337.変わらぬ友人
「伊織、それに伊佐美さんも」
「恵麻さん、ありがとうございます!」
伊織と恵麻は正月以降も、一緒に登校するようになっていた。もし春希が急に顔を出せば、騒ぎになって困るだろうとの理由からだ。
こうした友人たちの春希への心遣いが、自分のことのように嬉しくもありがたい。
恵麻が沙紀の変えた髪型について「雰囲気全然違うね!」「慣れないから準備が大変で」と盛り上がっている中、伊織が周囲を見回して呟く。
「妹ちゃん、ホントにいないんだな。確か、あの名門校に受かったんだっけ」
「あぁ、今日は朝早くから出掛けて行ったよ」
「ははっ、なんかちょっと寂しいな」
「伊織……」
伊織がそんな風に思っていたということに、目をぱちくりさせる隼人。そして口元を緩め、皆に向かって明るい声を意識して言う。
「っと、そろそろ学校に向かおうぜ」
隼人が歩き出せば、すぐに他の皆も続く。
そしてしばらくしてはたと何かに気付いた様子の伊織が、隼人へ話を切り出す。
「そうだ隼人、今日もバイトのヘルプ頼めるか?」
「いいよ。俺も教習所代ですっからかんで、バイク費用稼ぎたいし」
「すまん、助かる」
そのやり取りを聞いた沙紀は、ふと疑問に思ったことを伊織に訊ねる。
「あれ、今日も……ってことはバイト、人手不足なんですか?」
「先月で卒業とか受験とかで一気に抜けちゃって、この時期はどうしてもな」
「それだけじゃなく、募集掛けようにも春希ちゃん目当ての人たちも多くて」
続いて恵麻が補足説明してくれ、なるほどと得心する沙紀。
春希はデビュー以来御菓子司しろのバイトに出てきていないものの、それでももしかしてと、一目見ようとやってくる客は多い。それだけ、春希は人気なのだ。
やがて俯き何かを考え込んでいた様子の沙紀は、片手を上げおそるおそる尋ねた。
「あの、それじゃ私がバイトに入るっていうのは……」
すると伊織がすかさず目を丸くして答える。
「お、いいのか!? 巫女ちゃんなら大歓迎、っていうかすごく助かる!」
「わぁ! 私もいつ頃合いを見計らって声を掛けようと思ってたし!」
恵麻もおどけた様子で歓迎すれば、皆からあははと笑い声が上がる。
その後、「あそこの制服少し憧れてて!」「忙しいときはホントきつい」「でも時給いいよね」とバイトの話で盛り上がりながら通学路を歩く。
やがて校門が近付いてくると、周囲に真新しい制服姿の生徒も増えてくる。沙紀と同じ、新入生だろう。
沙紀は彼らを見ながら少し硬い声で、ぽつりと言葉を零す。
「うぅ、緊張してきたかも」
その呟きを聞いて、隼人は伊織と恵麻と顔を見合わせ苦笑を零す。
なんだかんだ根は隼人と同じ、田舎者の沙紀のこと。見知らぬ人が大勢の中に1人で放り込まれるのには、不安もあるだろう。
その気持ちがよくわかる隼人は、慎重に言葉を選びながら声を掛ける。
「姫子、いないもんな。中学の友達とかで来る人とかいないのか?」
「仲の良かった子たちは姫ちゃんを始め、バラバラになっちゃって。ほのちゃんが受かってるけど……うぅ、同じクラスになれるといいなぁ」
すると今度は沙紀の言葉を聞いた伊織から、不安そうな声が上がる。
「そうだった、オレたちもクラス替えがあるんだった。うぅ……もし恵麻と離れ離れになったらどうしよう……っ」
一方恵麻はといえば、あっけらかんとした様子で伊織を慰める。
「その時は私の方から会いに行くから」
「お、オレの方から行くし!」
「それだと入れ違いになっちゃわない?」
「うぐ……っ」
揶揄い交じりの恵麻の言葉に、涙目になる伊織。その反応に、恵麻は満更でもなさそうだ。2人の力関係が窺える。
その様子を見て、お腹いっぱいとですといった顔で苦笑する隼人と沙紀。
ややあって隼人は少し迷った後、頭を掻きながら気恥ずかしそうに沙紀に言う。
「もし沙紀さんも何かあったら、俺らのクラスに訪ねてきてくれたらいいから。その、教室に馴染めないとかそういうこととかで」
沙紀は目を瞬かせた後、ふにゃりと頬を緩め、元気な声で返事した。
「はいっ、そうさせていただきますね!」




















