、隼人くんにみなもさん! 今年は同じクラス……って、どうしたんだい、浮かない顔をして?」
一輝だった。どうやら一輝も同じクラスのようだ。
神妙な顔をしている二人を見て不思議そうにしている一輝に、隼人とみなもは顔を見合わせ苦笑し、同時に伊織へと視線を促す。
すると一輝は目をぱちくりさせた後、伊織の呟きから事情を察する。そして眉根を寄せて、顎に手を当て考えることしばし。やがてやけに達観した表情を浮かべ、伊織に優しく話しかけた。
「伊織くん、伊佐美さんとは別のクラスになっちゃったみたいだね」
「恵麻がいなくなっちまった……うぅ、いつもすぐ近くにいた恵麻が遠くに行――」
「だけど二人の関係を深める、丁度いい機会だと思うよ」
「――どういう意味だ、一輝?」
一輝の言葉を聞き逃せないとばかりに、机からがばりと顔を上げる伊織。
伊織の視線を受け止めた一輝は目を細め、諭すように言う。
「すぐに会えない、そんな距離があるからこそ、次に顔を合わせた際には、よりよい時間にしようと思わない? それからいつでも会えないからこそ、次に会う時にはどんな自分を相手に見せようとか、己を研鑽したりも」
「む……確かにそうだな……」
「相手のことを思い、そしてまた会った時に自分はどうしたいかを見つめ直す。離れてしまったのは寂しいけど、ピンチはチャンスとかいうでしょ? そういった機会にするのもいいんじゃないかな?」
「あぁよく考えたら、めそめそした情けない顔ばかりしてると恵麻に笑われるしな!」
「それにちょっと離れたくらいで、どうこうなるような仲でもないでしょ?」
「おぅ、当たり前だ!」
そう言って伊織は鼻息荒く立ち上がり胸を叩き、いつもの調子を取り戻す。
元通りになった伊織に、隼人はみなもと一緒にホッと胸を撫で下ろすと共に、こちらに目配せする一輝にも気付く。
先ほどの一輝の言葉は、やけに隼人の胸にもすとんと落ちた。きっと、こちらに向けての言葉でもあったのだろう。
そのお節介めいた心遣いがありがたいやら、こそばゆいやら。
複雑な心境の隼人が気恥ずかしさ半分から肩を竦めて苦笑すれば、一輝はどこか不敵な笑みを浮かべて返す。
すると、ふつふつと胸に熱いものが灯る。
(っと、春希のことで気を揉んでばかりいてもダメだな)
隼人は少し腑抜けていた自分に、喝を入れた。
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