第38話 最後のチャンス
※
「メグル、感謝」
「良かったな、みんな無事で」
ラフィナの家族は、ロロに痛めつけられていたこと、そして食事も最低限しか与えられなかったことで疲弊していた為、ベッドで休んでいる。
俺に直接感謝を言いたかったようだが、回復を優先してほしいと伝えておいた。
「それじゃなラフィナ、俺はもう行くよ」
「……待って」
ラフィナが俺の服の裾を掴んだ。
「どうしたんだ?」
「これでお別れ?」
彼女は俺に上目遣いを向けて尋ねてきた。
その瞳はまだ行かないで欲しいと訴えていた。
「また遊びに来るよ」
「ほんと?」
「ああ。それにお前が望むなら俺の国を案内しよう」
「じゃあ私も遊びに行っていい?」
「ラフィナも転移を使えるのか?」
「異世界転移は無理だけど、ゲートを使う」
そういえば、ゲートをまだ閉じていなかったな。
『アル、あのゲートは閉じないと危険だよな?』
『当然だ。皆が自由に異世界を行き来などしていたら、簡単に世界のバランスが崩れる』
だとしたら、
「悪いがあのゲートは閉じなくちゃならない」
「……メグルは、私が嫌い?」
しょぼん……と、表情を暗くするラフィナ。
そんな少女の頭を俺は撫でる。
「そんなことない。ゲートを閉じる代わりに、ラフィナがこっちに来たい時は俺が迎えに来る」
「約束、してくれる?」
「ああ。お前は念話系の魔法は使えるか?」
「ん……」
「ならいつでも連絡して来い」
「わかった」
ラフィナは満面の笑みを俺に向けた。
「それじゃ俺は行くな」
「ん……また会おうね」
俺は頷くと直ぐに転移した。
向かったのはゲートのある丘の上だ。
そして、未だに開かれたままとなっていたゲートに手を翳す。
すると切り裂かれていた空間があっという間に閉じた。
「さて、あとは……」
続けて俺は転移した。
向かったのは地球でなく宇宙だ。
『悪魔王の下へ行くのか?』
『そうだ。あいつもあいつで色々と不憫だからな』
父親に存在を知られてすらいない。
どうしようもない不満を吐き出す姿は、非行に走ってしまう子供を見ているかのようだ。
まあ、それでもロロのしたことを許すつもりはないが、それとこの件は別の話だ。
『不憫か……ふむ、我にはわからぬ感情だが……』
アルはそうだろう。
最高神――全ての創造主にとっては、大抵のことは些事に過ぎない。
だからこそ、
『これから俺と共に学んでいけばいい』
『学ぶ……か。ふふっ、メグルよ……貴様は本当に面白いことを言うな。最高神たる我に、さらに成長せよというのか?』
『ああ。創造主であるお前は万能の力を持ってるだろうが、それでも『人の基準』では完璧ってわけじゃない』
『我を人の基準で見るか。だが人間とは本当に我を飽きさせぬよ。どこまでも進化してくる。いや――お前ほどの力を得た人間がいるのなら、神化とすら言っていいかもしれない』
『人は神様にはなれないよ。もしそうなったら、もうそいつは人じゃない……俺はこれからも、『人の基準』で計れる人間でいるさ』
アルと話しながら、ロロを探す。
微かに流れ出る魔力を頼りに。
「……見つけた」
ロロは動く力すら失っているのか、ただ宇宙を漂っていた。
「完全治癒」
俺は直ぐに治癒魔法を使って、ロロの傷を完治させる。
「ぁ……お、お前は……」
「よう」
「ぐっ……僕は負けたんだな……それも手も足も出なかった……多くの悪魔を使いこれほどの力を得たはずなのに……」
きっとロロも無限に思えるほどの時を過ごしてきたのだろう。
「ロロ……何度も言うが俺はアルじゃない」
「もしお前が最高神でないと言うなら……なぜこれほどの力を持っている」
「お前と同じだよ」
「同じ?」
「俺も少し前までは最高神をぶっ飛ばしてやりたいと思ってた。だから――強くなった」
勿論、元の世界へ帰ることが一番の目的だった。
「あなたも僕と同じなのか……」
「動機は違うがな」
「……あなたは最高神アルティムと戦ったのか?」
「いや……だが相対した時に確信した。もし戦闘になったなら互角以上には戦える」
「あのアルティムと……」
ロロの俺を見る目が変わっていた。
瞳に色濃く映る感情は尊敬の念。
「お前が強くなったらアルも喜ぶと思うぞ。あいつはそういう奴だから」
「……あなたはアルティムにとってなんなのですか?」
「友達だ」
「友……最高神に……友がいたなんて……」
「あいつ曰く、唯一らしいけどな」
「それだけ力を認められたということなのでしょうね」
「まあな。だから俺に勝てるくらい強くなれば、あいつにも勝てる可能性があるってことだ」
「真向勝負では永遠に追いつけそうにありませんが……一つ閃きました。僕が勝てないのなら、あなたの力を借りてアルティムと戦えばいい」
「言っておくが、俺は直接は手を貸さないぞ?」
ただ、もし力が欲しいというのなら訓練に協力してやるくらいは――
「無理にでも貸してもらいますよ。あなたは地球に大切な人たちがいるのでしょ?」
「は?」
「なら――」
言ってロロは姿を消した。




